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コワーキングLABニュースレター#5

コワーキングLABニュースレター#5「フレックスワークスペース、WeWork、地方自治体、電子商取引(Eコマース)、エアビのコワーキング版、倉庫業、オペレーション、コミュニティビルダー、コミュニティマネージャー、Diversity(多様性)、Equity(公平性)、Inclusion(包括的)、DEI」の巻

※このブログは、ローカルコワーキングのための学びと部活動「コワーキングLAB」の会員限定で配信されているニュースレターから転載しました。

■ トピックス

(1)Cities Look To Coworking To Accelerate Return To Work, Downtown Recovery

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(画像出典:BISNOW)

コロナ禍で都市圏から逃げ出したオフィスワーカーを連れ戻すために、自治体や大学がWeWorkと提携して動き出してるという記事。日本では第4波が想像以上に大きな影響を及ぼしていることで、首都圏から郊外へ、いっそ地方へと移動し始めているという状況ですが、向こうは少し落ち着き出しているのでしょうか、その先を行く「揺り戻し的」動きとも言えそうです。

この動きを理解する前提として、企業に勤めるワーカーも、これまでの特定のオフィスではなく、必要な時に必要な場所で仕事をするための「フレックスワークスペース」を利用するという概念があります。

オフィスビルに出社することなく、かといって在宅ワークを強いられても、現実的には自宅ではなかなか仕事はできないという問題を解決するために、郊外のコワーキングスペースのニーズが高まっているのはこれまでもご紹介していますが、「フレックスワークスペース」はその延長線上にあるワークスタイルです。

しかも、これが一時的なものではなく、パンデミック後も継続する可能性が高いことも要チェックです。

コロナ禍をきっかけとして、企業がオフィスというものを長期間、固定的に保有(使用)するデメリットについて真剣に考え出しており、今後は必要に応じて「フレックスワークスペース」を利用し、いわば流動資産的にコスト管理したほうがコスト低減になりメリットが大きい、と判断する企業も現れています。

同時に、ワーカーの労働条件、労働環境を改善することで健康的な企業経営を実現し、いわゆる社員のウェルビーングにもつながることも、人材確保という意味では無視できません。

このトレンドをいち早くキャッチした不動産業者は、これまでのオフィスビルを「フレックスワークスペース」へとどんどん業態変更し、新たなビジネスチャンスを虎視眈々と狙っています。日本ではそんな動き、全然ないみたいですが。

そこに一役買おうとしているのが、WeWorkです。ご存知のように、WeWorkは一時、47億ドルもの時価評価がついてコワーキング系のIPOとして大きな注目を浴びていながら、上場を目前にして急速に評価を落とし、その夢もはかなく潰えた…のですが、皮肉なことに今回のコロナ禍で事業を立て直し、現在、再び上場を狙っているところです。

WeWorkの提供するパートナーシップは、企業が小さなスペースから始めて徐々に規模を拡大することができるプランです。コワーキングスペースなので初期費用が必要ないことから、中小企業の職場復帰を加速するのに特に役立つと考えられています。

ニューヨークでは商工会議所がパートナーシップを結び、6か月の契約を結ぶ企業には2か月の無料オフィススペースを提供し、12か月の契約を行う企業には3か月の無料オフィススペースを提供しています。また、メンバー が市内の任意のWeWorkロケーションを使用できるパス「WeWork All Access」の1か月の無料トライアルと12か月の15%を提供しています。 年間リースの最初の3か月間は家賃を支払う必要がないとなれば、コワーキングスペースのニーズが高まるのは明らかです。

ワシントンDCでは、WeWorkはニューヨークと同じ割引を提供していますが、商工会議所の代わりに計画経済開発副市長室と提携しています。 ここも注目で、行政自体が提携関係を結んで、地域の再活性化を図っています。

さて、これをニューヨークやワシントンのような大都会とWeWorkではなくて、ローカルの自治体とローカルのコワーキングがコラボした場合に置き換えても応用できると思います。日本でその最たる事例が、長野県の「おためしナガノ」です。

おためしナガノ

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詳細は上記サイトを参照願うとしますが、この取り組みによる長野県への移住率は眼を見張るものがあります。そしてそれは、そこにコワーキングがあるからできることでもあると、念を押しておきたいと思います。

前号のニュースレターでご紹介した木下斉氏の『まちづくり幻想』では、東京からの人口流出は実は大した数字ではなく、周辺の県への小規模な移動に過ぎないとありますが、いずれにしても「フレックスワークスペース」という発想が首都圏だけに限らず、ローカルでも働き方の一つの選択肢として受け入れられる社会になる可能性は高いのではないでしょうか。

(2)Last-Mile Warehouse Coworking Concept Raises $10M To Fund Expansion

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(画像出典:BISNOW)

これはいままでになかった(はずの)、ちょっと変わり種のコワーキングの話です。

コロナウイルスの大流行によってアメリカの小売業や飲食業、ホテルも大きなダメージを受けましたが、コワーキングスペースもその例外ではありません。日本では具体的な数字は伝わっていませんが、ぼくが海外の情報を見ている限りでは、いまだクローズドなスペースが多く、廃業に至った事例も少なくありません。(そこをリカバリするのがオンラインのイベントなのですが、そのことは別の機会に譲ります)

そんな中、活況を呈しているのが電子商取引(Eコマース)業界です。Digital Commerce 360がまとめたデータによると、2020年の消費者のオンライン支出は8,600億ドルを超え、前年比で44%も増加しました 。このオンライン売上の急増は過去20年間で最大の増加であり、2019年の15%の成長をはるかに上回っています。ちなみに、2020年の時点で、小売売上の21.3%がオンライン購入によるものです。

一方、Pipecandyによると、北米には353,000の企業がオンラインで商品を販売しており、その88%が年間売上高100万ドル未満の企業です。こうした多くの小規模な電子商取引会社が必要とするのは、500sqf(約46㎡)から3,000sqf(約280㎡)の倉庫ですが、その規模では従来の倉庫の家主が提供するのは難しいとされてきました。つまり、ラストワンマイルと呼ばれる、顧客の玄関口に最後に配送する部分のニーズが高まっているのに、それに対応できていなかったのです。そこに現れたのがSaltboxです。

Saltbox

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Saltboxは、小規模な電子商取引業者のためのコワーキングを運営しています。ユーザーは不動産賃貸契約ではなく(コワーキングだから当然ですが)月額会員として施設を利用できます。オフィス機能のほか、撮影用スタジオやフォンブース、カフェが利用でき、毎週開催されるコミュニティイベントにも参加でき、さらに、ここから注文を出荷処理できる流通施設も利用できます。

最近、飲食店の開業前に会員となって利用できるフード系のコワーキングをよく耳にしますが、これはそれの流通版といったところ。目の付け所だけでなく、それをコワーキングというスキームに落とし込んでいるところが素晴らしいです。

同社は1年以上前にアトランタのアッパーウェストサイドに27,000sqf(約2,500㎡)のラストマイルの拠点となるコワーキングをデビューさせた後、先月、ダラスに2番目の66,000sqf(約6,100㎡)のコワーキングを開設しました。

そして、先日、シリーズAラウンドを終了し、1,060万ドルを調達しました。その資金を元に、デンバー、シアトル、ロサンゼルスなど8ヶ所での拡張を目指していて、その平均サイズは約60,000sqf(約5,500㎡)です。この「頃合いの大きさ」を発見し、自社の文字通り「スケール」にしている点は参考にしたいところです。

(3)Tally Market, the British Airbnb of co-working spaces totals £330K seed funding - UKTN (UK Tech News)

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(画像出典:UKTN)

タイトルが、そのものずばり、エアビのコワーキング版。

Tally Marketは、イギリスのコワーキングやホスピタリティ施設のホットデスク、会議室、デイオフィスへのオンデマンドアクセスを、前述の「フレックスワークスペース」としてワーカー(企業)に紹介しています。それを、場所やサイズなど、あるいは、日に数時間だけ、または週に数日だけ利用するスペースなど、ユーザーの求める条件に応じて検索すれば、ワンストップで予約できるサービスを提供しています。これまさに、フレックススペース型のソリューションであり、エアビのコワーキング版と言われる所以です。

Tally Market

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彼らのミッションは、コワーキングスペースやホスピタリティ施設が別の収入源を生み出すのを支援することでもあり、特にコロナ禍で大きな打撃を受けた事業者はその対象です。一方で、イギリスには1,430万人を超えるデスクワーカーがおり、その多くは新しい働き方に適応するのに苦労しています。

同社はこれまでに、コーヒーショップやコワーキングスペースからホテルに至るまで、イギリス全土に広がる300を超えるスペースと協力関係を結び、このニーズに応えてきました。そして、コロナからの持続可能な経済回復を推進するプロジェクトに資金を提供するために設立された「SustainableInnovationFund」からInnovateUKの資金提供を受けました。同社のこれまでの資金調達額は33万ポンド(約5,000万円)になります。

ところで、コロナ禍をさかいにコワーキング関連では以下の3つの業態に区分され、その連携が目立ってきています。

・コワーキングスペース自主運営業者
・コワーキングスペースのオペレーション受託会社
・コワーキングスペースなどのフレックススペースをオンデマンドで紹介するサービス業者

ここでのキーワードは、先の「フレックスワークスペース」が示唆するように「オンデマンド」です。ワーカーがいつでも必要に応じて利用できるスペースを紹介することをビジネスにできるのは「フレックスワークスペース」が常態化してきている、ということの証左です。

ちなみに同社は、Huckletree, Runaway East, Mercure, Us&Co などのオペレーション企業とも提携関係にあります。そのへんの抜け目のなさも要チェックです。

また、前述のSaltboxもそうですが、このところ海外ではコワーキングスペースに投資されるケースが現れています。それもまた、コロナ禍が大きく関係しているのは確かですが、ローカルのコワーキングでもその存在意義と価値を明確に示せば、相応の投資を受けられるフェーズに入っていると考えられます。

日本でも一部、クラウドファンディングを活用して資金調達するケースを散見しますが、今後、コワーキングという事業が純然たる投資案件として評価されることも十分予想されます。

ただ、最近海外では、投資家に公開することで上場することをゴールとするのではなく、コミュニティがその事業を所有する「E2C(Exit To Community)」という考え方も現れています。個人的には、コワーキングはこの「E2C」か、もしくは協同組合型の運営が相応しいのではないかと考えていますが、そのことはまた別の機会に勉強会のテーマにしたいと思います。

■ データ

The 2021 CMX Community Industry Report | Download your copy today!

コミュニティビルダーやマネージャーを支援する国際的組織CMXが、2017年から始めた「Community Industry Report」の2021年版です。今年のリポートでは、ビジネスにおいてコミュニティとコミュニティマネージャーの重要性がより浮き彫りになっています。それはまた、コミュニティを軸とするコワーキングにとっても社会の要求に応える機会(必要)が増えることをも意味しています。

サマリーの中から重要なポイントいくつか上げておきます。

「コミュニティはビジネスにとって重要になりつつある」
明らかに企業はコミュニティを無視できなくなっている。調査に参加した85%の企業が、コミュニティが今年の目標にプラスの影響を与えたと回答し、86%がコミュニティは会社の使命にとって重要であると認めている。また、企業の3分の2以上が、来年、コミュニティに関する予算を増やすことを計画している。

「成果を測定しにくいもどかしさ」
コミュニティの価値は明らかだが、その価値を測定することはかなり難しく、コミュニティ担当者にとって依然として最大のフラストレーションになっている。45%が、コミュニティのビジネスへの影響を財務的に定量化することに苦労していると回答。

「バーチャル(オンライン)イベントの重要性」
80%が、オンラインイベントがコロナ禍におけるビジネス戦略の重要な部分になっただけでなく、コロナ以降も引き続き重要な役割を果たすと予測している。

「インクルージョン(※1)を促進するためにやるべきことはまだたくさんある」
コミュニティ担当者は、DEI(※2)に取り組んでおり、その姿勢を崩すべきではないと考えているが、コミュニティでDEIを促進するための特定のポリシーを持っているのは半分だけ。ただし、79%が組織はDEIの問題について公的な立場を取るべきだと信じている。

(※1) インクルージョン
直訳すると「包括・包含」という意味を持つインクルージョン。ビジネスの場で用いられる場合、組織内すべての従業員が仕事に参画する機会を持ち、それぞれの経験や能力、考え方が認められ活かされている状態を指します。 国籍、性別、学歴などにとらわれず、多様な人材を活かした就業機会が与えられる、という意味を持つ場合もあります。
(出典:インクルージョンとは? ダイバーシティと何が違う? 企業導入の注意点 - カオナビ人事用語集

(※2) DEI
Diversity(多様性)、Equity(公平性)、Inclusion(包括的)。なお、Equity(公正)とEquality(平等)の違いについては、このブログがわかりやすいです。

D&I(Diversity and Inclusion)からDEI(Diversity, Equity and Inclusion)へ 米国企業の人材活用におけるトレンドの進化・深化とアファーマティブ・|くにしー【セカンドTOEICパートナー】|note

コミュニティというものは定量化しにくい、評価軸のあいまいなものであるのは確かにそうかもしれません。

ただ、最近はかつての高度成長期のような大量生産、大量消費を善とする、いわゆる資本主義の頂点を過ぎ、今新たな経済の回し方が探られている時期でもあります。

資本主義をまったく否定してしまうのではなく、それを前提としつつも、「人」をその中心に置いてビジネスのエコシステムを再設計する段階にあると考えられます。

コワーキングという発想も、それ自体はまったく新しいものではありませんが、一定の時代を経て、より人間らしい集団、組織の組成、醸成の方法として、いままた求められているのではないかと考えています。

■ 編集後記

・コミュニティ運営のエキスパートであるDavidSpinks氏が、先日、こんなTweetをしていました。

The future of business is:
- remote first
- 4 day work weeks
- radically transparent
- community owned and driven
- diverse, equitable, and inclusive

未来のビジネスは、「リモートワークありき」「仕事は週に4日」「徹底的に透明性」「コミュニテイが所有しコミュニテイが成長させる」「多様性、公正性、包括性」。同感。とても重要なインサイトだと思います。

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※このブログは、ローカルコワーキングのための学びと部活動「コワーキングLAB」の会員限定で配信されているニュースレターから転載しました。

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