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本が売れない時代に50万部ベストセラー! スゴ腕PR黒田さんに聞いてみた「どうしたら本は売れますか?」

世の中の書籍編集者がいちばん好きな言葉。それは間違いなく「重版」でしょう。私もそうです。

けれど、手間暇いとわず、思いを込めて、苦労して作った1冊がなかなか重版しない。売れない。ミリオンとは言わないから、10万部、5万部、いやせめて3万部売れてくれたら。私には編集能力が決定的に欠けているのでは……。

そんなモヤモヤと諦めを抱えながら2021年に出した1冊の本。それがなんと、突如、半年足らずで12万部を超えるヒットとなったのです。しかも社内では「初版4000部なら……」と辛うじて通った無名の著者の企画だったのにもかかわらず。

なぜそんなミラクルが起こったのか? それは、この本の発売前、「なんとかプロモーションをお願いできませんか?」と、この方に頼み込んだからです。

黒田剛(くろだ・ごう)
株式会社QUESTO代表 書籍PR

1975年、千葉県で「黒田書店」を営む両親のもとに生まれる。芳林堂書店外商部を経て、2007年より講談社にてPRを担当する。2017年に独立し、PR会社「株式会社QUESTO」を設立。講談社の『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』(黒川伊保子)は、シリーズ50万部を超えるヒットを記録。『いつでも君のそばにいる』(リト@葉っぱ切り絵)をはじめとする葉っぱ切り絵シリーズは25万部を突破。『続 窓ぎわのトットちゃん』(黒柳徹子)は、発売2ヵ月で50万部突破。その他、KADOKAWA、マガジンハウス、主婦の友社、岩崎書店、世界文化ブックスなど、多くの出版社にてPRを担当。

黒田さんのお仕事は書籍のPR。もともとは講談社で新刊プロモーションを担当していたのですが、その後、独立。いまや、講談社以外の出版社各社からも文字通り引っ張りだこの人です。まあ、どこの出版社もいま、本を売るのには苦労してますからね。

それにしても黒田さんがプロモーションすると、なんで本が売れるんだろう? これまで出版社だって、リリース作ったり、広告打ったり、あれこれ本の宣伝はしてたわけです。黒田さんのPRってどこが違うの? 

気になりすぎて、そのスゴいPR術を教えてください! とお願いしてみたところ、お忙しい黒田さんに時間をいただけることに。

たとえ黒田さんがいなかったとしても自力で本を売れるようになるためのヒントを見つけたい! という密かなもくろみを抱き、表参道にある黒田さんの事務所QUESTOを訪ねたところ、黒田さんのトークは止まらず、インタビューは結局6時間にも及んだのでした。それをなるべくかいつまんでお届けします!

黒田式・書籍PR3原則

黒田 でもぼくのPRの方法は、ものすごく効率悪いですよ。税理士さんにも「黒田さんの仕事の仕方は効率が悪すぎる」って怒られてますからね。

下井 何ですかそれ!

黒田 だから、誰もやりたくないかもしれない。マッキンゼーのコンサルとかが聞いたら血相変えて、やめろ!って言うような仕事の仕方ですよ。それでも大丈夫ですか?

下井 ますます聞きたくなってきました! まず聞きたいのは、黒田さんがPRで大切にしていることって何かな、ってことなんですが。何かありますか?

黒田 ありますよ。ぼくが本のPRで大切にしていることは、基本この3つです。

その1:著者の取材には全部立ち会う。
その2:メディアにリリースを送らない。
その3:本の内容の説明をしない。

下井 えっ! いきなり意味がよく分からないです! 本の内容を説明しない??? 説明をお願いします!

著者のおすすめはチャレンジする

黒田 まずいっこめの「取材に立ち会う」なんですが、メディアの取材を決めるまでがPRの仕事で、「あとは編集さん、よろしくお願いします」ってパターンも多いみたいなんですよね。でも、ぼくにとって重要なのは、決まった後からなんですよ!

下井 たしかに黒田さん、どんな小さな取材にも立ち会ってくれますよね。

黒田 取材や出演が決まってから掲載や放送されるまでを一番大事にしてるんです。取材で著者さんが話していることをひたすら聞いて、いったん著者の脳内を自分の中にインストールするんですよ。取材を2〜3本聞けば、著者さんが乗り移ったかのように、本人にほぼなりきって話せるようになるんです(笑)。あと、著者さんがすすめることはやってみることにしてます。たとえば、ぼくが最初にPR担当したのが、ランニングコーチでマラソン解説者の金哲彦先生の『体幹ランニング』なんですけど。

下井 この本、2007年の発売時期に7万部売れたんですよね。いまは版を重ねて10万部くらいみたいですね。

黒田 金先生に初めてお会いしたときに「マラソン走ってみたら?」ってすすめられて、よし!って東京マラソンに応募してみたら当選しちゃったんですよ。で、初マラソンにチャレンジしたんだけど、途中から膝が痛くなってもうボロボロ。PR担当してなかったら途中でやめて帰ってたと思いますね。必死の思いでゴールしたものの、6時間近くかかって、もう辛さしかなかったですね。完走ではなく完歩でした。それからちゃんと金先生の本を読み込んで練習するようにして、結果的に3時間20分までタイムが伸びたんですよ! そんな感じでメディアの担当者に実体験を元に熱く話をすると、やっぱり聞いてもらいやすいんですよね!

下井 だいぶカラダ張ってますからね……。この本が出たの、もう15年以上前ですね。当時、私も女性誌のランニング特集担当で、この本で「体幹で走る」って概念を初めて知りました!

黒田 当時、“体幹”って言葉を知っている人は、一般にはほとんどいなかったですよね。だから、この本のテーマは“体幹”って言葉を浸透させることだったんですよ。その時、金先生が契約してたシューズメーカーが『TAIKAN』っていうランニングシューズを出してて、そのメーカーの担当者が「昔、“キシリトール”って、日本人は誰も知らなかったですよね? でもガムのおかげでいまはみんな知ってる。ぼくは“体幹”も“キシリトール”にしたいんですよ」って言ってたんです。この本は、“体幹”って言葉もかなり広められたと思います。

下井 黒田さん、Sayaさんのエクササイズも続けてますよね。

黒田 そうそう! フィットネストレーナーSayaさんの本を担当してから、毎日必ず10分。

下井 おかげで黒田さん、すごい変わりましたもんね!

黒田さんAFTER (左)と
黒田さんBEFORE(右)

黒田 自分の会社作ってから走る時間作れなくなって激太りしちゃってたのが、このエクササイズで6kg痩せましたからね。

下井 リトさんの葉っぱ切り絵にもチャレンジしてましたよね!

黒田さんがお手本にしたリトさんの作品「遠い夢も、手を伸ばせばきっと近くに」(左)と
黒田さん制作の葉っぱ切り絵作品(右)

黒田 ぼくは子どもの頃から「落ち着きがない」ってよく言われてたんですよね。よく言えば行動力がある、とも言えるのかもしれないですが。頭で理解するより、まずやってみちゃおう! ってなるんです。だから「走るといいよ」って言われると走りたくなっちゃうし、「こういうふうに料理するといいですよ」って言われると料理したくなっちゃう。で、実際に試してみると、著者さんがインタビューで言ってたこともすごくよく理解できるんです。嬉しくて「やってみました!」って著者さんに伝えますよね。そうすると著者さんにも喜んでもらえるんですよね!

下井 著者さんの言うことをここまで実践してる人、見たことないです! そりゃ嬉しいと思いますよ。

黒田 著者と編集者って、本作りの過程で、半年とか1年2年かけて関係を築いてきてますよね。PRってそこにいわば“後乗り“するので「なんだこいつ?」と思われやすい部分もあると思うんです。ぼくは自分がチャレンジしたいから実践しているだけなんですけど、それが結果的に著者さんに信用してもらってPRを任せよう、と思ってもらえることにつながっているのかな、と気づいてきました。そういう信頼関係が生まれると、やはりいい企画も決まりやすくなるんですよね。

下井 しかし、たしかに効率悪いなあ。

エレベーターの中が勝負

下井 次の「リリース送らない」って何ですか?

黒田 出版社さんもリリースを一斉にバーッって送りますよね。この方法だとなかなか伝わりにくいんです。だからぼくは、1つひとつ電話したり会ったりすることを心掛けているんです。さっきの「全部の取材に立ち会う」っていうのにもつながってるんですけど、じつは、そこで新しい本の紹介をしてるんですよ。

下井 えっ? どういうことですか?

黒田 たとえば、出版社の1Fロビーで、取材に来たメディアの人と待ち合わせるじゃないですか。で、取材場所の会議室とかに上がるエレベーターの中の15秒とか30秒で「いま、葉っぱに切り絵をするアートが人気なの知ってますか?」って新しい本のことを提案してるんです。

下井 ええっ! エレベーターの中でめっちゃしゃべってるってことですか?

黒田 そう! なんでかっていうと、ぼくみたいなPRの仕事って、アポイントを取って会いに行って提案する、っていうのが難しい業界なんですよ。いわゆる営業的な営業ができない。テレビの人に「今度こんな本が出るので打ち合わせしてください」って、やっぱ難しいんですよ。

下井 テレビの人も忙しいから……。

黒田 そうなんです。リリース持ってテレビ局行って「今度こういう本出るんですけど、よろしくお願いします」「ああ、そこに置いといて」って、そういう営業も1回やったことあるんだけど。これ、絶対決まらないな、と思って。

下井 ああ、イヤですね〜。絶対リリース見てもらえないんですよね。

黒田 過去の営業の経験から、何か他の方法を考えなきゃ、と思いましたね。相手の印象に残る形の提案をしないと意味がないと思ったんですよね。どうにかして印象に残る提案方法はないかな、って思って見つけたのが、取材の日の取材前時間。待ち合わせの場所にいるじゃないですか。たとえば「カメラマンさんがちょっと遅れてます」っていう時に、1冊提案できる。エレベーターに乗った時に1冊。で、取材終わってエレベーターで送る時に、もう1冊。「最近どんなネタが視聴率取れるんですか?」「SNSでバズってるのがいいですかね」「あ、それならまさにオススメの著者がいますよ〜! 葉っぱ切り絵がSNSでバズってて、いま世界中から絶賛されているアーティストをご存知ですか?」みたいな形です。

下井 だから黒田さんって、取材の後いつも、エレベーターで送って行ってるんですね!

黒田 要するに、この本についてはこれを話す!みたいな、15秒動画みたいなのを自分の中に持っておくイメージです。それをバババッって言えるようにしておいて、たまたま待ち時間が長くなっちゃったとか、向こうが「もっと知りたいです」ってなった時に、今度は別にロングバージョンで伝える、っていう形が多いです。

契約が取れない! 暗黒時代にしたこと

黒田 じつは、書店で営業してたときの経験がブレイクスルーになって、この方法を見つけ出したんですよね。

下井 黒田さんって、そういえば講談社の前、書店にいたんですよね。営業って何してたんですか?

黒田 芳林堂の外商部ってところにいたんですよ。ぼく、もともとは実家が「黒田書店」って本屋で。母が百科事典を日本一売る伝説のセールスウーマンだったんですがーー。

ここで、黒田書店に生まれた黒田さんが、子ども時代に母からセールスの極意を受け継ぎ、遊びに夢中だった小中高大を経て就活もせずふらふらしていたところ、全寮制の書店員養成スクール「須原屋学校」に放り込まれ、担当した書店の棚の改革をして本を売りまくり、芳林堂に入社し、電話+FAX+ワープロだった本の受発注をDX化し、営業担当になるまでの壮大なストーリーが2時間にわたって語られる。

下井 百貨店とかの外商って、なんとなくイメージ浮かぶんですが、書店の外商って何するんですか?

黒田 お客さんが図書館なんですよ。学校にはそれぞれ図書館がありますよね。図書館って年間予算が決まっているから、その予算内でうちの書店から本を仕入れてもらえないか、図書館の司書さんたちに営業するんです。

下井 へえ〜。そっか、考えてみたら図書館の蔵書って、書店さんの営業で成り立ってるんですね。

黒田 入社当初は、すでに芳林堂と契約している図書館から本の注文取ってたんですよ。それが、1年経ったら急に、「新規営業やれ」って言われて。営業の日報を書かなきゃいけないから、毎日15件ぐらい飛び込みで「名刺渡してきましたー!」みたいなこと数ヶ月間やってたんですけど、これが決まんないんですよ! なんで決まんないかって言ったら簡単で、すでに丸善とか紀伊國屋とかの大手書店と契約していて、しかもサービスや仕入れ値もいいから変える必要がないんです。電話してもアポ取れない。突撃しても会ってもらえない。こりゃ一生契約取れないな、と途方に暮れましたね。

下井 つらいですね。でもまあ、そうでしょうね。

黒田 どうしたらいいかなって思った時に、ぼくが何やったかっていったら、本を読んだんです。営業の車を停めて、成功してる人たちの本を読みまくった。本屋の息子に生まれながら、ちっちゃい頃からそれまで全然本読んでなかったんですよ。

下井 本読んでないのに書店員してたんですか?

黒田 そうなんですよ。他の書店員さんのような読書家ではなかったですね。読んだことないけど、どんな本が必要とされているかを考えて、売り上げを伸ばしてたんです。で、困り果てたその時、ようやく読んだ本の1冊に、「IBMがなぜ成長したのか」について書かれたビジネス書があったんです。何が書いてあったかというと、IBMがいまほどの企業ではなかった時に、異常に売り上げが突出している支社があったと。で、そこにどうやって売ってるのか聞きに行くんですよ。普通は、自分たちの作ってる商品がどれだけ素晴らしいか、ってことをアピールして営業するわけじゃないですか。だけど、その支社が何をしてたと思います?

下井 商品の素晴らしさをアピールしてなかったんですか?

何かお困りのことありませんか?

黒田 そうなんですよ! 商品のすごさを宣伝するんじゃないんです。お客さんに「何かお困りのことありませんか?」って聞きに行ってたんです。そうするとお客さんも困っていることをいろいろ話してくれる。そこで初めて、その困りごとを改善する商品を提案していた。その営業方法を他の支社も真似するようになって、IBMは飛躍的な成長を遂げた、っていうんですよ。これだ!って思いましたね。

下井 え? 図書館への営業にIBM方式を取り入れたってことですか?

黒田 飛び込みするうちに、司書の人と会える時間帯がすごくたまにあることには気づいてたんです。午前の1時間、午後の1時間くらい、ポカッとあいてる時間があって、その時間なら会ってくれることが分かっていた。それで、その時間にちゃんとアポを取って行こう、って決めて電話したんです。そこで言うようにしたんです。「契約しなくていいです。こちらのエリア担当になったので、いまの書店さんのサービスでお困りのことを聞かせてください」って。そしたら、不思議なくらいアポが取れるようになった。

下井 ええーっ!

黒田 ぼくもびっくりしちゃって。なにしろ行くのは、午前と午後の1日2校だけだから、その学校のホームページ見て、徹底的に調べることにしたんです。ホームページを読み込んで行って、「この学校、ここがいいところですよね!」とか話すじゃないですか。そうしたら「20分なら」と言われてたのに、生徒が来ても「まだ大丈夫」とか言って、2時間ぐらいぼくの話を聞いてくれるようになったわけです。

下井 大丈夫だったんだ(笑)。何を2時間も話すんですか?

黒田 なんで2時間も話すことになったのか。「何かお困りのことありませんか?」って聞いたんですよ。

下井 IBM方式だ!

黒田 そしたら学校、とくに私立の中高における図書館の意味、存在意義っていうのがだんだん分かってきたんです。何だと思います?

下井 何だろう?

黒田 私立の中高って、たくさんの人に受験してほしいんです。で、受験生を増やす決め手って、進学率とかいくつかある中で、図書館の充実、っていうのもあるんですよ。図書館の中身が在校生の学力を反映している面ってたしかにあるんですよね。

下井 ああー、図書館って、親も学校見学でたしかに必ずチェックしますね!

黒田 ですよね! それで、図書館を充実させたい司書さんたちの悩みは、たくさん話を聞きましたが、結局2つしかなかったんです。
:売れてる新刊が入ってこない。
:新刊図書パンフレットが発売から3ヶ月経たないと届かない。もっと早くパンフレットを作ってもらえないか。
要は、この2つだったんです。

下井 ははあ。

黒田 1は、その当時でいうとハリーポッターとかですよね。書店ですごく売れてる本は、図書館に回してもらえてなかったんです。でも司書さんとしては、「書店で山積みになってるのに、生徒が読めないってどういうことですか」ってなっちゃうわけです。で、ぼく、これはすぐ解決できたんですよ。書店内の仲良しの人に「お願い!」って、1冊回してもらったりできたから。

下井 なるほど〜。さすが!

黒田 2なんですけど、これが大変でした。トーハンや日販などの取次にも聞いて回ったんですが、とにかくどこを探してもないんです。ただ、これも解決できたんです! 当時、ぼくが、アナログだった本の受発注システムをデジタル化してたじゃないですか。

下井 それまで電話やFAXで注文受けてワープロに打ち込んでた超アナログシステムを、パソコン導入してエクセルで受発注の管理するように仕組み作りした、って話ですよね?

黒田 そうそう! 学校名、受注した本の書名が整理されてたんだけど、注文の多い順に並び替えてランキング化したんですよ! もちろん学校名は伏せるんですけど。進学校も入った、その「ランキングBEST100」のリストがめちゃくちゃ受けたんですよね。同じ業界でーーつまり学校ってことですけど、何が人気かなんて、それまでどこにも出てなかったから。このリストのおかげで他の学校の司書の方が、何を頼んでるか分かるわけです。

下井 そりゃ、そんなマニアックなリスト、どこにもなかったでしょうね(笑)。

「お願い」はしない

黒田 面白かったのは、その1位から20位ぐらいまでは、まあみんな、分かる、って言うんですよ。でも、「この21位から100位がすごくいい!」って絶賛されたんです。たぶん、いわゆる進学校それぞれの生徒が読みたくて選んでる本が入ってたから、みんなが読んでるベストセラーとはちょっと違うラインナップになってた。それを毎月作ったんですよ。

下井 それはたしかに受けそうですね!

黒田 で、そうなると新規営業が楽しくなるわけです。電話して、アポ取って行って、「お困りのことはありませんか?」って相手の話を聞く。その解決案として「ランキングBEST100」を提案すると、めちゃくちゃ盛り上がる。「こんなリスト初めて見たー!」と。ーーみたいなことやってたら、1人の有名私立高校の司書さんがぼくをいろんな人に紹介するようになったんです。「うちは契約できないけど、困ってる人いっぱいいるわよ」みたいな感じで。なんか司書さん同士のネットワークがあったんですね。そしたら1年目は1件も取れなかった契約が、2年目はいきなり新規20件近くも取れちゃったんですよ。

下井 ええっ、いきなり! すごい!

黒田 これがぼくの最初の成功体験であり、いまの仕事のやり方の原型でもあるんです。相手が必要としていることを聞き出して用意する。それで、相手のほうに「何それ!」って興味を持ってもらう

下井 こっちからお願いしたわけじゃないのに、気づくと向こうが契約したくなっちゃってるんですね。すごすぎる……。

黒田 つまり、「この本素晴らしいので紹介してください」ってお願いするのは、こちらの都合でしかないんですよ。相手が思わずその本を紹介したくなるような提案をしなきゃいけないんです!

下井 編集者のリリースはこちらの都合を押し付けてたんですね。反省します……。

黒田 いえいえ、内容が分かるリリースも必要です。でも、本のよさだけでなく、相手が何を欲しいかを考えることが大切なんだと思うんです。

編集者のリリースに足りないのは○○○だった

黒田 で、ぼく、リリースは送らない、って言ったけど、企画書は作るんですよ。

下井 リリースと企画書、どう違うんですか?

黒田 たとえば、テレビのディレクターさんがレストランのシェフだとします。そのシェフがビーフカレーを作りたいとするじゃないですか。

下井 はい?

黒田 ビーフカレー作るとしたら、ビーフや玉ねぎやにんじん、カレー粉って、必要なものがあるわけじゃないですか。それを用意して持ってく、っていうのが、ぼくの仕事だったりするんです。

下井 うん? カレー……ですか?

黒田 本が、仮にビーフカレーのビーフだとしたら、ビーフだけじゃなくて、「これだったら番組ににできるよね」っていうネターーたとえば「著者が稼働します」とか「著者の自宅取材オッケーですよ」だったりとかっていう、テレビ番組を作るうえで必要な「材料」それから「レシピ」を持っていくんです。だから「カレーですよ」とも言わないんです。

下井 編集者が作るリリースは「こういうカレーですよ」っていう説明しかしてないってことですか?

黒田 いや、編集者のリリースは、「こういうカレー」じゃなくて「こういうビーフですよ」「こういう玉ねぎですよ」っていう具材の説明なんです。

下井 玉ねぎ!

黒田 いや、ジャスティン・ビーバーが認めた玉ねぎだったら全然いいですよ! 「帝国ホテル料理長が認めた唯一の玉ねぎ」ならいいです。でも、「美味しいお肉ですよ」「美味しい玉ねぎですよ」しかないとなかなか企画が通らないんですよ。本当は、その美味しいお肉を「こうしてこうしてこういうふうにしたら美味しく食べられるんですよ」って、レシピ化して持っていくと喜んでもらえるんです。具材だけじゃなく、食べ方もあわせて持っていく

下井 う、痛いことを言われた気がする。

黒田 たとえば分かりやすい事例でいうとね。

下井 うんうん。

黒田 片付けの先生の本があるとするじゃないですか。出版社は、先生の片付けメソッドのすごいところをアピールするリリース作りますよね。プラス「先生の取材OKです」くらい書いてあるんですけど、ぼくは「取材受けます」だけじゃなく「先生がこれから片付ける家あります」っていうのを用意するんです。なぜかっていうと、テレビが片付けのコーナー作るとき、一番大変なのが、片付ける家を探すことなんですよ。みんな、片付け前の「ビフォー」って見せたくないから。

下井 そうか、それがテレビの「お困りのこと」なんですね!

黒田 そうなんです! でも、片付け2年待ち、みたいな先生が「テレビ出てくれたら、私、すぐ片付けやりますよ」と言うと、「あ、じゃあうちの片付けやってください」って人も出てくるんですよ。それでたとえば「5人家族で、家がいまこんな状態で、ここをなんとかしたくて」っていう解決すべき課題を詳細にまとめる。それを東京、大阪……と各地に何軒も見つくろっておく。

下井 それ、普通はテレビの人が見つくろってるんですよね?

黒田 そうですね。本来はディレクターさんとかADさんとか、リサーチャーと呼ばれる人たちの仕事です。じつは、ぼくが自分の会社を立ち上げて1年くらいしたときに、知り合いにテレビの放送作家さんを紹介してもらったんです。その人に協力してもらって、テレビの人たちが欲しいだろう、っていう具材をこちらで探してレシピ化する、つまり企画書にして送る、っていうことをするようになってから、圧倒的に番組が決まるようになったんですよ!

下井 編集者が作るリリースって基本、レシピはなくて、本の内容を説明してるだけですもんね。そっか、黒田さんのPRの原則のその3「本の内容の説明をしない」っていうのは、そういうことか!

黒田 そうですそうです。もう1つ面白いことがあって、この企画書は新聞、雑誌、ラジオ、ウェブの方共通に喜んでもらえるんです。メディアの方は、みんなレシピを求めてるんですよね。

下井 我々のリリースは、相手が必要なことに寄り添ってなかったですね……。それに比べて黒田さんの企画書ってだいぶ親切じゃないですか。番組が決まるのもそりゃ当然ですよ!

黒田 ところが、もちろん企画書も、作ってバラまけばいいってものでもないんですよね。

下井 え! まだやることありましたか!

黒田 まだ終わらないです!(笑) 

決まるメール・決まらないメール

黒田 企画書があると、提案としてはものすごく分かりやすい。あとは、どういうふうにしてその企画書を送るかってことが、やっぱり大事なんです。

下井 ははあ……。

黒田 同じ企画書でも、決まる時と決まらない時があるんです。重要になってくるのが、企画書を送る時のメールの文面。でも、ぼくはじつはずっと文章を書けないことがコンプレックスだったんですよ!

下井 ええっ! こんなによくしゃべるのに!(笑)

黒田 そう! 話し言葉で伝えるのはものすごく得意だったんだけど、メールで文章を書いて送る、っていうのがとにかくイヤだったんです。

下井 へええ、意外です。

黒田 なぜかっていうと、講談社で仕事を始めたばかりの頃、たとえば「この本、番組に持っていこうと思うんです」って時に、ちょっと書いた文章を担当編集者に見てもらうじゃないですか。そうすると、いっぱい赤が入るんですよ。どんどん直されていくんで、自分の日本語力の低さをどんどん自覚するわけです。

下井 そんなに直されるものですか!?  ああ! 内容じゃなくて、誤字脱字とか言い回しとかを正しく添削されちゃうわけですね?

黒田 そうなんですよ! 

下井 編集者にお願いするとそうなりますよ。それが仕事なんで(笑)。

黒田 で、直されるたびに傷ついてたんですけど、「なるほど」とか言って、直してもらった正しい日本語でメールしてたんです。でも、ぼくの言いたいことが、相手になかなか伝わってないような気がしてたんですよ。

下井 ああー、添削されて「黒田さんの言葉」じゃなくなってるからですね。

黒田 ところが、いつもメールを見てくれてた編集の方がすっごく忙しくて、でもぼくも早くメール送らなきゃいけなくて、って時があったんですよ。その時、もうしょうがない! と開き直って、とにかく一生懸命自分なりに受け取る人の気持ちを想像しながら1人でメールを書いて送ったんですよ。

下井 うんうん。

黒田 そしたら、でかい番組がいきなり決まったんですよ!

下井 ええーっ!

黒田 で、その時に気づいたんです。あれ? もしかしたら「用語として正しい文章」と「相手に伝わる言葉」っていうのは違うんじゃないかな? って。メールって、手紙と違ってやっぱり機械的な感じなんですよね。そういうメールがいっぱいくる中で、変な誤字脱字があるっていうのはむしろいいんだ、と思ったわけです。手書き感が出てて。

下井 なるほど! 「これは人が書いてるんだな」って温度を感じさせるメールのほうがいいのかもしれない、って発見したんですね!

黒田 そう、「こいつちゃんと自分で書いてるな」「どっかの文章のコピペじゃなくて、自分の力で書いてるな」って伝わったほうがいいんじゃないか、って思って。自分がしゃべってるみたいにメールを書くようになったら、めちゃくちゃ番組が決まるようになったんです!

下井 その「しゃべってるみたいにメールを書く」コツをもう少し詳しく教えてもらってもいいですか?

黒田 たとえば、5年前に会ったきりの人にメールを送るとするじゃないですか。まずは5年前のことを思い出して、どんな雑談をしたのか、何に興味を持っている人だったかを思い出す。それをイメージしながら、「5年前のあの時お世話になりました」みたいに始めて「あの時こんなこと言ってましたよね」「じつは今度こんな本が出るんです。〇〇さんがもしかするとご興味あるかと思ってご連絡しました」みたいな。最初の2行でもいいから相手にとってオンリーワンなメールにしていくんです! オンリーワンなことと今回送る内容をどうつなげるか、っていうとこを考える。

下井 へええ! 誰にでも同じ定型文では送らないってことですね!

黒田 あと、これはぼくの文章の癖でもあるんですが、関係ないことを最後に入れたりしますね。ランニングをやってる人なら「最近、ランニング復活しました! 今度の東京マラソンに出場します!! サブフォー目指してます!」みたいな。そうしたら、仕事とは関係ないけど、返信が来るようになります(笑)。「おっ! 黒田さん、ランニング復活ですか!」みたいに。仕事の内容だけでなく、何か共通のことを見つけることを大切にしてるんです。

下井 ほんとにしゃべってるみたいに書いてるんですね〜。

黒田 これはPRとしては邪道なのかもしれないんですが……。特定の番組に向けてアプローチするために書く、というより、その人自身に「黒田さんからメールもらうとなんか嬉しい」って思ってもらえるといいな、って思って書いてるんですよね。だから「黒田さんのメールはオマケがいい」って言われたりします(笑)。

下井 ビジネスの本題ではないオマケのほうね(笑)。そうか、入り口は「番組」ではなく、あくまでも「人」なんですね。

黒田 そう! 企画書って要は、ディレクターさんが企画会議に出したり、プロデューサーを説得したりするために使うものじゃないですか。なのでその人が、ぼくから聞いた話を誰かに伝えたくなるようにイメージしてメールを書いてるんです。ぼくのメールを受け取った人が、たとえば企画会議でみんなの爆笑を取ってたり、「え、何それ?」と聞かれてたりするシーンまでイメージしながら書いてます。だから上司を口説きやすいように「タレントの○○さんも通ってるんです!」とか、つい人に話したくなるようなネタも入れておく。本を紹介してほしい、って言うより、そのほうが決まることが多いんです。

下井 なるほど……黒田さんのイマジネーションが非常に豊かなのがよく分かりました!(笑)

毎日10件のルーティン

下井 あと、1つ気になってることがあって。黒田さん、TO DOリストみたいなノートつけてるじゃないですか。で、タスクが終わったら線引いて消してて。あれ何ですか?

黒田さんのノート

黒田 これは、ちょっと長くなるけどいいですか?

下井 はい。

黒田 ぼく、自分の会社を始める時に、会社をでかくするっていうより、長く続けることを目標にしよう、って決めたんですよ。それで、90歳まで本のPRを続ける方法ってあるのかな、と考えてた時、たまたま村上春樹さんの『職業としての小説家』っていう本を読んだんです。

黒田 そしたら、「作家としてデビューする人はいっぱいいるけど、30年以上にわたって最前線で書き続けてるっていう作家はかなり少数だ」みたいな話があって、さらに 「そんな人たちには共通点がある。それは自分なりのルーティンを持ってることだ」って。じゃあ、これをPRの仕事に応用したらどうだろう、ぼくも何かルーティンを続けていけば90歳までPR続けられるんじゃないか、と思ったんですよね。

下井 はああ。

黒田 で、村上さんのルーティンは、長編の小説を書くとき、毎日、400字詰め原稿用紙にして10枚の原稿を書くことだって書いてあって。10枚より多くもなく少なくもなく。気分が乗らなくて2枚しか書けない日でも、とにかく頑張って10枚書く。もっと書きたくても10枚でやめる。つまり、30枚とか50枚とか書いちゃうと、「もう今週は書かなくていいや」ってなっちゃう。これが継続するうえで危険なことだっていうんですね。だから、いかにやりすぎず、いかにやらない日を作らないってことが大事か、ってことなんです。

下井 なるほど。その本、私も読んだんですが、そんなこと言ってましたかねえ。

黒田 村上春樹さんが書いたそのままじゃないですよ。とにかく、ぼくはそう受け取ったんです。会社にいると、上から誰かが「あれ、どうなったんだよ」とか言ってくるじゃないですか。でも1人でやるってことは、そういうこと言われなくなるってことだから、要は自力で続けていく指針が必要なんですよ。で、ぼくにとって、村上さんの原稿用紙400字×10枚にあたるものはなんだろう? って考えたんです。それが「毎日10件新規提案する」だったんです。

下井 なんと、村上春樹方式だったんですか! 10件って、企画書を送るのが10件ってことですか?

黒田 メールを書いて企画書送るってのも、1つの提案ですよね。で、それを10本送る、ってことでもないんですよ。もちろんメールも含めてなんですけど。たとえば、今日まだ9件しかやれてません、という日に、夜、テレビの人とご飯に行く約束があるとしますよね。

下井 そこで提案して10件になる、ってことですか?

黒田 そのご飯は別に何か提案するんじゃないんです。ただ、あと1件やんなきゃいけないから、このタイミングでどっかで1本提案しよう、と頭の中では考えるわけです。「窓際のトットちゃんの話しよう」とか「あのレシピ本の話しよう」とか。ただ、その時にポイントなのは、さっきの「本の内容は説明しない」って話ともつながってくるんですけど、本の話としては言わない、ってことなんです。本の紹介をするんじゃなくて、「こんな面白い人いるんですけどね」とか「アメリカのGoogle本社でずっと教えてた日本人の先生のエクササイズがあるんですけどね。それやったらめちゃめちゃ痩せたんですよ!」って話すと「何ですかその本!」ってなる。で、本は絶対持って行かない

下井 えっ! 持って行かなくていいんですか。

黒田 その日は本は渡さないんです。するべきなのは、本を渡すことじゃなくて、 その人の脳の中にポンと入れること、っていうイメージなんです。だから、家に帰った後に「あれ? 黒田さんが今日話してたのって何だっけな?」ってなるといいんです。実際、後からすごく連絡くることが多いんですよ。「この間、黒田さんが言ってた話、あれって何ですか? 教えてください」「本、届いてないですよー」って。

下井 何それー!(笑) 普通、ちょっと興味持ってもらえたらすぐに「これ読んでくださいよ」って渡したくなりますよね。

黒田 向こうから「その本読んでみたい!」ってなるまで本は渡さないんです。ある意味ぼくは、そこで決めにいこうとはしてないんです。1件決まるのは短期的見ればいいんですが、むしろ長期的に見て次につながっていくことを大事にしていて。どっちかっていうと「この人から電話が来たら嬉しい」「この人からメールが来たら嬉しい」っていう存在になるほうがいいんです。

下井 高度すぎるー!

断られても怖くない理由

黒田 でも編集の人たちもPRってできると思うし、実際してると思うんですよ。本ができたら、知ってるメディアの人に連絡したりしますよね?

下井 でも1日10件はできないです〜!

黒田 なんでやらないと思います?

下井 まず、黒田さんほどツテがないですよね。

黒田 それもあると思うんですけど、多くの人がPRしなくなっちゃうのは、おそらく、断られることに慣れていないんだと思うんです。著者に対してはガンガンアプローチするのに、メディアに対しては断られると億劫になってしまうんだと思います。断られ続けるとイヤになってやめちゃうんです、みんな。2回、3回って断られると、世の中の全員に断られたような気持ちになっちゃうんですよね。ぼくはしたことないですけど、就活で落ちまくったときみたいな感じですかね。

下井 そうですね。やっぱダメだったか、とダメージが大きいですね……。

黒田 そんなこと全然ないんですよ! そりゃ、ぼくだって断られまくってますし、メールしても返信こないとか普通にありますよ。

下井 黒田さんでもそうなんですね。めげたりしないんですか?

黒田 そりゃあぼくも、断られ続けると「大丈夫かな、この本?」って、一瞬不安になることはあるんですよね。

下井 やっぱ、そうなんですね!?

黒田 で、伝えておきたいのは、「この本のよさを伝えるのは無理かもしれない」と思いかけた時に必ず立ち返るのは、ぼくは、この著者さんの本を出そう、と決断した編集者さんと出版社さんを信じる、ってことなんです。一生懸命企画を通して、著者さんと時間かけて打ち合わせしたり取材したりして本を作り上げた編集者さんと出版社さんを信頼するからこそ、ぼくは頑張れるんです。

下井 そう言ってもらえると、なんか嬉しいですー!

ルールによって行動が変わる

黒田 それとですね、1日10件提案する、と決めているので、もう、やるしかないんですよ。必要なのは、断られるかもしれないところにも提案する勇気

下井 勇気ですか!

黒田 漫画とかで、気になる男子に電話とかLINEしたくてもなかなかできない女子が出てきたりしますよね。「ピッ!」ってボタン押すだけなのにそれができない。それを「ピッ!」ってやる勇気ですね。で、 そういうふうに1日10件やってると何が起きるかっていうと、当たり前だけど、普段しない行動をするようになる。行動が変わるんですよ。

下井 ルールによって行動が変わるんだ!

黒田 そうなんです! 毎日が“新規探し”になるんです。たとえばメディアの誰かからメールがきて、何か聞かれたとしますよね。で、聞かれたことに答えた後に、「ちなみに」って、相手が「何だろう?」って思うようなネタを提供する。本当は「ちなみに」のあとが伝えたい本題なんです!(笑) これで1件。あとはよく編集の方から「黒田さん〜、著者さんがあの番組に出たいって言ってるんですが、何とかならないでしょうか?」って相談されたら、普通「え〜、無理だよ〜!」って思うかもですが、ぼくは「よしきた! 何とかできないか考えよう! これで新規1件! ありがとうございます!」って考えちゃうんです。

下井 それで何とかしちゃうんですね?

黒田 10件やってると何が起こるかっていうと、2件、3件断られても、4件目、5件目で「あ、うちできますよ」って言われたりするんですよ。提案し続けない限りはそれはないんです。そうやってぼくはPRの仕事を続けてきたんです。この方法を始めてもう7年になります。

下井 いやあ、やっぱりすごすぎます!

黒田 でも、メールや電話するときはいつも「この人、この連絡もらったら、きっと喜ぶだろうな〜」って、気持ちで連絡してるんですよ。自己肯定感高めかもしれないです(笑)。

下井 間違いなく高いです(笑)。

砂場と編集とPR

黒田 これができるのは、ぼくのもともとの性格もあるかもしれない。

下井 どういうことでしょう?

黒田 子どもの頃、砂場で遊ぶじゃないですか。

下井 はい、砂場!?

黒田 砂場ですっごいお城を作る男子っているんですよね。「すげーだろ!」って。ぼく、子どもの頃から公園に行っても、砂場で何かを作るタイプじゃなかったんですよね。ぜんぜん関心なかった。その代わり何してるかっていうと。

下井 何してるんですか?

黒田 「あそこにすごいお城があるよ!」って、みんなを呼びに行くんです。どうやって伝えたらみんなが砂場にお城を見にきてくれるか考えるタイプだったんです。いまとやってることが変わらないんですよね!

下井 たしかに!

黒田 著者や編集者が砂場でコツコツ何かを作り上げる人たちだとしたら、ぼくは砂場の外から、それを見る人を呼んでくるための工夫をするのが好きなんですよ。子どもの時からずっとそれは変わらない。

下井 へええ、面白い! 私は完全に砂場で作る派でした。本を作って売るためには、どっちのタイプも必要ですよねえ。しかし、人って子どもの頃からそんなに変わらないものなんですね!

黒田 だからいまも、たとえば誰かに誕生日プレゼントする時も、プレゼントの中身よりも、“渡し方”を考えちゃう。何かが欠落している気もするんですけど(笑)。ぼくがPRの仕事を好きなのは、「まだみんなが知らないものをたくさんの人に伝えて喜ばせたい!」っていう、子どもの時からの衝動が根っこにあるからなのかな、と思うんですよね。

下井 なるほど。黒田さんのPRが決まるのは、その情熱が相手に伝わってるからなのかもしれませんね。黒田さんのやり方を表面的に真似したとしても、それがないとダメな気がします。ただ、黒田さんのような「まだみんなが知らないものをたくさんの人に伝えて喜ばせたい!」って気持ち。これは、私も編集者として仕事していくうえで大切にしなきゃ、って、すごく思いました! 黒田さん、ありがとうございました!

【インタビュー後記】
本の内容を説明しない。本を紹介してくれとお願いしない。それどころか本を渡さない。なのに相手は気づくと本の紹介をしたくなっちゃってる。ーー黒田さんのPR術、衝撃でした!

ここまで公開していいの!?というくらい、秘密を公開していただいて、黒田さん、ありがとうございました!

でも、黒田さんが最初に「ぼくのやり方は、ものすごく効率が悪いですよ」と言っていた意味が、よく分かりました。だからこそ、どこの出版社も、黒田さんにPRをお願いしたくなっちゃうんですね。

聞けば聞くほど真似できる気がしなくなったので、私は編集業を頑張ることにします。「編集者を信じる」という黒田さんの言葉、本当に励みになりました!



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