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リアルで開講した「コワーキングマネージャー養成講座〜広島:ONOMICHI SHARE編〜」を振り返る

初のリアル講座はこうしてはじまった

去る10月18日(水)〜20日(金)、広島尾道のコワーキング「ONOMICHI SHARE」にて、「2泊3日ド短期集中型コワーキングマネージャー養成講座〜広島:ONOMICHI SHARE編〜」を開講した。

ここでは講座の詳細については説明しないので、こちらを参照ください。

コワーキングスペースの最前線にいて、日々、コワーキングを運営するコワーキングマネージャーの重要性については、かねがね口を酸っぱくして訴えているし、先般、WORKMILLでもそのことを書かせていただいた。

「コワーキングマネージャー」の存在がモノを言うフェーズへ コミュニティとしてのコワーキングが存続するための唯一の方法(カフーツ・伊藤富雄) | WORK MILL

この講座はそういう観点から発案した、利用者のさまざまな活動をサポートし、地域に価値をもたらすコミュニティを、健全に運営するコワーキングマネージャーを育成するための短期集中講座だ。

第3期までは週一回のオンライン講座を8回に分けて行っていたが、その修了生から、「講座内で実例として紹介したコワーキングに実際に行ってみたい」という声が多かったのを受けて、ならばものは試し、最初からそのコワーキングで開催しようと思い立ったのが、この「ド短期集中講座」。

現地に集まることで、そのコワーキングのリアルな姿から学ぶことももちろんのこと、参加者同士で共有できることが多いことも期待しての企画だった。

ただし、滞在時間も限られるため、いかにしてカリキュラムを構成するかに苦慮した。

もとより伝えたいことはてんこ盛り。だが、せっかく時間とコストを使って集まっていただくのだから、あえて内容は希釈したくはない。まして、リアルならではのフィールドワークも盛り込みたい。つまり、付け加えたい。もう、この時点で矛盾している。

最初は従来のカリキュラムをそのまま3泊4日で開講しようと思ったが、個人の方はまだしも、日頃の職場を離れて参加する企業や団体の方には少々無理がある。

そこで、カリキュラムのスライド資料を編集して2泊3日のギューギュー詰めで再構成したのが、この時間割。これを見て腰が引けないヒトはいないのではないかと、正直作った自分でも思う。

基本的に、(途中で休憩があるとは言うものの)1コマ180分。2日めなんか、それが3コマもある。加えて、講義の中でもポンポン受講者に質問するし、終わってからも受講者同士でのダイアログ(対話)の時間がある。

講師の話を一方的に聞くのではなくて、ここに居合わせる全員が持ちうるリソースをお互いに提供して共有する、まさにコワーキングの精神を体現する、という意図があってそうしている(これはこの講座に限らず各地で講演の機会をいただく時にも必ずやっている)。

それだけに濃密な3日間になることは始まる前から予想していた。そこに果敢に参加いただき、最後まで前のめりの姿勢を崩さず付いて来てくださった受講者の皆さんには敬意を表したい。誠に有難うございました。

その受講者の皆さん。(左端はONOMICHI SHAREの後藤氏)

会場が尾道だっただけに広島県内、島根県など中国地方からの参加はなんとなく想像していたが、驚いたのは遠く福島県南相馬市(!)からも参加された方がおられたこと。

聞けば、福島県には「テレワーク施設の付加価値向上に資する事業」の「コミュニティマネージャーとしての能力向上に必要な経費」を補助する補助金制度があって、それを活用されたとのこと。

そう聞いて、慌てて検索したこれがそれ。

ご存知の通り、福島は震災からの復旧・復興の途上にある。町の再生に関わるあらゆる施策の実行に全力で取り組む中、コワーキング(スペース)が単なる作業場ではなくて、人をつなぐハブとして、またまちづくりの根幹をなすインフラとして有効であると、自治体として認識されたのは想像に難くない。

これは想像だが、しかし、場所(ハコ)を作っただけではローカルコミュニティは機能しない、それにはヒトを繋いでコトを起こすマネージャーが必要だと気づかれたのではないだろうか。そのインサイトを即座に支援策に反映しているところがスバラシイ。ぜひ、他の自治体も見習っていただきたい。

ということで、初日は軽くオリエンテーションして、早速、最初の180分が始まった。

2日めは前述の通り過密カリキュラムが朝からガシガシ進んでいく。昼間のテーマは、「コミュニティ運営の基本」「イベントの企画と催行」「マーケティングと情報発信」と、重要課題が続く。次から次へと情報が押し寄せてきて受講者のアタマも沸騰しそうだったと思うが、それでも真剣にノートを取る姿にこっちも俄然気合が入った。

ちなみに尾道はサイクリストのメッカであり、愛媛の今治まで続くしまなみ海道がある関係で、ONOMICHI SHAREではレンタル自転車が用意されているだけでなくリペアショップまである。このへんも、ローカルのコワーキングが参考にすべき点。

だが、今回、ここを選んだ理由は他にある。それが4時限目の「これからのリモートワークとワーケーション」だ。

尾道でリアルに開催した理由

今回、特にリアルにこだわったのは、前述の通り会場になるコワーキングの得意(明確な目的を持った強み、ウリ、特徴)となっているところを座学とフィールドワークで盛り込みたかったからだ。

やはり、深い理解を得るにはリアルに体験するに越したことはない。コロナが一応の落ち着きを見せたこともあって、思い切って現地でやってみた。

ONOMICHI SHAREの強みとするテーマは、「ワーケーション」とそれにつながる「移住」だ。

というか、通常のコワーキングの運営の上にこのコンテンツを被せてカツドウすることで、人と人をつなぐためのインフラとしてのローカルコワーキングの役割を果たしている後藤さんの存在が大きい。そういうロールモデルがおられることが、ここを選んだ理由だ。

ONOMICHI SHAREについては、以下の記事の後段、「トレンド:「コワーキングスペースが『目的地』となり、ホスピタリティ・エコシステムの中に位置づけられる」の章でも紹介しているので、これも併せて参照されたい。

2023年、日本のコワーキングスペースが乗る2つのトレンドについて考える(カフーツ・伊藤富雄) | WORK MILL

なので、4時限目の「これからのリモートワークとワーケーション」で、ONOMICHI SHAREのコワーキングマネージャー(彼はコンシェルジュと称している)の後藤さんに90分(180分の半分)講義してもらった。

ちなみにこのコマは、飲食しながらの進行とした。しかも、アルコールOK。「え?セミナーなのに?」と思われるかもしれないが、この日は180分講義が3コマもあって、この夜の部になると相当疲れている上に食事時間が取れないことが予想されたのと、食べながら飲みながら学ぶことでリラックスした状態で活発な対話を促す目的があった。

もちろん限られた時間内に無理やり詰め込んだから、というのも事実だが、実はこれも昔からやっている手法だ。同じものを飲食することで口も滑らかになり、人の距離はうんと短くなる。そこでの対話が多くの気づきを与えてくれる。

そして、これもまたコワーキングマネージャーがコミュニティ運営する際のモデルとなっている。

なお、「食」は例の「コワーキング曼荼羅」にもしっかり掲げられているコワーキングの構成要素のひとつ。

フィールドワークで固定観念を打ち砕きヒントを得る

さて、3日目の午前中は前日の「これからのリモートワークとワーケーション」のフィールドワークとして街に繰り出した。当初は歩きの予定だったが、あいにく雨模様だったので後藤さんにクルマを用意いただいた。

有り難かったのは、今回、尾道市企画財政部政策企画課の奥忠直さんが街歩きのガイドを買って出てくださったこと。コワーキングがローカル社会にどういう役割を担うかを、しっかり認識できている自治体職員は、こうした講座のサポートにも積極的に協力していただける。

ちなみに奥さんは、公務員の傍ら、まち歩き団体「尾道商會」を結成し、市民や観光客に尾道の文化や歴史を紹介している。

奥さんのカツドウについてはこちらを参照されたし。

フィールドワークに先立って皆さんに認識していただいたのは、これは息抜きでも観光でもない、ということ。

あくまで、「よそ者の目で見た尾道のどこに興味をいだいたか?」「それはなぜか?」「それを自分の町に置き換えたとき、あなたの町のワーケーションとしてどんなコンテンツが考えられるか?」を学ぶ、考える時間だということ。

ワーケーションは観光の観点で考えられることが多いが、それは日本だけの話だ。WorkとVacationが合わさった造語だが、明確に「仕事」という概念が含まれている。文字通り、自分の仕事と時間を自分でコントロールするワーカーが、居場所を変えても仕事できる環境があることが前提であって、寺社仏閣やシュノーケリングはおまけでしかない。

なので、ワーケーションはローカルのコワーキングスペースがその拠点となって企画し、催行されるのが望ましいとぼくは考えている。そして、それもコワーキングマネージャーの仕事だ。

前述のWORKMILLの記事でもこう書いた。

地元の良さを熟知している人たちが自らローカルコワーキングスペースをベースにしたワーケーションを企画し、自治体はもちろんのこと、地元の企業や観光協会を巻き込んで、自分たちの町へリモートワーカーを呼び込むことを考えるべき。それが結局ローカルに利益をもたらす。
その際、コワーキングスペースがアテンドの役割を担うのは理に適っている。彼らは必ずコワーキングスペースを利用するからだ。

WORKMILL

ついでだが、ヴェネツィアは国外からデジタルノマドを呼び込むことで、ローカルのワーカーとのあいだで「知の再結合」を誘発することを目的としたプロジェクトを実行している。それはここに書いた。

その「結合点」になるのが、他でもないローカルのコワーキングだ。

コワーキングマネジャーの仕事というのは、それはイコール、コワーキングの収益モデルにもなるからだ。この講座で「これからのリモートワークとワーケーション」というテーマで1コマ講義しているのも、それを実地に肌身で感じ取るためのフィールドワークに午前中いっぱいを使っているのも、そのため。その上で、最後のコマ「収益モデルと運営コストを考える」につなげている。

何枚か写真を上げておこう。まずは、山の上にある千光寺公園。

続いて、渡航船に(クルマごと)乗って(つまりフェリー)、すぐ向こうに見えている向島へ。

聞けば、向島に住んで毎日渡航船で尾道に通う人が多いとのこと(人口約2万人)。わずか数分で着く船旅(というのか)も風情があっていいし、それが日々プライベートとパブリックを入れ替えるスイッチになっているのだろう(というようなことを考えながらフィールドワークする)。

内外のサイクリストが行き交うこの島に、昨年9月にオープンしたtsubuta SANK!というカフェがあり、その2階がコワーキングになっている。

右端が奥さん。

ちなみに、ここでは偶然、東京から移住してきたリモートワーカーに遭遇し、しばしお話を聞く時間にもなった。これも部屋に閉じこもっていてはありえない、フィールドワークならではの体験だ。

また渡航船に乗って帰り、今度は尾道の商店街巡りに入る。ここで、奥さんのガイドをあてにせず、受講者各自が思い思いに町を探索する、つまり、初めてこの地にやってきたなんの予備知識もないよそ者の目で見ることにした。

そして、歩きながら出会った面白いモノ、コト、ヒトをスマホで写真に撮ってFacebookグループに上げていく。それをあとで全員でレビューするというルール。ご存じの方はご存知のシャルソン方式だ。

いちいち説明は省くが、少し上げておく。

面白かったのは、数ヶ月単位で全国を移「働」して、そこで台湾スイーツの店を出してるという、この方。彼女もまたリモートワーカーであり、ここにもローカルコワーキングを運営する際のヒントがある。フィールドワークには固定観念を砕いてくれる発見が必ずある。

余談だが、ぼくは尾道の魅力は路地だと思っている。奥さんも「路地から尾道の歴史が見えてくる」と言っておられる。

そして、こうも語っている。

「このまちに関わる人たちに、『尾道って楽しいね』と思ってもらいたい。ここに暮らしてもらえればベストだけど、外から通ってもらい、交流が生まれるかたちでもいい。そうやって尾道に新しい変化が生まれていく姿を、ずっと見ていたい」

まさに、「移働」であり、前述のヴェネツィアの「知の再結合」だ。その交流の場をコワーキングが担う。くどいが、この見識を全国の地方自治体は持っていただきたい。

ちなみに、この日のぼくのベストショットはこれ。

人気のクレープ屋さんに地元の女子高生が集まり、それを観光客が見ているその向こうにJR山陽本線の踏切が見え、そのまた向こうに360段ある階段があり、その上に千光寺が見える。裏尾道とも言えそうな構図だがどうだろう。

実はこの階段は、2016年の6月にコワーキングツアーではじめて尾道を訪れた際に、ヒーヒー言いながら登った。
そのことはここに書いた。

ところで、これらの写真のレビューは、ちょうどお昼時になったので、地元で評判のラーメン屋さんに全員集合して食べながらやった。これもコワーキングで開催するイベント企画のヒント。もう全部が講座なわけだ。

話は前後するが、実はぼくはこの街歩きに先立つ初日の夜に、どうしても行きたいところがあって後藤さんと訪れた。「弐拾dB」という名の古本屋さんだ。

ここは、なんと深夜23時〜3時が営業時間(土日は11時〜19時)。深夜食堂ならぬ深夜古書店。もうそれだけでユニークな経営スタイルなのが判る。

以前は診療所だったのをリノベして開業されたらしい。2階はシェアハウス。昭和な空気とブンガクの匂い、そこにローカルの飾らなさが滲んでいて、ぼくなんかは非常に居心地いい。

そんな夜中に誰が来るのか?と思うだろうが、深夜に本を求めて、あるいは対話を求めてやって来るお客さんがちゃんとおられる。

で、これもヒントになっていて、夜型の本好きに特化しているところがポイント。

誰にでも同じサービスを提供するのではなく、ある特定の属性、分野、領域のユーザーを対象にコワーキングを運営するのもアリだ。事実、海外ではECショップだけの、NPO法人だけの、弁護士だけの、元軍人だけのコワーキングが存在する。

とするなら、「夜型のナレッジワーカー」に絞ったコワーキングがあってもいいはず。「弐拾dB」さんに倣って年末あたりカフーツで実験しようかと考えている。(というように、街歩きで発見したものをもとに発想するのも講座のうち)

「弐拾dB」という深夜古本屋さんがあるから尾道に行く、という人もいるはずだ。それは「弐拾dB」でしか醸し出せないカルチャーに惹かれるからで、どこでも同じチェーン店ではなし得ない。だから、わざわざやって来る。

そこに頼りになるコワーキングマネージャーがいるから、そのコワーキング行く、ということは以前も書いたが、それもつまりはマーケティングのひとつ。

「他でもないそこに行く理由がある」ということ。これが最強。「弐拾dB」さんは、我々にそのことを教えてくれている。

3日目の街歩きのあと、午後からは「収益モデルと運営コスト」をやって、最後に各自、この3日間を総括して無事終了した。

受講者のおひとりが「コワーキングは『場所』を『人』に置き換えて考えるんだと、人の発表を聞いて気づきました。この講座自体がコワーキングなんですね」と感想を述べてくれたのはウレシカッタ。毎度繰り返して申し訳ないが、コワーキングはハコではない、ヒトとコトだ。そのことを伝えたいがためにこの講座をやっている。

今回、リアル講座に参加いただいた5名の受講者の皆さん、誠に有難うございました。ここで共有されたことが、皆さんのこれからのお仕事に役立つことを願っております。

また、会場の段取りのみならず講義とフィールドワークにご協力いただいたOMONICHI SHAREの後藤さん、まち歩きにガイドいただいた尾道市役所の奥さんにも心からお礼を申し述べたいと思います。誠に有難うございました。

次期コワーキングマネジャー養成講座について

さて、今回、リアルでやってみて、いくつか改善点に気づいたので、次回からはおおまか以下の要領でハイブリッド方式で開講する。

1.講義(座学)の部分はオンラインで行う。
全講義をリアルですると、時間的、コスト的、あるいは受講者の業務の都合上(現場を離れるなど)、どうしても参加者が限られてしまう。なので、講義(座学)に関してはどなたでも全国どこからでも受講できるオンラインに戻す。
2.フィールドワークはオプションとして現地コワーキングで実施する。
体験を目的としたフィールドワークは、講義テーマに沿って最適となるコワーキングを選定し、そのコワーキングマネジャーの講義と併せて現地でリアルに実施する。
これは、1泊2日または2泊3日で構成する。
ただし、講義(座学)とは切り離してオプションとし、希望する受講者は各自のニーズに合わせて参加するコワーキングを自由に選択する。
3.フィールドワークのみの参加もOKとする。
講義(座学)を受講しない者、または過去に受講した者も、フィールドワークのみ参加できる。

いまのところ、1月開講の予定で準備を進めている。興味のある方はお楽しみにお待ちくだされたし。

ということで、最後に「コワーキングの5大価値」の頭文字をデザインしたTシャツ姿で終わりとする。決して、24時間テレビではない。
ではまた。

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