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熱帯雨林 植物の命を感じるところ?不快極まりない飢餓と病気の森?

 園芸好きな隣人から着生植物の
ビカクシダ ― 葉が垂れ下がる
様子が、羽ばたくコウモリに
似ていることからコウモリラン
とも呼ばれている ― の「苗」
をもらった。
 庭のフランジパーニの木に
紐で括り付けたのが、根がはって
自力で留まることができるまで
成長したので紐をはずした。
 着生植物と言えば妖艶な花、
ランだが、このコウモリランは
姿形を楽しむ植物。ちなみに寄生植物
とは異なり木から栄養素を吸い取ること
はなく、ただ場所を借りているだけだ。
 さて、私がこの20年余り住んでいる
バリ島に遊び来た友人らは、誰もが
「豊かな森に覆われたバリ島」という
イメージを抱いて帰国する。確かに
大型リゾートホテル、クラブ、
レストランなどが集中する南部から
離れると、車窓からの景色は1年中、
燃えるような緑だ。が、それらの植物は
ココナッツ、バニラ、バナナ、
クローブ、カカオ、ココナッツなど、
お金になるものがほとんどで、人の手が
入った「農園」だということに気付く。
バリで「手つかずの森」つまり
熱帯雨林はごくわずかしか残っていない。
 太平洋戦争中、日本軍には熱帯雨林、
つまり「ジャングル」の知識がほとんど
なかったと聞いた。花が咲き果物が
容易に手に入る、アンリ・ルソーの
絵の世界を想像していたのだと。
ところが実際は、人が食べられるもの
は何一つない。それどころか、
ヒルやマラリアを運ぶ蚊に
やられ、傷はすぐに化膿して中々治らない。
多くの日本兵が戦闘ではなく
飢餓や病気で亡くなった話は有名だ。
(注:バリにはマラリアはありません)
 そんな熱帯雨林を1時間ほど雨の中、
歩く機会があった。当然ながら、
他では見たことのない太い木が目立つ。
ラタンが絡みつき、朽ち果てて倒れた
木もある。それらは鮮やかなコケに
覆われていて、映画のCG画像のように
完璧なほど美しく、手つかずの森が
発している圧倒的な生命力に頭がクラクラ
した。その一方で、雨合羽の中、靴の中は
ムシムシして不快感極まりない。熱帯雨林は
人など歓迎していない。
 さて、そこで気が付いたのは
冒頭で紹介した着生植物。殆どの木に
複数の大きく成長したものがしがみ
ついていて、日本の森にはない、
エキゾチックな魅力を加えていた。
またあそこに行きたい。植物たちに
息苦しいほど強引に抱かれたい。

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