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京都市長選 福山和人は山を動かすことができるか

2020年最初の大型選挙が京都市長選

 2019年末は国政において、安倍首相の「桜を見る会」問題、自民党の秋元司衆院議員の逮捕、カジノに関わる自民・維新など複数国会議員の疑惑で暮れた。一方で消費税10%増税も相まって、市民の生活改善を政治に求める声は高まっている。

 こうした中、2020年最初に行われる大きな選挙として、2月2日投票の京都市長選挙が注目されている。
 現職で4期目をめざす門川大作京都市長(自民党京都府連、立憲民主党京都府連、国民民主党京都府連、公明党、社民党京都府連推薦)、新人で2018年の京都府知事選に立候補した福山和人弁護士(共産党、れいわ新選組、新社会党推薦、緑の党京都府本部支持)、新人で前「京都党」代表の村山祥栄京都市議の、無所属3氏による三つ巴の構図が予想されている。


951票差だった12年前と同じ構図

 注目されているのは、この3つ巴の構図は12年前、2008年の京都市長選と似た様相なのだ。12年前は、当時現職だった桝本頼兼京都市長が不出馬を決め、後継に市教育長だった門川大作を擁立し、自民・民主・公明などが推薦した。一方、共産・新社会は早くから中村和雄弁護士を推薦して対抗し、そこに市議だった村山祥栄が争いに加わった。

 当時、国政において共産は自民・民主の二大政党に埋没しており、自民・民主・公明の支援を受ける門川が楽勝だと見られていた。
 だが、門川が特定団体の温泉旅行に補助金を支出した際の責任者であったことや、選挙前に京都市教育委員会が門川の著書1,400冊(約200万円)を公費で購入し、団体や個人に大量に配布していたこと(後に裁判で掲載されているインタビューなどは架空のものであったことも明らかとなった)、教育長時代に創価学会の会合に何度も参加し、その意見を教員研修に反映させていたことなどが問題となる。一方、京都市政を監視する「市民ウォッチャー・京都」事務局長として、京都市の公金不公正支出を13億円も返還させるなど活躍してきた中村が急速に追い上げ、蓋をあけると951票差の大接戦だったのである。

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 京都新聞の出口調査によれば、中村は無党派層で1位(39.3%)、また20代でも1位(38.6%)であり、門川を推薦した民主党支持層の2割を獲得しており、投票率によっては逆転の結果になったと考えられたのである。

 この僅差に震えた門川は、当選後、青年層対策として京都市に雇用の相談窓口を設置し、2期目の公約には中村が掲げていた「公契約条例」を真似た「公契約基本条例」の制定を入れるなど、対立候補の政策と似た政策を掲げることで争点をつぶす戦術をとり、3期目まで続投してきたのである。


出遅れた福山和人に勝機はあるか

 門川に対抗する福山和人が立候補表明したのは、2019年11月11日。村山、門川より遅く、投票日まで3カ月を切っていた。これまでの革新無所属候補は、遅くとも前年9月には立候補表明しており、951票差だった2008年の市長選について言えば、中村和雄は前年5月には立候補表明して活動を開始している。
 今回の市長選に向けて市民が参加して政策や候補者を論議してきた「こんな京都がいいなあ市民の会」が、福山の確認団体「つなぐ京都2020」の母体となったとはいえ、出遅れ感は否めなかった。

 だが、福山の”候補者力”と知事選に立候補した一定の知名度に加え、2019年の地方選や参院選で実践を積んだ市民が各地域で活動を始めたことでエンジンがかかり始めた。あるマスコミ関係者は、「村山には勢いがなく、門川と福山の対決構図になってきた」と語るが、福山に勝機はあるのだろうか。


カギを握る無党派層と旧民主支持層

 2018年京都府知事選で無名の新人だった福山は、対立候補の西脇隆俊に対して府内で得票率44%、京都市内では46%まで迫った。
 
タウンミーティングで聞いた意見を参考にして、政策を更新していく市民参加の手法が共感を呼び、京都新聞の出口調査で無党派層の過半数、立憲民主党支持層の6割近くが福山を支持した。

 2008年市長選の中村や2018年知事選での福山が接戦に持ち込めた要因は、推薦を受ける共産支持層を固めた上で、無党派層と旧民主支持層を獲得したことである。2008年2月18日の京都新聞が、「中村氏は推薦した共産支持層の9割を固め、無党派層から最も多い39.3%を集めた。民主支持層の約2割にも食い込み、接戦の原動力となった」と分析しているとおりだ。

 2019年の参院選で京都市内の得票を見ると、比例代表で立憲民主・国民民主は合計9万4千票を獲得している。昨年末に開かれた立憲民主党京都府連合の大会で、府連会長だった福山哲郎参院議員は会長を辞任し、政党としては異例の会長空席になったままである。無党派層に加え、これら旧民主支持層の票をどこまで福山が取り込めるかどうかが浮上を左右する。

れいわ新選組の存在

 今回の市長選の特徴は、2019年参院選で初登場した国政政党・れいわ新選組が福山の推薦を決めたことである。これまで京都の首長選は、新社会党や緑の党が推薦・支持していたとしても「共産VS非共産」の構図で語られることが多かったが、れいわの福山推薦でバリエーションが広がることになる。
 れいわの山本太郎代表が、俳優時代から京都市長選や京都府知事選で応援演説をしていることは、以前の記事(こちら)で書いたことだが、山本は2019年12月14日に早速、福山の応援に駆けつけている。

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 れいわは参院選の比例代表で京都市内において、約3万票を獲得した。特に共産と村山祥栄がともに強い地盤を持つ左京区はれいわの比例票が京都府内トップの得票であり、2008年市長選の際、左京区は村山が得票1位だったことを考えると、れいわが福山を推薦する意味は大いにある。また、福山を応援する市民の中には知事選や市長選での立憲民主の対応に失望して、れいわに期待する人たちが多い。

 同時に、山本太郎らが催している「消費税減税研究会」が排外主義的言動を繰り返す高橋洋一を招いたことや、野党共闘に「消費税5%への減税」の条件を持ちこみ、立憲民主に批判的な態度に、旧民主支持層の支持を見込めなくなるのではないかという懸念や市長選をれいわの支持拡大に結び付ける意図があるのではないかという声がある。
 こうした中で、一時、福山と山本太郎の連名ポスターが検討されたものの「つなぐ京都2020」内で異論が出て実現しなかったことがあった。政党が主役ではなく市民が主役の選挙であり、推薦政党は対等、れいわだけ特別扱いをしないという判断だったと聞いている。

 門川陣営内において、立憲民主が積極的に支援活動に燃えているわけではない。実際に、ある立憲民主党候補の後援会関係者は、「門川はだめだ」と語っている。だからこそ福山は、立憲民主や国民民主への批判をするのではなく、「いつでもウェルカム」と呼びかけているのである。この姿勢が支援者にも求められている。


選挙戦とともに通常国会が始まる


 首長選は多くの場合、無所属候補の争いとなる。複数の政党や団体が候補者を推薦・支持することは陣営・支援者の多様さ、多彩さにつながるし、この利点を活かすことは必要だ。その上で政党の組み合わせもさることながら、市民に目を向けない限り、勝利することはありえない。

 昨年、京都の観光公害や景観破壊に対して寺院関係者や老舗界隈など33氏による「京都を愛するアピール」が発表されたが、交通混雑や民泊被害、植柳小学校跡や仁和寺前へのホテル建設の問題などで門川に不満を持つ保守層に、「インバウンド呼び込みの観光政策を見直し、住民の暮らしとバランスのとれた観光に」と訴える福山が支持を広げる可能性がある。

 福山の攻勢に対して、早くも門川陣営からは「極めて厳しい選挙」(門川)、「必ず逆転勝利します」(公明市議)などと引き締めを図る訴えが始まっている。福山陣営に人々が結集して、観光や景観、くらしや町づくり、教育や子育てなどの問題で政策が届けきれるかどうか。
 市長選の告示直後には、通常国会が始まる。この市長選で福山が勝利することは当然、国政にも影響を与えるだろう。寒い冬の京都に注目である。