自転車の後輪がパンクしていた。

完全にベコベコで、5日ほど前にスーパーに行ったときには空気は抜けてないけどタイヤが一周するたびにガタッ・・・・ガタッ・・・・ガタッ・・・・って嫌な予感がしていた。

その前日に自転車屋の無料空気入れで空気を入れた際、そもそも全く空気は抜けてなかったのだがスマホの充電を100パーにしときたいみたいな感覚で満タンにしたいみたいな気概でシューーーーーーってパンパンにしたのである。

その際におそらく内部告発されたのであろう。

雇い主がプレッシャーをかけすぎだと。

悔しい。

まぁパンク修理なので、せいぜい千円前後だろうと。

チューブ交換ってなっても3000円とか？

って思って事前に調べておいた徒歩10分の自転車屋に持っていくためにアパートの駐輪場へ降り、改めて後輪をグルーーーッと手で回して確認してみると、オオムカデが突き破ったんか？ってくらいの亀裂がタイヤにあった。

えーなんでこんなことになんの？

これってなんぼかかんの？

とりあえず持っていくか…と不安いっぱいのまま自転車屋の兄ちゃんに「6700円ですね」と言われた。

僕は大人なので、35なので、「あ、お願いします」と当然みたいな顔して、なんかパンク防止スプレーも何百円か追加でかけれますみたいなこと言われてそれは「あー、いいです」と断った。

本当は頭がいっぱいだった。

6700円…

6700円あったら何ができる…

6700円稼ぐにはお笑いライブに7回くらい出ないといけない…

お笑いライブに行くための自転車のためにお笑いライブ7回分のギャラを支払わなあかんの…

絶対に経費にする…

税務署が乗り込んできたとしても、税務署が自転車で乗り込んできたとしてもお前にワイの気持ちが分かるんかボケェェェ！！って水をかけてやる…

6700円…

1時間後のお昼12時以降にまた来るように言われた。

お金はまだ支払っていない。

家に帰る道中。

家に着いてインスタントラーメンを食っている間も。

グルグルグルグルとある想いが巡っていた。

その日の夜、任天堂スイッチでスーファミの『マザー２』をやる。

面白いゲームの代表としてよく挙がるのは知っていたがやったことはなかったので、数日前からやっている。

まだ序盤も序盤なのだが、そのRPGの世界にも自転車屋さんがある。

自転車を買おうとすると、自転車屋さんはこう言う。

「今は在庫がなくて売れないが、無料でレンタルしてあげるよ」

お言葉に甘えて、レンタルした自転車に乗る。

ゲームの中で、グッズ（アイテム）を持てる個数が決まっており、何かを捨てて容量を空ける必要が出てきた。

そのグッズの中に『じてんしゃ』もあり、これを捨てて容量を空けようと思った。

無料でレンタルした自転車を乗り捨てるのだ。

いや、どうせなら売ろう。

なんか、『どうぐやのかんばん』というグッズを使うと、どこからともなくお客さんがやってきて、「何かを売ってくれ」と言ってくる。

『じてんしゃ』を選択すると、「それは買えない」と言われた。

全うなことを言われた。

仕方なく、捨てようと思って、『じてんしゃ』を選択すると、

　じてんしゃは
　すててはいけない。

とゲーム自体に注意された。

どいつもこいつも全うなことを言ってくる。

まるで母親のように。

諦めて明日、6700円払いに行くか。

3件の着信履歴をなんとなく見返して、ゲームと電気を消して寝た。

（事実を基にしたフィクションです。念のため。）