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【PP】祝・井上尚弥選手、WBSS優勝!

 興奮の一夜が明けまして、なんか放心状態で起きた今日でございます。おはようございます。にしても、WBSSバンタム級決勝、井上尚弥×ノニト・ドネアの一戦。近年稀に見る好勝負でしたね。

 まずは、シンプルに優勝おめでとう!と言いたいですよね。

 僕もマニアと言うほどではないにしろ、結構ボクシングは好きで見るんですけれども、井上尚弥選手はほんとにデビューから別格だったよなあ、と思います。コンプリートファイターと言うか。スピードがあってケタ違いの強打があり、目がよくてカウンターも打てる。一歩と宮田と鷹村のいいとこどりではないか。チートか。

 そんな「モンスター」の前に立ちはだかったのが、五階級制覇王者、ノニト・ドネア選手。軽く五階級とか言ってますけどもね、まず、五階級以上制覇したボクサーって、世界に7人しかおらんのですよ。アジア人では、ドネアの他、六階級制覇王者のパッキャオがいるだけ。あとはもう、デラホーヤとかハーンズとかシュガー・レイとか、伝説のボクサーのオンパレード。今までの相手だとナルバエスもビッグネームでしたけども、明らかに実績で言えば今回が一番の相手でしたね。

 ドネアももうじき37歳、ピークは過ぎたと言われてましたし、今回の大会も、一回戦はバーネットが試合中に負傷棄権、二回戦はテテのリザーバーのヤングが明らかに格下だったこともあって、1RKO、2RKOと快調に勝ち上がってきた井上尚弥と比べると見劣りする印象ではありましたけども、やっぱりレジェンドは健在でありましたね。結果だけ見るとパッとしないけども、現役バリバリの無敗チャンピオンのバーネットも、途中で怪我するまで、ドネアにボコボコにされてましたしね。やっぱ、おっさんになってもレジェンドは強いんすよ。

■序盤で井上尚弥にトラブル発生

 試合開始してまず最初に思ったのは、ドネアさん、なんか毛が薄く……、じゃなく、背中が井上より二回りデカい!ということ。五階級制覇するときに一回フェザーまで上げて、そのあとまたバンタムに落としてるので、ナチュラルな体格はやっぱりドネアの方が上でしたね。当日ウェイトは、おそらくひと階級分くらいの差があったのでは。
 そのせいか、大体井上尚弥のオープニングパンチって左ジャブ一発で相手が仰け反るので会場が湧くんですけども、ドネアは下がらないし、なんかこうどしっと受け止めている感じ。体格的に不利だった試合というのは、マクドネル戦もそうだったんですけど、あの時はマクドネルが減量失敗してへろへろだったからなあ。ドネアはバキバキに仕上げて来てましたね。
 井上尚弥のパンチ力はやっぱり健在なんですけど、今までの対戦相手ほどの差はない印象。スピードはやっぱり井上が上かな、という感じで、このままギアを上げて行けば、中盤以降圧倒する展開になりそう、と思ってたんですけどね。

 それが、2R中盤、井上尚弥の打ち終わりにドネアが電光石火の左フック。これで井上尚弥の右瞼がカット。まず、井上が顔面にハードヒットをもらう、っていう姿をみるのも久々だったですし、カットするのも初めて見た。このカットで、だいぶ視界をやられてしまったように見えました。右目が塞がるということは、相手のベストパンチである左フックが見えにくくなっちゃうので、これはかなりのトラブルでしたね。

 世界初挑戦の時に左足つっちゃったとか、右拳の負傷とか、今までにも試合中にトラブルに見舞われたこともありましたけど、今回の超序盤でのカットは、やべえ、と思いましたよねえ。相手も相手だし。

■中盤の大ピンチ

 ドネア攻略のためには、やっぱり左ボディが鍵だったように思うんですけど、左ボディを打とうと接近すると、相打ちでも相手の左フックが飛んでくる。ガードの上からでも傷が開いちゃうような状況でしたし、なかなか中に入れなくなっちゃって、中盤はいつものリズムが出なかったですね。
 でも、5Rでドネアをぐらつかせたカウンターはさすがでした。そこでドネアが少し落ちたので、7R以降はちょっと温存しようとしたんですかね。畳み込んで、乱打戦になった中でカット部分にもらったら試合止められちゃいますしね。リスクマネジメントのつもりだったんでしょうけど、ドネアもそれを察知して8Rはゴリゴリ出てきましたねえ。
 よくよく見ると、ドネアもかなりいいパンチもらってたんですけど、やっぱり相手が流血していると「俺のパンチが効いてるんだ」って勇気が湧いてきて、エンジンかかっちゃったりしますからね。KOパンチじゃなくても、ガードの上からでも左フックを叩き込んでいれば、ドクターストップもあり得るし。中盤は、精神的にドネア側が優位だったんじゃないですかねえ。
 9Rにはドネアのカウンターの右ストレートをもらって、井上がぐらつく場面も。ダメージを受けてクリンチにいく井上なんて初めて見たので、僕は独りで悲鳴を上げましたよ。いやほんとに。

■やっぱり鍵はボディショットだった

 9R・10Rは、もうハラハラを通り越してプルプルしてきちゃって、テレビの前に正座して3分間力はいりっぱなしでした。もうね、R終わると背中と腰が痛い痛い。

 10R終盤からは、井上選手が腹を括ったな、という感じがしましたね。多分、9Rのダメージが回復したのを確認して、勝負を決めに行ったんでしょう。ガードを下ろして至近距離で打ち合うようになって、10R終了後には観客を煽るようなアピールをして自分を奮い立たせた。覚悟みたいなものを感じましたよねえ。涙出そうになっちゃった。
 そして11R。10R後半くらいから頭に強打をぶつけて意識させて、隙を見て左のボディアッパー。11R前半に一発入ってから、ドネアが明らかに落ちましたね。多分、効いたのはわかってたと思うんですけど、その後はまたヘッドに強打を集中。そして遂に、伝家の宝刀左ボディアッパー炸裂。「二度刺し」にはドネアもさすがに堪えられずにダウン。
 もらった瞬間、ドネアも「ヤバい」と思ったんでしょうね。追撃を喰らったらKOされると踏んで、プライドをかなぐり捨てて背を向けました。本当だったら、すぐさま倒れ込んでストップしたかったんでしょうけど、少しリングの中を走って逃げて、レフェリーと距離を取ってからダウン。そのたった1秒2秒の時間が、回復に必要だってわかってたんじゃないでしょうか。もし、オマール・ナルバエスのようにその場に崩れ落ちてすぐにカウントが入っていたら、井上がKO勝利していたかもしれません。

 僕がキックやってた時、スパー中に初めてボディをもらった時は、なぜか「ごめんなさい」って謝りながら、情けなくうずくまりましたよねw もうね、息できないし苦しいしで、パニックになっちゃうんですよ。試合だったら、ごめんなさい、じゃすまねえよ、って思うんですけど、反射的にそんな言葉が出てしまうくらいしんどい。
 井上の左ボディと言えば殺人パンチの代名詞ですし、そんな一発を急所に喰らっても、時間を稼がなきゃ、と判断できるあたりは、ベテランの執念、凄みみたいなのを感じましたね。

 最終12R終わった時は、もうなんか僕もヘタヘタで。勝ったな、という気はしていたけれども、判定を聞いた時は力が抜けましたよね。嬉しい!とかじゃなくて、「疲れた」が率直な感想。w

■モンスターがさらに進化するのか

 今回は、正直、ドネアが株を上げたなあという気はするんですけど、仮に井上尚弥のP4Pランキングが下がっちゃったとしても、とても収穫のある一戦だったんじゃないかなと思うんですよね。
 1RワンパンチKOみたいな勝ち方してると、逆に、俺本当に強いんだろうか、って不安になっちゃうんじゃないかなあ。相手のパンチ一発で倒れたらどうしよう、とか。
 でも今回、カットやダメージという逆境を乗り越えて、ダウンを奪って勝ち切ったというのはすごく自信になるのではないかなあと思います。見てるこっちも、ガラス細工をみるような、一発もらったら割れちゃうんじゃないか、っていうハラハラ感を感じながら見てるところはありましたけど、ドネアの強打をもらっても倒れずに打ち返せるだけのタフネスと回復力があると証明できたので、今後の試合のプランにも幅が出るんじゃないでしょうか。

 今回、トラブルがあったので接戦だったイメージでしたけど、よくよく見ればスピードでもパワーでも手数でも勝っていて、ボクサーとしてのレベルはやはり井上選手のほうが一段上だったかなあ、と思いました。モンスターはやっぱりモンスターだった。

 井上選手、来年はアメリカで二戦する契約を結んだそう。プロモーターは誰を持ってくるかな。弟君に勝ったウーバーリやゾラニ・テテとの統一戦か。アメリカなら、”あの問題児”ルイス・ネリも視野に入ってきますね。ネリをぶっ飛ばせ、と思っている人も多いでしょう。

 なんにせよ、来年も目が離せないなあ、と思うばかり。いい試合だったなあ。疲れたけど。なぜか筋肉痛が残っているけれど。


 全然関係ないけど、新刊もよろしくお願いいたします。


小説家。2012年「名も無き世界のエンドロール」で第25回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。仙台出身。ちくちくと小説を書いております。■お仕事のご依頼などこちら→ loudspirits-offer@yahoo.co.jp