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バリボリ

コロナ禍前ぶりに帰ってきた実家がゲームセンターになっていた。

1階がゲームセンター、2階が住まい。

なんの連絡もなく、そういえば兄に子どもができたことも言われてないなっていうことに、到着してすぐラムネやチョコ菓子をスコップみたいなんで救うゲームのガラスをバンバン叩いているおかっぱの男の子がそれと聞いて知った。

言えや、って言うのもめんどくて、メダル両替機の張り紙を2度見した。

 りょうすけタイム
  15時〜17時
 100円13枚→15枚


りょうすけとは、僕のことである。

「これなに?」

「なにがあ?」

「りょうすけタイム」

「ああ、名前借りたで」

「はぁ?」

名前借りたの意味がわからなすぎて、それ以上の追求はまためんどくさくなった。

「これ飲んでええん?」

「なにがあ?」

「コーヒー」

「ああ、家族無料よ」

「なんやそれ」

高そうなUCCのコーヒーマシンがメダル両替機にビッチリくっつく形で置かれていて、近付いて初めて気付いたのだが、小さい黄色い付箋に

 家族無料‼︎

って手書きで赤く書いてあった。


「これビッチリ置きすぎやろ、ちょっと離した方がええんちゃん」

「おう、帰っとったんか」

「びっくしたっ!あっっつ!!」


背後のおとんにビックリした拍子に注いでる途中の紙コップに手が当たってこぼしてしまった。


「相変わらずやなぁ!ハッハッハッ!」


相変わらずの意味がわからないまま、おとんは奥に消えていった。なんやねんと思っていると、トイレから持ってきたのか、紙ナプキンをごと持ってきた。


「ほい、1枚500円な」

「ありがと」


無視して感謝だけ言って、ごっそり掴み取りして紙ナプキンに床のコーヒーをしゅました。

コーヒーの処理を終えてトイレのゴミ箱にぶち込んで、またコーヒーを注いで4人掛けテーブルの形の押して落とすメダルゲームの筐体の椅子に座って、メダル取り出し口に放置されていたメダル10枚くらいをじゃらんとコーヒーの横に置いて、

バリボリ、バリボリ、バリボリ、

メダルを頬張ってコーヒーで流し込んだ。


「相変わらずやなぁ!ハッハッハッ!」


相変わらずの意味がわからない。おかんもおとんも若干ボケが入ってるのかと感じた。


「なぁ、ボケとんか?」

 「お、あー、どっちもボケとるな」

「いつから?」

 「知らんわ、俺も年1しか帰ってこんし」

「なんで子どもできたこと言ってくれんの」

 「え、聞いてないんか?」

「うん」

 「えー、誰か言うてると思ってたわ」

「なんやねん、どいつもこいつも」

バリボリ、バリボリ、

 「東京ではうまいことやっとんか?」

「まぁ、うん、ぼちぼち」

 「具体的には」

「具体的にはってまぁ、元気にやっとるよ」

 「そういうことじゃなくて、お前もなんも言わんやんけ」

「あー、結婚したで」

 「え!」

バリボリ、

 「お前!いつや?」

「えー、半年前かな」

 「え、おい、おとんとおかんは会ったんか?」

「えー、向こうの親御さんには挨拶したで」

 「なんやねんそれ!お前非常識やな」

「どこがやねん」

バリボリ、バリボリ、
ジャラジャラジャラジャラジャラジャラ!
ジャクジャクジャク、
ジャララーン
バリボリ、バリボリ、バリボリ、

食べるメダルが足りなくなったので、揺らして落として追加した。

 「おい、子どもが真似するやろ」

「知らんわ」

バリボリ、バリボリ、バリボリ、

 「おい、お前も食え」

  「えー?なにをー?」

 「りょうすけおじさんにな、メダルくださいって」

  「うん、りょうすけおじさん、メダルください」

「はい、どうぞ」

ジャラララ

  「ありがとうー」

  バリボリ、バリボリ、

バリボリ、バリボリ、

 バリボリ、バリボリ

「お前にはあげてへんぞ」

 「そもそも店のもんやんけ」

「まぁそうか」

 バリボリ、

バリボリ、

  バリボリ、

バリボリ、


「あんたら!なにしてんの!」

「え?」

バリボリ、

 バリボリ、

  バリボリ、

「店のもん勝手に!」

「え、家族無料ちゃうの?」

「家族無料はコーヒーだけ!あんたらほんま、兄弟そろって非常識やなあ!」

バリボリ、

 バリボリ、

  バリボリ、

「夕飯 食えんくなるよ!」

「飯なんなん?」

「あれよ、かやくご飯よ」

「かやくご飯て」

 バリボリ、

バリボリ、

  バリボリ、

 バリボリ、

  バリボリ、

バリボリ、

   バリボリ、バリボリ、バリボリ、

「お父さんまで!もお!」

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