見出し画像

弱い人間

私の人生そんなに悪いものじゃなかった。
たくさん笑って生きてきた。

だけど、嫌な記憶が溢れて涙に変わる。
あぁ、これが私の人生かと

どこで選択を間違えたんだろう…って

いや、「間違えた」というほどの選択もできていないんだけどね。





桜が風にのって落ちていったあの日
期待と不安を抱えた大きなランドセルの肩ひもをギュッと握って歩く。
まだ汚れを知らない女の子のつま先は前へ前へと進む。
教室には少人数の子どもたち
自分の名前の紙が貼ってある机を見つけ荷物を置く。
「初めまして夏菜子です!お名前は?」
そう声をかけてきたのは私よりも少し背の高い女の子だった。
「は、初めまして優菜です。」
「優菜ちゃん友達になろう?」
「うん!」
「よろしくね!」
「うん!よろしくね!」

人見知りだった私は声をかけてもらえたことに喜ぶと同時に
友達になれたことがすごく嬉しかった。



「ごめんね、付き合っている人がいるから」

休み時間、突然言われた言葉に私は戸惑った。
「え?」
「だからごめんね」

ヒソヒソヒソ…
ザワザワザワ…

廊下で言われた言葉よりも周りの人間の反応が怖くて
私は走って走って走って…逃げた。
意味が分からなかった。してもいない事実を
無罪な私を笑うものが怖かった。

たどり着いたのは音楽室
そこにも数人の子ども。

きっと誰かにこの気持ちを知ってもらいたかったんだと思う

私は音楽室に着くなり大粒の涙を流した。
「え?優菜大丈夫?」
そう声をかけてくれたのは、急にさっき振ってきた男の友達
私の腕を掴んで廊下に連れ出してくれた。
私は座り込み
「夏菜子、ちゃんが、やった」
「夏菜子ちゃん、がやった」
と一生懸命に伝えた。
「え?夏菜子ちゃん?え?」
と言いながら近くに先生がいたようで
「先生!泣いてる!なんか夏菜子ちゃんがやったって言ってる」
と伝えてくれた。


私はこの「手紙を入れた犯人」が最初から分かっていた。
理由は一つ。夏菜子という女は卑怯者だから



夏菜子には保育園から一緒の「光樹」という友達がいる。
光樹はスポーツ万能で頭が良くておまけに顔もいい。
だからなのか分からないが、光樹と仲良くし始めた私に嫉妬していたんだろう。

夏菜子は私をいじめるように、クラスの中心人物に言った。

「おいアトピー!触るな!うつるだろ」

衝撃だった。
私の住んでいる世界はこんなものなのかと
周りと違うだけでどうしてこんなこと言われなくちゃいけないのか
悲しくて苦しくて何度も泣いた。

慰めてくれる人は誰もいなかった。

「大丈夫?」
そう声をかけたのは夏菜子だった。
「…うん」


なんで…なんで私は言えなかったんだ。
「お前がやったんだろ?」
「他人に言わせるなんて卑怯者」
「いい奴ぶりやがってなんだお前」
「お前なんか…」

っていいたいのに心が弱くて言えなかった。
私は弱い。弱い。弱い。


友達というものが怖くて高校生の頃、孤立した
心を開くことが難しかった。

バイト先では足の悪いハゲかかった店長に
陰口を言われていた。


高校では先生に頼まれた仕事をこなし、
休み時間クラスメイトに勝手に机を使われても何も言わず人気のない階段で
お昼を過ごす。

バイト先ではやるべき仕事をこなし、嫌な客がきても笑顔で対応した。
店長が困っていたらシフトを多く出していたのに


なんで?
なんで私はこんな仕打ちをされなくちゃいけないの?

あーあ
嫌だこんな世界
なんで私は生まれてしまったの

ガラス越しに下を見ると走る車、歩く人、信号、木…

無感情


みんなはさ、
「もし自分が死んだらどうなるんだろう」
って考えたことある?

私はね何回もあるよ
だけど出来なかった
怖かった悲しかった
「自分が死んだら」なんて考えるだけで涙が出て苦しかった。

それでね、たくさん泣いて気がついたら朝になってるの。
苦しかったことも悲しかったことも忘れて
今日になってた。

また1日が始まる。
今日こそいいことあるかな
って何の根拠もないのに光を探してた。


ねぇ、私は強くならなくちゃいけないのかな?


私は弱いから、
どんなに酷いことをしてきた相手にだって助けを求められたら
手を差し出してしまう。

私は弱いから、
人を傷つけることなんてできない。

私は弱いから、
戦うことから逃げてしまうんだ。


だけど、絶対に自ら死なない。
私は弱いから。



花音







この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?