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田舎に留まろう

ベトナムに来て1週間が経とうとしていた。そろそろ子どもの絵を集めに行かないと、ただローカルフードを堪能しただけで旅を終えてしまいそうだったので動き出す事にした。目指す先は面白い子どものいそうな田舎。宿泊していたカントーからゆらゆらバスを乗り継ぎ、隣の都市ロンスエンとの間の地域が農村っぽかったのでそこに立ち寄ることにした。綺麗でクッションの効いた座席のバスは本数が少ないのに問題があるものの、思っていたよりもずっと快適だった。街を抜け、窓から見える空が少しずつ広くなっていき、そこからさらに進んでいくと、あたり一面が鮮やかな緑色の畑になったのでバスを降りてみることにした。

僕は都会で生まれ育ったので田舎の風景に少し憧れを抱いているので、こういう畑景色?田舎ビュー?にうっとりしながら人のいそうな場所に向かってみるが、まあいない。舗装された道路は一本道で他に逸れる道はなく、星の数ほどの原付バイクが僕を追い越していく。たまに会う人はその道沿いに住んでいるのか、カフェとか食べ物を売っているのかよく分からない人たちだけ。10分ほど歩くと、大きな建物の立ち並ぶ地域にたどり着いた。そこは村のような生活感はなく、後で調べて分かったことだが、そこは裁判所や市役所だったようだ。ただ、立派な公園を見つけたのでそこで出会った子どもに絵を描いてもらう事にした。しかし、どれだけ待っても子どもは全然来ない。来る気配もない。子どもどころか人すら通らない。途中スコールに遭い、同じ屋根で雨宿りしていたおばちゃん軍団にジェスチャーで”こっちは何もないよ”と伝えられ、”子どもは来る?”とジェスチャーで返したら1ミリも理解されず、意思疎通の出来なさに困った僕らは互いにケラケラ笑い合うだけだった。

雨が止んだのでこの場所を諦めて街へ向かうことにした。さっき降りたものと同じ行き先のバスがこの道を通るはずなので、じっと来るのを待つ。バイクタクシーに声をかけられるので、僕は「バスがいい」と断る。このやりとりを10000回くらいやっていたら1時間以上経過していた。もう来る、もう来ると思って待っていたところ、バス停の向かいに住むおじいちゃんが僕にこう言ってきた。

「◎●□☆!!!」

なるほど。分からない。

おじいさんが持っていたパンフレットを指差すと、そこに僕が読める訳のないベトナム語たちが行儀よく並んでいた。程なくしてバイクが僕らの前に止まると、おじいさんと運転手で何か話をつけていた。どうやら、おじいさんは来ないバスを待つ僕を心配してバイクタクシーを手配してくれたようだ。僕はめちゃくちゃお礼を言い、バイクで街まで連れてってもらった。お金を払おうとしたら、なんとそのおじいさんが払ってくれていたとのこと。

自ら田舎に赴き、成果も得ず苦労し、人に迷惑をかけただけの日だった。おじいさんに感謝の言葉を伝えるにはもう一回バイクタクシーに乗らなければならないので辞めておくが、この日自分が親切にされた分を他の人に返すことで還元できたらいいなと思う。



プロフィール 北村幹(きたむらかん)
1994年生まれ
大学卒業後、都内で保育士として大活躍。
国際協力に興味があり学生時代はアジア、アフリカにて幼児教育のボランティア活動を行い、何年も経った今でもその熱はまだある。
好きな言葉は「源泉掛け流し」と「おかわり無料」。
インスタ:https://instagram.com/kantabiworld

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