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長男の修学旅行の話 2

長男の決意

タガが外れたように感情爆発させてしまい、泣きじゃくる私を見て、
「どうなるかわからんけど、行ってみるわ」
と言った長男。
私はその瞬間、 “無理矢理言わせてしまった” という罪悪感に駆られた。

翌日長男に
「昨日はほんとにごめん。母があんなに泣いたら、しゃーないなって思っちゃうよね。母は勝手に訴えて、勝手にスッキリしてしまったから、長男が行きたくないなら無理しなくて全然いいからね」
と声をかけた。
もしかしたら気が変わって、やっぱり無理だと言うかなとも思っていた。
しかし翌日になっても長男は「行く」と言うのだ。

行先は北海道。
「飛行機は初めてで怖いけど、すごい豪華なホテルっぽいし、美味しいものも食べられそうだし・・・」
と言いながら、長男は修学旅行への参加を決めた。
一度決めてからの彼の気持ちは揺ぎなく、最終の参加確認の手紙にサインをするよう私に促した。

号泣する私の姿を見て、長男自身も再度考えたそうだ。
学校に再び行けなくなった中1の3学期以降、長男は自己肯定感が著しく低くなっていた。
「自分なんて」という言葉が常に頭にあった。
高校を卒業することを決めてからは授業に出ること、出席することに注力していた彼は、友達を求めても「自分なんて」仲良くなってくれる人がいるわけないと、最初から逃げていた。
しかし、あまりに自分の母親が号泣するのを見て、驚いたけれどどこか納得もしていた。
ずっとフタをしていた心の奥底に「楽しい学校生活」や「学校の友達」に憧れている自分が存在していたことを、改めて認識してしまったのだ。

チャレンジしてみてもいいんじゃないか?
今までと全然違う環境になれば、楽しいことも見つかるんじゃないか?
長男はそんな淡い期待を持てるようになっていた。

参加に向けて

「参加」にサインした手紙を持たせる日、担任のN先生には私からも別途ご連絡した。
ここまで人目を避けるように過ごし、学校行事にはことごとく不参加(学習室に登校することはあっても)だった長男だ。
やはり先生も相当驚かれていたが、すぐに切り替えて
「じゃあお母さん、彼の気が変わらないように、彼が話しやすそうなメンバーでグループ行動できるように考えましょうか」
と言ってくださった。

その2~3日後、先生から再び連絡があった。
実は中1の時に長男と同じクラスだった子が、今同じクラスにいた。
彼も中3でコース転換しており、教室に誰も友達がいない状態で、N先生に「修学旅行は休みます」と伝えていたらしい。
ところが、改めてN先生が彼に
「誰と一緒だったら参加できそう?」
と聞かれたところ、名前を挙げてくれたのがなんとウチの長男だった。
中1の時もさほど話したことはなかったようだが、彼の抱えていた孤独と長男の孤独は被るところがあると、彼は感じていたのかもしれない。

長男には軽く
「例えば〇〇くんなら、同じ部屋でも大丈夫そう?」
と聞いてみた。
長男は
「あー、アイツなら大丈夫かな」
と答えた。

長男はいわゆる「キラキラ」明るい高校生を避けていた。
スポーツもできて、友達とも騒げて、青春を謳歌しているようなタイプの同級生を、忌み嫌うとまではいかないが「自分とは違う世界の人間」だと距離を置いていた。
そういう意味でも、長男とその彼とは近しい感覚を持っていたのだろう。

かくして、N先生のご配慮もあり、長男もその彼もともに修学旅行に参加することとなった。
まさか『修学旅行のしおり』が我が家にやってくるとは・・・
宿泊する部屋割りやグループ行動の班のメンバーを見て、N先生が水面下で必死に画策してくださったであろうことが見てとれた。

修学旅行に出発する直前の説明会の日、その彼が長男に初めて話し掛けてきてくれたそうだ。
もうそれを聞いただけで、私はまた泣き虫が出てきそうになった。
長男もまた、嬉しそうな表情だった。

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