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コロナ危機から見える各国 シリーズ1、イタリア

【コロナ危機から見える各国 シリーズ1、イタリア】
世界中を席巻している新型コロナウイルスへの対応を一つのリトマス試験紙として、今日から、世界の情勢を見ていこうと思う。
このコロナ禍が一段落したら、必ず、世界の「パラダイム・シフト」が起こる。
サプライ・チェーンの見直しなどの経済関係だけでなく、食料の安全保障、国民国家のあり方、そして国と国の関係も見直されざるを得ない。
その方向性を見極めるためにも、このシリーズでの分析が役に立ってくれるのではないかと思う。

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4月9日朝の現在、新型コロナウイルス感染者は世界で150万人を越えた。
中国から発生したこの新型コロナウイルスの脅威を 欧米を含む世界が本当に「自分の問題」と認識したのはおそらく、イタリアでの感染爆発が起こってからだ。
現在、感染者数は43万人を超えてアメリカが世界一になってしまったが、人口3億1千万のアメリカと6千万のイタリアでは、そもそも母数が違う。
しかも、イタリアでは感染者は14万人でも、死者数は1万7669人で、いまだに世界一なのだ。
欧州で最も被害の大きいスペイン、イタリア、フランスの3カ国で、世界のコロナウイルスによる死者の約半数を占めるのだから、心理的な影響は大きい。
(数字は、ジョンズ・ホプキンス大学の集計による)
何しろイタリアの致死率は12.33%であり、アメリカの2.85%や、日本の2.3%とは比べ物にならない。
しかも、現在コロナ禍に脅かされているヨーロッパの感染者の多くは感染ルートを辿るとイタリアにつながると言われている。
イタリアの問題は、イタリア一国の問題ではない。今後のEUのあり方にも大きな影響を及ぼすだろう。

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今回、なぜ、それほどイタリアが脆弱だったのか、その理由はいくつか考えられる。                                                                                                        1、まず、北イタリアには、プラダやグッチなど多くの世界的ブランドの工場があるが、そこで、実際にイタリアブランドの製品を作っている職人の多くが中国人であるという事実。
約三十万人の中国人がロンバルディア地方などに住み「メイド・イン・イタリー」のブランド品を作っている。
しかも彼らの多くは温州市出身。温州市は武漢に次いでウイルス感染の被害が酷かった地域で、春節を挟んで多くの温州人がイタリアと中国を結んだと考えられる。
2、イタリアはG7の中で唯一の「一帯一路構想」への協力署名国である。したがって、ブランド品加工以外にも多くの中国とのプロジェクトが進んでいた。
3、イタリアの人口構成は、65歳以上の高齢化率は23%を超え、世界第2位、ヨーロッパでは最高だ。(ちなみに日本は世界一で28%。もちろん世界1位!)
4、しかも祖父母、両親、子供たちと一緒に住む3世代同居が多い。
若者たちが都市で働き、多くの友人と交流し、感染しても発症しないまま、ウイルスを家に持ち込む例があり、家族内部での都市中心部と実家の頻繁な行き来が「見えない感染」を悪化させた可能性があるとオックスフォード大学の人口統計学者らは指摘している。

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5、そして、世界でも知られたイタリア人気質がある。
陽気で賑やかに食事をするのが大好きなイタリア人。多くの家族や友人たちと大声で語り、歌いながら「人生を謳歌する」。ハグもキスも大好きで、よく喋る。
憎めない人懐こさや陽気さが、このウイルス感染にはあまりにも脆弱だった。                                                                                                                6、そして、医療崩壊の裏には、医療従事者のモラルの低さがあったとの指摘がある。
出勤して必死でウイルスと戦う医師や看護師の悲痛な努力の裏で、偽の診断書を使っての欠勤やタイムカードを数人分押してしまうなどの「ずる」が常習化してきたとされる。
雑誌「選択3月号」では、「ナポリの有名病院で二百四十九人の医師が偽の診断書を出して、違法に欠勤している、というニュースが報じられた。この病院の医師の3分の1にあたる」と報じた。記事によれば、ナポリだけでなくイタリア各地で蔓延している「悪弊」だという。

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感染者の10%が医療従事者であり、身を危険にさらしてオーバーワークをこなす悲惨な状況の裏に、さらなる人員不足を招く悪弊がある。
E Uが求めた財政規律に沿うよう医療機関などの数を減らしてきたことも背景にある。
イタリアが、感染者の急増にあたって、 EUに助けを求めたさいのEUの態度は非常に冷淡に見えた。
しかも、最初はシェンゲン協定(加盟国の人の移動を自由にする)を護り、E Uの加盟国の移動の自由は維持されたが、3月末、EUの主要国であるドイツが一方的に隣接するフランス、スイス、オーストリア、ルクセンブルク、デンマークの5カ国からの国境を封鎖し、入国を制限することを発表し、その後、イタリアなど他のE U各国からの制限へと移行した。
EUの理想が、「コロナ禍」という現実の前に膝を屈した瞬間だった。
現在ドイツは、イタリアやフランスなどから感染者を治療のため受け入れているが、その数は微々たるものだ。
イタリアのロビー団体によると、イタリアのGDPは厳しい都市封鎖により、6%は落ち込む見込みという。
1946年以来の落ち込みになる。
EUによる「コロナ債」の発行も取りざたされているが、今後、EUが、各国にどれだけ経済的な支援を行えるかも焦点だ。
イタリアが入り口となった今回のコロナ禍は、E Uにとって、ギリシャから発した金融危機や、2015年の移民問題に続く、そのあり方を突きつけられるもっとも厳しい試練になるだろう。


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