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証言2:町の薬家 「長い間薬剤師として患者として待ち望んでいたドクター」

岩手県の町医者 松嶋大を観察するブログ。
2回目は「そもそも医者としてどうなのか」を書こうと、薬剤師の若山利夫さんにお話を伺いました。

松嶋大が「こころの友」と呼ぶ若山さん。てっきり、町医者 松嶋大(46)と同じ世代の方で、薬剤師として共に働いているのかと思いきや  

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講演会を聞きに行った後、若山さんは町医者松嶋大が開いているサービス付き高齢者住宅を訪ね、その後には患者としてもかかるようになったそうです。


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以下、恋する乙女…じゃなかった若山さんの証言です。
若山さんの文章とともに、ご趣味で撮られた写真をどうぞ。


変な名前の診療所

岩手県盛岡の仙北町「なないろのとびら診療所」。
「患者バカの町医者」と自称する松嶋大という男の診療所です。

町医者というのは、よろず相談受付所みたいなところがあって、いわゆる「総合診療医」というのかな。大先生(名前が大だから、「大先生」と呼んでいます)は、本当になんでも診るんです


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(写真:上記の八幡平のサービス付き高齢者向け住宅共有スペースで談笑)

普通、お医者さんというのは看板に専門の科を標榜するのが一般的で、その科しか見ない人もいるものですが、大先生の場合、患者が高齢で認知機能が衰えている方が多かったら認知症にもとことん取り組む。過去に診た患者さんの臨床経験と医学的情報を勘案して、その人その人に合った薬の処方を出し、対処の仕方をアドバイスするようです。

心臓疾患を抱える私ですが、70歳を超えて最近は物忘れもひどくなって、顔と名前が一致しない…いつも使っているものなのに、名前がなかなか出てこない…なんてことが増えてきました。そこで、講演を聞いてから気になっていた、なんでも相談できるこの町医者に診てもらうことにしたのです。


私の心臓疾患については過去の経験から学ばれたことを話していただき、お勧めの治療法を示していただきましたが…私が難色を示すとその理由を聞いてくれて、その後も根気よくご自身の治療方針を話してくれています。

お医者さんというと、普通偉そうな人が多いものですよね。でも大先生は、患者としても話しやすいし、自分からも色々と話してくれるから、こう言ってはなんですが「お友達」みたいな感覚で接することができるんです。

私は、人間の体は変化するものだからいつまでも同じ治療でよいとは思っていません。そのような時にも、きちんと相談にのってくださる。町医者は私にとって貴重な存在です。

患者の気持ちに寄り添ってくれる、といったら綺麗事でおしまいだけれど、患者に対して怒ったりもする。病気のことに関しては、歯に衣着せず話してくれるから、私にとってとても信頼できるお医者さんです。

でも、合う人もいれば、合わない人もいるんでしょうけれどね。
そして、そんなだから診療時間は長い。

患者の物語を聞いてくれ、手早く自身の見立てをわかりやすく説明。そして町医者の物語が入るので、当然長くなる。1時間はかかるかなぁ。だから、この変わった名前の診療所では、3時間待ちはないにしても30分~1時間は覚悟しておいた方が良いと思います。

私は、待ち時間は気にしません。だって、私にに時間をかけてくれるように、他の患者さんにも時間をしっかりかけているんだな、と思うからです。

それに、退屈しない場所なんですよ、この診療所。カフェが併設されていますし、「おちゃのま」と呼ばれる、畳にちゃぶ台を置いた、いつでも立ち寄れる地域のスペースもある。そこにたくさんの本が置いてあるんです。リラックスして読めるし、私はまだ試していませんが、寝転んで読んでしまっても良いみたい。とにかく病院くさくない病院なんです。一度ちょっと覗いてみてほしい素敵なところです。

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(写真:手前カフェと駄菓子屋スペースの後ろに「おちゃのま」。奥右がし診療所への扉)

この診療所の他に、大先生は訪問診療も精力的にこなしています。盛岡や八幡平だけでなく、相談を受けて宮古まで行ったり…私は彼のおっかけとして、時折一緒に行くのですが、知れば知るほどに町医者松嶋大という人間を好きになっています。



私がゾッコンな理由

この町医者に「それほどまでに」と言われるくらい私がゾッコンなのは、私が町の薬家として長年にわたって医療に携わる中で思い描いてきた「こんな医療者になりたい」という理想を具現化しているように思えるからです。

それは「医者がトップにいて、その脇役としていろんな医療者がいる」というものではなく、「医者も、そのほかの医療者も、患者さんやその家族まで含んだチームが、その患者のためにそれぞれの特性を活かしきって協働する」というもの。

チームのトップに誰がいるといわけでもなく、まとめ役はドクターでも、そのほかに適当な人がいればその人でいい。ただ「目の前の人に最善を尽くす」という心を共有しての協力して動く。

それができる人は、意外に少ないと思うんです。町の薬家になる前は大きな病院に勤めていたこともありますが、なかなかいない。けれど、町医者松嶋大は、それができる。


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スタッフやケアマネージャーさん、そして家族と連携をして、粘り強く治そうとするんです。引き受けた患者さんはなんとしてもよくしたい!欲望に近いものを持っている


これは私が長い間、薬剤師として患者として待ち望んでいたドクターの姿であり、医療の形なのです。大先生は「所詮、医者は患者さんを治してなんぼです」と口癖のように言っていますが、謙遜のようにも聞こえますが、覚悟のようにも聞こえます。

いやだとごねる患者を説得してでも自分が良くなると思っている治療法を勧める。一見強引だけれども、よくすることに患者も協力してもらうというのが彼の治療方針なんですね。患者をよくするために全力を尽くす。勉強が足りないと思えば専門の書籍はおろか最新の医療機器まで・・・いや医療と関係ないと思われがちなサプリメントからジュースを絞る器具まで買ってしまう。それが一人の患者のためであっても。

めんどうくさい医者
と言ってしまえばおしまいなんですけどね。

とはいえ、町の薬家の私の領域である処方に至ってはシンプルを自認していて、町医者の持っている知識を動員して…それで足りないときは信頼する薬剤師(私ではない。ビジネスの関係がないからこそ、良い関係を保っていられる様に感じていますし、忌憚ない意見もいうことができると思うんです)の力を借りて処方を考案する。その処方内容は多くの薬局ではびっくりするような内容だと思います。

一般的に、巷の多くの処方内容は煩雑になっています。種類が多くなって何が患者に効いているのかわからなくなる傾向にあります。1つ1つの薬を見れば、確かに症状には合うかもしれません。しかし、薬には効用だけでなく他の顔もあるものです。それに種類が多いと、お互いに頑張る場合だけでなく、邪魔しあうことも多々あり、相互に頑張りすぎた結果に別の症状が出ることも多いのです。そういったことを正確に把握することなしに、その時の症状に合うであろう薬を追加することを繰り返していくうちに十数種の薬を飲んでいくようなこともあります。

町医者はそういった薬の使い方を避け、丁寧にその選別を行うのをスタイルとしています。結果、処方はかなりシンプルなものとなり、症状が改善するケースが多くあるようです。認知症の患者さんにも、その手法を使い、その人らしさをうまく活かして暮らしやすくするよう心を砕いているのです。長い時間をかけた地道な取り組みと辛抱が必要となる作業です。



町医者 松嶋大の場合。

若山さん

私の勝手な気持ちですが、こういった医者が一代、彼1人で終わって欲しくないんですよね。だから後継者を作ってもらいたい…って思います。どうするのかは考えていませんが。

宮古にも診療に行っている話は先にもしましたが、介護、福祉の現状を憂いて、実際に自分で赴いたり、八幡平には高齢者向けの住居も個人で営んでいる…体がいくつあってもたりないのに、目の前にいる人たちを助けようと奔走しています。

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医学のことだけじゃない。自分を変えることに全く抵抗がない。すごいことだと思います。

彼を知ってから「なんだか若山さん、楽しそうになったよね」と友人たちに言われるようになりました。大先生と喋っていると私にはとても良い刺激になります。これからも、良い刺激であり続けてほしいと願っています。


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後書き by黒澤

若山さん、アツすぎる証言をありがとうございました。

提灯記事に思われるかもしれませんが、このブログは、松嶋大本人のちょっかいが出ないブログでございます。

第1回目の「Twitterでヒーヒー言ってたら、600km先の正社員枠をもらえた」を一応本人に見せたところ、「なるほど、こう来ましたか」と言って苦笑していたので、認知はされたのでオフィシャルになりましたが、「なんか適当に書いて」という当初の願いどおり、私の独断と偏見によって適当に書いて参ります。適当すぎて前回からだいぶ経っちゃってるけど文句は言わせません。ええ。「適当」なんですから。

提灯記事っぽくなりすぎていて、「なにか、ちょっと不完全だなって思うところも教えてくれませんか?」と若山さんにお聞きしたので、その答えも載せておきたいと思います。


糖質の取りすぎを患者に注意する割に、結構お菓子をぱくついている。そのためか最近太ってきているような気がして、ちょっと心配」とのことでした。


「ちょっと心配」というところが優しい…私の質問のゲスさが浮き彫りにされるような気持ちになりますね。

ちなみに、うちの両親にお願いしている訪問診療医(松嶋さんの紹介の方)も同じです。お菓子を毎回ぱくついて、最近太ってきてというか巨大化がとまらず、認知症の母すらも心配しています。もしかすると訪問診療医っておもてなしを受けて太ってしまうことが多いのかもしれませんね。

ホームヘルパーの方やケアマネさんは「食べられない決まりなので」という方も多いですが、しっかりと話をしないといけない職業だし信頼関係が大切ものですものね。私の母も、先生の餌付けが好きなようです。

さて、次回は今回の話にも出てきた八幡平に個人で所有するサービス付き高齢者向け住宅について知っている人に話を聞いてみたいと思っています。



若山さん、ありがとうございました!
(そして、ふざけて書いてしまってごめんなさい。許してください。)


<書いた人>
若山利夫
福島県郡山出身。病院薬剤師として長年働いたのちに町の薬家に。趣味は、人を笑顔にすることで、ドライブ、オーディオ、料理など多岐にわたる。その1つ写真は個展も開いている。

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