これ「君たちはどう生きるか」読んだら分かったりするもんなんですか？

美術がすごいことはわかる

本当にすごい。ジブリ展を見に行った帰りも思ったんだけど現実というか私の目ってめちゃくちゃ解像度が低いので映画館とか構成要素が少なくてレイヤー（絵を描いたことがないので勘でこの単語を使ってる）が少ない。

産屋の布の厚みとか映像が出てきた時に話がそれどころじゃなくなった。大きなホールの機械が巻き取るタイプの幕に触ったことある記憶が蘇ったし、多分どれだけ拡大しても刺繍の目が見えると思う。夏子さんの部屋とかひめさんの部屋の壁紙のかわいさとかベルベットの質感もすごくて、生きてる部屋だった。
ジブリに出てくる「自室」って「この部屋に住みたい」とか「家にこの空間が欲しい」とは思わないんだけど「この部屋に住んでる友人がいて欲しい」はめちゃくちゃ思う。あの統一されてこだわりの溢れた部屋を作れる人ってすごい魅力的だと思うしあの部屋に招かれたい。

つまり夏子さんの友人になりたい…！！
息子に隠れてタバコを吸ってる夫人の友人になって愚痴とかこぼされたい…。そもそもまひと君の夏子さんへの認識が「お父さんが好きな人」なの、彼女を母親と呼ぶことへの抵抗もあるけど「父さんは夏子さんが好き」って認識するだけの愛を父親の言動から感じ取っているのがジブリ作品の主人公ぽかった。感受性が豊かで他人からの感情に対して鈍感になれないから世界が綺麗で他人が怖くて口を閉ざしがちな主人公、めちゃくちゃジブリ主人公っぽい。

この間スパイダーマンバースを見て向こうの芸術に圧倒されてきたところなんだけど、やっぱりジブリ見ると「日本の空気」をすごい感じる。スパイダーマンバースもジブリもかなり極端なのはそう。
空気の透き通り方とかはジブリで育ってるから素直に受け止められるけど、自然とか金属に対するかなり解釈の強い表現だなって改めて思った。水が丸いのも火が平坦なのもかなりクセが強い。

同人版

そういう感じだった。なんか特に含みとかはなく、好きなことを好きに描いた手癖の作品で、ストレートに「君たちはどう生きるか？」を聞かれてびっくりした。途中にラピュタっぽいとかナウシカっぽいシーンとかいっぱいあったと思うんだけど「セルフオマージュ」っていうより「こういうシーン、大好き！」って感じがした。過去作品を引用するような無粋さがないってのもある。そこにあるものがそのままの意味でそこにあって、全てがキャラクターとかストーリーを表してるので比喩も隠喩もない気がする。わかりません、これは私の教養の問題のような気もするな…。

大叔父さんがいなくなって、彼の積み木が壊れるシーンでお母さんが「ありがとう！」って感謝を告げるシーンがあったんだけどあれは逃がしてくれたことへの感謝だし「戦いばかりしてこのあと火に包まれる世界に帰るのか？」という問いかけをできるおじさんが「綺麗な世界」のことを信じて作り続けていたことが、これから世界が暗くなることを予見してる子供達にとって救いだし望みでそういう生き方を体現してくれたことへの感謝のような気がした。

「それは石ではなく墓のような悪意だ」みたいなセリフがあり、「それを分かる君にこそ受け継いで欲しい」って返答があって、言ってしまえば世界を構成する要素はただの積み木でどうしたって悪意だけどそこから綺麗な世界を続けることをおじさんはやめなかったわけで、あの空に浮かぶ中が燃えてる石のような炭の塊みたいなものから綺麗な世界を作ってた大叔父さんのこと結構好き。本を読みすぎて気が狂った親戚、みたいなキャラクターがみんな好きだし、世界に生まれた望まなかった要素（ペリカンとかインコとか）をそのまま受け入れて「愚かな青鷺よ」みたいな呼び方してるところも世界を信じてるけど愛してない感じがあって世捨て人ムーブとしてめちゃくちゃ良い。

青鷺のことは好きですがあいつをポスターに据えるのは何？と思います。メインキャラクターだし、相棒だけどさ…。

「じゃあな、友達」までの一連の会話に「君たちはどう生きるか」が詰まってた気がする。戦時中に書かれた児童小説であり、まひと君とは記憶を少しだけ保持した自分かもしれず、もう名前も思い出せない友人を振り返るチャンスで、由来の知らない机の中の石。みたいな。最後に全部の答え合わせが来てびっくりした。

でもわらわらでグッズ展開したほうがいいよ。

キリコさんめちゃくちゃ良かった。
墓を開けてしまったシーンで地面を燃やして祈りを捧げるところ、やっぱり弔いとは煙なんだなって思って、直前にヴァチカンのエクソシスト見てたせいもあるんだけどかなりすんなり受け入れられる死生観で、ジブリだし仏教だな〜と思った。

面白かったし画面が美しかった。宮崎駿のやりたいことぜーんぶ詰まってて、これを切って貼って別角度から見たりするとこれまでのジブリ作品なんだろうな〜！！