引っ越してきて1週間。

新居での散髪をしようと調べると、口コミが星5のところがあった。

『なんでも言った通りにしてくれる』とのこと。

シックな外装で、カットのみ1500円。

平日の午前11時なので客は誰もいない。

というか誰もいない。

まぁ入るかと入ってみると、奥から清潔感のある40代くらいのいわゆる床屋って感じの人が出てきた。

愛想も別に普通、ちょうどいい。

「どのようにしますか？」

「あ、眉毛と耳は隠してください」

「…え、大丈夫ですか？」

「はい？」

「眉毛と耳を隠してしまって大丈夫ですか？」

「あ、はい、お願いします」

「かしこまりました」

　　　ビリッ　ビリッ
ブチッ　　　　　　　ブチッ

「ちょっと！！」

もちろん鏡で一部始終を見ていた。

眉間側から指で左右の眉毛をひっぺがして、もう片方の手で左右の耳を引きちぎった。

その両手を後ろに組んでじっとしている。

「眉毛と耳 隠さないでくださいよ！！」

「いえ、お客様がそうしろと」

「違いますよ！！眉毛と耳を隠すってそういうことじゃなくて！！髪の長さね！！髪の長さを眉毛と耳が隠れるくらいにしてくださいってことですよ！！」

「…大変失礼いたしました！」

「わかってくれたらいいんですけど！！」

「ただ、非常に申し上げにくいのですが、もう、眉毛と耳がございませんので、長さがわかりかねます」

「…すみません！！普通よりだいぶ聞こえにくくなってるんで！！ほとんど聞こえません！！なんですか！！？？」

「あ！あの！眉毛と耳がございませんので！長さがわかりかねます！」

「いやわかるでしょだいたい！！眉毛と耳の位置くらいほら！！あなたくらいですよ！！鏡に映ってるあなたくらいの位置にありましたから僕も！！それくらいでお願いします！！」

「かしこまりました！」

　　チョキチョキチョキ

「前髪はこのくらいで大丈夫でしょうか！？」

「いや切りすぎでしょ！！ほとんど生え際じゃないですかこれ！！」

　　　ペタッ　ペタッ

「眉毛が隠れました！」

「眉毛を貼る位置を高くしたらそりゃ隠れるでしょ！！福笑いですか僕！！？？」

チョキチョキ　　　チョキチョキ

「いや横も切りすぎ！！」

　　　➖　　　➖
グヌ　　　　　　　 グヌ

「だから耳を接着する位置を高くしたらそりゃ隠れるでしょ！！福笑いですか僕！！？？」

　　　➖　　　➖
　👂　　　　　　   👂

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