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(84)切なくなったり、哀しくなったりせずに。

年末の、須藤さんとの強制終了から、

じぶんの中では永遠にも思える失恋の痛みの中で、

少しでも前に進もうと、

お寺の護摩焚きに行ってみたり、

個人的に写経をしてみたり、

部屋のすべての引き出しの中身を出して洗いざらい断捨離したり、

ときおり発作のようにおもいきり泣いたり、

浄化グッズをひたすら集めたり、

ひとりで海に行ったり、山に行ったり、

できるかぎり、じぶんを整えようとがんばっていた。


そうしてひととき、須藤さんとの甘い時間はほんの一瞬だけ、もどってきた。

けれども、終わりは、終わりだった。

それからはもうお互いに、連絡を取り合うことはなかった。



そんな中、

わたしの失恋の心のすきまに、フェードイン気味に現れた9歳年下の咲也が、

https://note.com/kanoko_2020/n/n6ca561365cf8?sub_rt=share_pw

あきらめないでなんどもアプローチをしてくれるので、

わたしはひとまず、

それに乗ってみることにした。


最初はおそるおそる彼を受け入れながら、

まあたぶん、この勢いも最初のうちだけだろうし、

1、2度身体を重ねたらこの人も、狩りの本能を達成して次に行くのだろう、

そんなふうにおもって、

こちらも失恋のすきまの癒しとして、なんとなく入り込まないように気をつけながら、何度かデートを重ねていた。


そうしているうちに、

どんどんどんどん、

咲也に、心が傾いていく。


こんなにもまっすぐに恋の情熱と安心を注いでくれる人に、わたしはこれまで会ったことがなかった(夫はもちろん家族として愛情をくれているけれど)。

咲也は、わたしの、あきらめきった乾ききった哀しい心に、

こわがらずに愛を注ぎ続ける。


わたしはその愛情を受けて、

心から、泣けてくる。


そうして、これまでどれだけ、恋について、愛について、わかりきったふうにあきらめ続けてきたのかを知る。


咲也の存在が日に日に大きくなるにつれて、

須藤さんへの想いは薄らいでいく。


こんなふうになるなんて、

想像もしていなかった。


咲也は、

わたしと夫が長年のレスでシェアハウスのルームメイト状態なことも、

成人している息子がいることも、

7年ずっと好きだった存在がいて、最近その関係が終わってしまったことも、ぜんぶ知っている。


それでもまっすぐに、

かの子さんが好きです。

好きになってしまいました。

これからもずっと続けていきたいです。

という。


わたしはとまどいながら、

ありがとう。今は受け取るね、と、答えた。


この先がどうなるのかは、わからない。
 

けれども今わたしは、

はじまったばかりのこの恋を、大事にしたいとおもっている。

できれば切なくなったり、哀しくなったりせずに。

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