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暑い日は海辺まで歩く


#暑い日のおすすめ

歩いて行ける距離に海水浴場がある。
散歩にちょうどいい距離だ。水面には藻が浮かんでいて、水質はそこまで良いとは言えない。頑張って泳いだらとどきそうな位置に貨物船が立ち止まっている。海水浴客は少ない。黒い小型犬を抱えた飼い主がそのまま走って海に入水した。犬は慌てて犬搔きで陸に戻ろうとする。飼い主が再び犬を空中に持ち上げた。もう犬かきの必要はないのにずっと足をバタつかせている姿が愛らしい。
今日は7月31日。曇がかかっているのでかろうじて立っていられるが、連日酷暑が続いていて、テイクアウトしたアイスコーヒーは器の表面が水滴で潤って黒いストローは紙製だから湿って情けなく折れ曲がってしまった。ハリウッドセレブのプライベートジェットは一般人の550年分のCO2を排出しているらしい。柔らかいストローは舌に張り付く。
波打ち際には貝殻が打ち上げられて無造作に散らばっている。完全な形をとどめている物は少なく、砂との境界が曖昧だ。貝殻に紛れて、蟹の死骸も点々と転がっているのが見える。セミの抜け殻のように外面しか残っていないが、セミと違って海水に色を抜かれて真っ白だった。これらはまだ蟹と呼んでいいのか。それとももう単なるカルシウムの塊で砂浜の一部に分類するべきか。ふとそんなことを考えた。今年のお盆は帰省しないので墓参りも行かない。
サップボードを使って海上を移動している人が何人か見える。遠くにいるので年齢などは分からない。思ったよりも移動速度は速く、風を切ってゆうゆうと前進していく。私はサップをやったことはないが、あの黒いパドルを力のかぎり漕げば、何処までも進んでいきそうだ。そのうち太平洋の真ん中まで出てしまい、誰も見ていないところで大波に飲み込まれ、海を漂うゴミと一緒にどこか知らない砂浜に打ちあがるだろう。ちょうど今日見た真っ白な蟹達と同じように、カルシウムの塊としてゆっくりと砂浜の一部になっていく。
そんなことを考えていたらすっかり日が落ちてしまった。
海は周囲のビルや街灯に照らされて、ゆらゆらと波打つ溶けた金属のように見える。そのまま金属の上を歩いて行けそうだと思った。

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