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私が大事に思うあなたへ

気付いたら27歳になっていた。何かの手違いで社会という宇宙船から脱出ポッドで放出され、併走するようにぼんやり宇宙を揺蕩いながら宇宙船を見ているような生活を送っている。
作家・タレント、まともに続いたバイトは塾講師と男装喫茶だけ。
具体的に最悪な部分を言うと、あまり怒られることがない仕事ばかりを続けてきた。人は間違う生き物だ。間違いを正されることによって自分を省み成長していく。多分。
野放図に好き勝手伸び散らかして27年の私でこの先の数十年を生きることに常に薄ぼんやりとした恐怖を持っているが、怒られることを想像しただけで肝が冷えるので社会に出されないように息を潜めている。
そして、上司や部下がいたことがない。
なので、あまり自分の年齢がどのような意味を持つのか把握しきれていないが、年下の大人が出現し、若くないという扱いを受ける場面も出現するようになった。

「今、きっと私たち、若者の端っこにいるんだろうね」と友人に話したら、「その認識を持ち続けると危険だ」と忠告された。確かに、この先何年何十年経っても、もしかしたら、地球で一番古い人間になっても、私が若者の端っこであると思っていそうな気もする。

 高校以前は自分に合わない学校という小さな世界の中にいたせいで、巨大な岩に封印されていた期間みたいなものであまり多くのことを覚えていない。活動らしい活動を始めてからは大体10年になると思う。長いようで短い10年の中で色々なことを経験したし、たくさんの友人に恵まれた。
そして、その期間の中ですごく親しくしていた友人と何人か縁が切れた。私が大事にされなかったことも、大事にできなかったことも、両方。
大好きだという気持ちだけでは大事にしているとは言えないし、自分が大好きな人が大事にしてくれるとも限らない。
それに気付けたのは結構最近になってからで、本当に遅くなってしまったけれど、最近は人を大好きでいることよりも大事にすることを心がけている。


 私は割と相談を聞く方だと思う。考えるに、脱出ポッドで揺蕩っているから、しがらみなく話せる枠組み外にいるその他の誰かになりやすいからだと思う。
ESや志望理由書の添削なんかは気安い。塾講師も10年になるので得意だという自負があるし、役に立てている気もする。
一番辛いのは恋愛相談だ。何が一番辛いかといえば、私の言葉は正直届かない感覚があることである。恋慕う相手の一言が1等温泉旅行券の重みをもつとすれば、私の意見は残念賞10枚集めると100円割引券になる補助券くらいの重みになってしまう。
誰がどう聞いてもそんな男はやめておけと思うような話を聞かされて、フリなのか?と思いつつそんな男はやめておけと言っても、まあ当然届かない。細かいLINEの返信だとか小手先で機嫌を取るような相談には乗れても、心では、まあ、やめておけ?と思っているので身が入らない。
脱サラして卵の白身専門店がやりたいと相談された経営アドバイザーもこんな気持ちになると思う。まだ過激なマッチョの巣窟に出店する心算と目処があるならそちらの方が応援できる。
私の大事な友達に酷い言葉を投げかけたり、悲しむような行動をする男が許せないので、それが許されているのを見るのも辛い。

とはいえ、恋心のような強い感情から逃れることは個人の心持ちだけでなんとかできる範囲を超えていることもある。
数ターンの間、粘着質なイバラのようにしがみついて身動きが取れなくなる特殊効果のようなものだ。もはや呪いと同等なので抜け出せない本人を責めるものでもないなと思う。
それが不倫や浮気でもない限り、誰に迷惑をかけるものでもないので、高校の部活だと思って体力の限りを尽くして燃え尽きるまでとことんやるのもまた一興だと思う。人には結局自分で判断する権利がある。

大事なのは軽んじられたからといってあなたの価値が軽い訳ではないということだ。軽いのは軽んじた相手の価値だ。

酷いことを言われてもあなたのもつ魅力が酷いとは絶対に思わないで欲しい。事実として存在するのは口汚い人がいるということだけだ。

これは友達にだけ向けた言葉ではない。今これを読んでくれているあなたにも私自身にも言っている。

今、私の声は大事なあなたに届かないかもしれない。
それでも、私が話を聞き続けるのはそんなチンケな言葉を否定して10倍にして返すためである。
その最悪な男が1回ブスと軽口を叩くなら私が10回可愛いと言う。今は100円割引券でも、いつか温泉旅行券の期限が切れる日がきたらそれで一緒にアイスを食べよう。

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