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ローカルコワーキングの8つのテーマを表す「コワーキング曼荼羅」とは何か?

※この記事は、2022年2月19日に公開されたものの再録です。

コワーキングツアーで気づいたこと

ぼくは2016年から断続的に、全国の(特に地方都市の)コワーキングスペースを訪ねる活動「コワーキングツアー」を開催しています。ここ2年はコロナのせいであまり動けていませんが、2021年12月現在で、これまで18の県、100ヶ所のコワーキングスペースにおじゃましました。

行った先々でイベントに参加したり、あるいは我々が開催したり、地元のコワーカーと交流することで参加者のネットワークを広げています。

コワーキングツアー

通常、行き先と日程はぼくが企画しています。参加するのはコワーカーであったり、コワーキング運営者であったり。原則、現地集合、現地解散。参加者各自が自主的に集まり、仲間を作り、仕事も飲み会もして去っていきます。途中参加、途中離脱もOK。都合のつく人はどこから参加してもどこで離脱しても構いません。極めて自由かつ自律的なイベントです。

この活動は、そもそも各地(特に地方)に点在しているコワーキングを訪ねて縁をつなぐことで、コワーカーの「移働(移動しながら働く)」を促進し、彼らがいわば媒介となってさらに各地のコワーキングをつなぐことになるのではないか、そうすることでローカルコワーキングをエンパワーできるのではないか、と思い立ったのがきっかけです。

ちなみに以下は、2018年にコワーキングツアーで奄美大島に行った時、飛び入りで地元のFMラジオに出た時のビデオです。それまでの巡回型ツアーから滞在型ツアーに変更したことをしゃべっていますが、それはその後たびたび講演のテーマにもなっているコワーケーションの一例です。(※このページ上で再生できない場合は、画面の「この動画は YouTube でご覧ください。」をクリックしてください。)

そして、このコワーキングツアーを通じて気がついたことがあります。それは、コミュニティとして運営されているコワーキングは「単なる作業場」ではない、もっと重要な目的のために活用されている、ということです。

コワーキングとは、そのローカルに暮らす人が抱える課題や、果たしたい目的が持ち込まれ、そこに他のコワーカーが持つリソースが交差することで解決の緒をつかんだり、目的達成に近づいたりする、いわば課題とソリューションが出会うハブです。

コワーキングの絶対数の多い東京から発信される情報を見ると、IT系のワーカーがヘッドフォンしながら誰とも話もせず、ひたすらキーボードをパチパチしているイメージが、特に地方のコワーキング関係者にはあるようですが、実際のところ、必ずしもそういうワーカーのためだけにコワーキングがあるのでは決してありません。

むしろ、業種や職種が違うさまざまな属性の人たちが接点を持つことで、予想もしなかったコラボが生まれ、新しい価値を生む。そのためのプラットフォームとしてコワーキングスペースがあるのです。

毎度申し上げる以下の「コワーキングの5大価値」もコワーキングツアーを続けていくうちに、実はローカルでは普通に行われていることなのだと知ることになりました。これは大きな収穫でした。

・Accessibility(つながり)
・Openness (シェア)
・Collaboration (コラボ)
・Community (コミュニティ)
・Sustainability (継続性)

「コワーキングの5大価値」についてはこちらをぜひ参照ください。

そして、これを実行する過程にコワーキングが持つ8つのテーマがあることを図にしたのが、「コワーキング曼荼羅」です。

コワーキングが持つ8つのテーマ

ローカルコワーキングでは、何らかの形で以下に示す「コワーキング曼荼羅(Ver.3.2)」に示す大きく8つのテーマが展開されています。そして、各テーマにおいて更に個々の活動テーマに細分化されて目的や指針が設定され実行されています。

コワーキング曼荼羅Ver3.2

活動テーマは、コワーキングスペースに集うコワーカーの関心領域がどこにあるかによって、それこそ千差万別で偏りがあります。言い換えれば、コワーキングはこのテーマを持つことで、ただの「場所」ではないコミュニティとしての意味性を帯びてきます。ある意味、それがそのローカルコワーキングの世界観であり、目指す方向を指し示しているとも言えます。

テーマを掘り下げたり、あるいは縦にも横にも広げたりすることで、参加するコワーカーのつながりを強くしたり、新しい仲間を招き入れたり、更には協働者としてコラボが組まれたり、仕事やビジネスに発展したりするきっかけづくりになります。

しかし、コワーキングが生身の人間で構成されるコミュニティである以上、常に変化を遂げています。それに伴い、活動テーマのメンバーや実行方法はもちろんのこと、時と場合によってはテーマ自体も更新(アップデート)されていきます。

ローカルコワーキングは、そうしたバージョンアップを繰り返すことで存在価値が増し、維持継続する事が可能になります。「コワーキング曼荼羅」はそのためのいわば羅針盤(コンパス)です。

なお、この「コワーキング曼荼羅」もまた時の経過とともにバージョンアップしています。現在はVer3.2ですが、いずれ新しい要素が加わり、あるいは入れ替わることでVer.4になる日を迎えるはずです。

では、その8つのテーマを順に説明します。

「働」仕事+起業・創業

文字通り、まず「働く」環境としてコワーキングスペースはあります。IT系のフリーランサーがに他のコワーカーとコラボを組んで受託案件に取り組んでいたり、企業に勤めるワーカーがサテライト的に利用していたり、そうかと思えば、地元の農家や商店店主、飲食業、士業、コンサルタント、教育関係、はたまた個人経営のネイルサロンやスマホ修理業、後述のハンドメイドの作家に至るまで、ありとあらゆる事業者が仕事をする環境としてコワーキングスペースを利用します。

そして、そこで出会ったメンバーとぶつけ合ったアイデアが形になり、プロジェクトを進めるうちに起業・創業へと発展することもあります。テクノロジーの最先端を狙うスタートアップもあれば、ローカルに根ざしたスモールビジネスまで、コワーキングはそうしたあらゆるタイプの起業・創業をサポートします。

福岡県北九州市のコワーキング「秘密基地」では、2021年3月時点で、過去5年間に「創生塾」の受講者が延べ15,000人、創業は50社に上ります。この成果がそのままローカル経済に寄与しています。

「学」学び(共学)

前述の「コワーキングの5大価値」の記事でも述べたように、コワーキングの本質は「相互扶助」であり、「教え、教わる」関係も発生します。

コワーカーの中から学びのテーマが起ち上がり、しかるべき講師をアサインして勉強会やセミナー、ワークショップが開催されます。テーマにもよりますが、2名からでも開催しますし、場合によっては100名近い参加者が集まることもあります。

コワーカーは学びを通じて仕事に役立つ知識や技術を習得し、自分の領域を深堀りし、あるいは広げることで、ワーカー、事業者としての質をアップデートすることに余念がありません。判りやすいところでは、プログラミングやウェブデザイン、あるいは後述のハンドメイドなど、さまざまなテーマで学びの会が開かれます。

それには、子どもたちに対するワークショップも含まれます。例えば、世界的な子供のためのプログラミング道場「Coder Dojo」の日本版はスタート当初、コワーキングで開催されていました。

埼玉県新座のコワーキング「Hanareひばりヶ丘」はそのひとつ。ここは住宅街の中にある一軒家のコワーキングで、近隣の住民の方々が利用されていますが、「Coder Dojo」の開催はゆうに250回以上を数えます。

余談ですが、コロナ禍で通勤せずに在宅ワークを余儀なくなされた会社員が世界中にごまんといますが、そうしたワーカーが自宅近くのコワーキングを利用し始めており、郊外の住宅地にもコワーキングが開設される動きが活発化しています。この傾向は今後更に増すものと考えられています。

コワーキングは、あらゆるコワーカーのニーズを敏感にキャッチして学びの場を作っています。

「創」ものづくり+アート+表現

例えば、在宅ワーカーさんのためのハンドメイドの商品を制作するワークショップが開かれていたり、3Dプリンターを駆使してものづくりしていたりと、ものを作ることを生業にしている方はローカルにたくさんおられます。そうしたコワーカーの接続点としてもコワーキングはあります。

一方、アートの世界でさまざまな作品を生み出すアーティストにとっても、コワーキングはアトリエになったりギャラリーになったりと、なにかと親和性の高いとなります。

海外ではアーティストとのコラボを核にしているコワーキングも散見できます。条件さえ揃えば、地元自治体とコラボして、アーティスト・イン・レジデンスを開催する際の会場にもなります。身近な例では、千葉県鋸南町のコワーキング「鋸南エアルポルト」がアトリエとギャラリーを併設しています。

また、音楽や演劇など表現の分野で活動する人にとっても、コワーキングはイベント開催など活動の拠点として十分機能します。コワーキング利用者の中に音楽愛好家が多いのも周知の事実です。また、川崎市のコワーキング「BOIL」にはブレイクダンスの聖地らしくダンススタジオを完備しています。

そして、こうした人たちの作品、あるいはその制作活動そのものがそのローカルに人を呼び寄せる一因にもなります。

「共」シェアリングエコノミー

皆が同じものを持つのではなくて、ひとつのものを皆で共用・共有するのが「シェアリング」の本意ですが、コワーキングスペース自体がすでに「シェアリング」であり、そこに集う人たちでシェアしたほうがいいものはコワーキングで管理しようというのが、この「共」です。このモノの共用でも人は簡単につながります。

判りやすいのは本です。仕事に直結するビジネス書から文芸書、画集、写真集、あるいは辞典の類、はては漫画や雑誌に至るまで、もちろん電子書籍でも読めますが、コワーカーのニーズを満たす書籍はあえて紙の本をコワーキングスペースに常備して閲覧に供する。そこで、また会話が発生し、コミュニティとして機能し始める、そのスイッチになる可能性もあります。読書会もよく開催されています。

また、本のあるコワーキングを図書館に見立てて希望者に本を貸し出すアプリ「リブライズ」は、元々、コワーキング関係者が開発したもので、FacebookかLINEのアカウントがあれば誰でも利用できます。

他には仕事道具ものそのひとつ。ちなみに海外では、チェーンソーや斧など、せいぜい年に一回しか使わない道具をライブラリーに置いて、会員ならいつでも使える「もののライブラリー」もあります。地域によってはそういうコワーキングもあってしかるべきと考えています。

自分の運営するコワーキングで何をシェアすればいいか、それはそこに集う人たちの属性にもよります。そして、その属性をよくわきまえておくことも、ローカルコワーキングには必須です。

「育」育児+教育

子育てをしながら働くワーカーのためにもコワーキングは非常に有用です。もともと共働き家族のママさんあるいはパパさんは言うに及ばず、今回のコロナ禍で突然在宅勤務を強いられた企業人にとっても、第三の場所としてのコワーキングは何かと便利です。

ただし、子供を連れてのコワーキング利用の場合、託児施設との併設など、ワーカーが仕事をしている間の子供のケアをどこまでできるかが大きな課題です。そこでここ数年の間に、託児施設付き、あるいは育児員のいるコワーキングが国内にも徐々に開設されてきています。

そこを起点に育児教室が開かれたり、ときにはママ友同士でビジネスを始めたり、中にはコワーカーとしてコワーキングを利用していたママさんたちを職能訓練し、その後社員として採用し、遂には会社化された長野県上田市のコワーキング「Hanalab(ハナラボ)」(現、株式会社はたらクリエイト)のような事例も生まれているなど、確実にローカル経済の一翼を担うようになってきています。

「育児」はローカルコワーキングにとって最重要なテーマのひとつです。

子供連れで利用できるヨーロッパのコワーキングについては、ちょっと古いですがここに書いています。

「健」健康(ウェルビーイング)

ここで言う健康とは、もちろんフィジカルもそうですが、主にメンタルヘルスケアのことを言っています。リモートワークが常態化するに連れ、中には孤独感や疎外感に苛まれるワーカーも現れてきました。こうしたワーカーをケアすることもコワーキングの目的の一つになっています。

実は、これはコロナ禍のずっと以前から、オンラインで仕事をするワーカーが増えてくるに従って、その兆候が現れていたのですが、今回のパンデミックでそれが加速しました。特に、コロナ以前にリモートワークを経験したことのなかったワーカーが精神的にダメージを受けている印象があります。

海外のコワーキングにはセラピストが常駐するところもあると聞きます。それだけ、精神面でのケアが必要とされている証拠です。

ちなみに、ヨガや瞑想をイベントとして開催されているコワーキングもよく見かけますが、これもまたメンタルヘルスケアのひとつです。コワーカーの心身を健康に保つことも、コワーキングの大きな役割です。

「旅」リモートワーク+宿泊・滞在

現代はリモートワーカー(移働者)の時代です。ローカルコワーキングにおいては、まず地元のワーカーがその利用者になりますが、移動しながら仕事をするリモートワーカーの受け皿になっておくことも必要です。

コワーキングはローカルコミュニティですが、地元だけに閉じていてはコミュニティとしての発展が望めません。常に新しい空気を入れて、いつもと違うカルチャーを受け入れ、そこでまた新しいコミュニティの価値を付加していく、という展開が必要です。

そうでなければ、同じメンバーだけの閉じこもった集団となり、マンネリ感が充満し、いずれ衰退していきます。新陳代謝はコミュニティを維持する必要条件です。

地元以外の地からやってくるコワーカーを受け入れ、今までと違う人と人のつながりを作ることが肝要であるならば、そのための体制も必要です。そのひとつが宿泊施設です。ゲストハウスでもホテルでも旅館でも構いません。

最近では宿泊のできるコワーキングもちらほら見かけます。兵庫県佐用町のコワーキング「コバコ」や愛媛県八幡浜市の「コダテル」には宿泊施設があります。

また、自前で併設できなくとも、ローカルの宿泊施設とコラボすることでも可能です。むしろ、コラボすることで、その町におけるコワーキングの立ち位置も明確になる効果もあります。

またこれは、最近、話題になっているワーケーションにも通じます。ワーケーションは仕事と休暇をミックスする働き方で「ワーク+バケーション」でワーケーションとしています。ちなみにぼくは、コワーキング+バケーションで「コワーケーション」と言っています。移動先の仕事環境として、また人をつなぐ場所として、ローカルのコワーキングスペースを利用することを推奨しています。

ただし、いまのところですが、日本型のワーケーションは企業の制度の中で社員に参加させるものがほとんどです。本来、海外で実践されているワーケーションは、個人が自律的に休暇を取って、行き先や宿泊施設、そしてワークスペースも自分でブッキングする、というものです。そして最低でも2週間以上が普通です。

なお、コリビングとは更に長い期間、短くて3ヶ月、長くて2年、そこに滞在しながら仕事をすることを言います。海外では「Coworking+Coliving」とはっきり看板に書いているコワーキングもたくさんあります。

もう5年近く前ですが、コワーケーションとコリビングについて書いたブログを上げておきます。

実はコワーキングスペースに出入りするコワーカーの多くはそもそもリモートワーカーであり、ワーケーションという言葉が聞こえ出す以前からそれを実践しており、何をいまさら、というのが実感だと思います。

そうしたリモートワーカーは、前述のコワーキングツアーにも通じますが、各地のコワーキングスペースをつなぐカタリストでもあります。彼らもまた、ローカルのワーカーと出会い知り合うことを望んでいます。ローカルとリモート(=非ローカル)、そこをつなぐのがローカルコワーキングです。

「食」飲食+地産地消

飲食を共にすると人と人との距離は瞬時に縮まります。コワーキングでは、さまざまなパーティ(飲み会)が開かれています。セミナーやワークショップの打ち上げだったり、誰かの誕生日や仕事の成果を祝う会だったり、特にテーマはなくても定例的な飲み会だったり、実にさまざまです。

コワーキングの根源的な価値はコミュニケーションにあります。元来、社交下手な日本人でも、食が絡むと緊張感も和らぎコミュニケーションも闊達になりやすいものです。そのコミュニケーションをきっかけに、また仲間を増やしていく。「食」は古今東西、人をつなぐために最も有効なツールです。

もちろん、コワーキングスペースとしての収益源のひとつにもなります。カフェを併設したコワーキングスペースは各地にたくさんできています。カフェだと思ったらコワーキングだったので利用するようになった、というケースも多いのではないでしょうか。

また最近、よく目にするのがキッチンカーです。コワーキング内にキッチンを設えるのではなく、敷地内にキッチンカーを置いて食事や飲み物を提供する。そこからコワーキングに導線をつなぐパターンが各地で見られます。これは、「コワーキングの5大価値」のコラボレーションの一例でもあります。

そして、「食」に絡んで、最近では農園の運営もはじめるコワーキングもあり、コワーカーが一年を通じて一緒に野菜づくりを楽しんでいます。これもものづくりのひとつです。

長野県佐久市の「うちやまコミュニティ農園」は、同市のコワーキング「ワークテラス佐久」を軸に、会員制で野菜づくりを楽しんでいます。また、神奈川県茅ヶ崎市のコワーキング「チガラボ」でも、地元のコミュニティ農園をサポートし、収穫物の有機野菜を材料にした料理を楽しむイベントを開催しています。


これら8つのテーマは、どこのローカルコワーキングにも内在(もしくは潜在)しているはずです。そして、これらはすべてイベントのテーマになり、更にビジネスのヒントになります。

どのテーマならコワーカーが反応するか。ローカル経済を活性化するエンジンとしてのコワーキングを目指すのであれば、これらのテーマについてコワーカーとともに考え、実行することが肝要です。

そして、忘れてはならないのは、それぞれのローカルコワーキングで「コワーキング曼荼羅」を日々アップデートしていく、このことです。コミュニティはナマモノですので。

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(Cover Photo by Swati H. Das on Unsplash

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