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野生めざめるミネストローネを作った話

レトルトのスープなんて、と思っていました。

ずいぶん数多くのレトルトスープを食べる機会がありましたが、おいしいと思うスープは本当に少なかったからです。レトルト的な匂いや人工的な味付けが気になるし、具も残念な感じ。これぐらいなら私が10分で作るスープのほうがおいしいな、と思っていました。
だから、もしかして他の方からのお誘いだたったら、引き受けたかどうかはわかりません。

でも、加藤さんのトマトでスープを作ってみませんかというお誘いをいただいたとき、あのトマトで!と一気にテンションが上がり、脊髄反射で「やります!」とメッセージに返信を打ち込んでいました。

今日は、このミネストローネを作った話をしてみたいと思います。

加藤さんのトマトのこと

加藤まさよしさんのトマトとの出会いは2017年の夏でした。FB経由で加藤さんのトマトと出会ったのです。ちょうど「リアル・スープ・レッスン」でミネストローネを作るために、おいしいトマトを探していたところでした。

加藤さんは、大阪出身。7年間教員をされた後、2012年に農業を営むために長野県・平谷村にやってきて、トマト栽培と研究を続けています。奥さんと二人の可愛いお子さんと暮らしていらっしゃいます。

さっそく加藤さんに連絡をとり、送ってもらったトマトがこれです。すでに9月、トマトのシーズンは終わりかけですが、8月上旬ぐらいまでのトマトは水っぽく、むしろこの時季のトマトのほうがおいしいとのこと。

宝石みたい。

加藤農園で中心に栽培しているのは、中玉の桃太郎ですが、プチトマトもたくさん入れてくださいました。箱をあけ、あまりに綺麗だったので、洗いもせず、そのまま口に入れてしまいました。トマトをプチっと噛んだときの衝撃!

そして、トマトをただ塩とオリーブオイルで煮ただけのトマトスープのおいしかったこと。

リアル・スープ・レッスンでは、トマトを煮詰めてピュレを作り、参加者に味見をしてもらいましたが、皆の顔に自然に笑みがこぼれるうまさでした。

トマトは芋類やカボチャなどと違い、保存性が高い野菜ではありませんから収穫期しか売れません。そこで、加藤さんはこのトマトでジュースを作っています。

これはこれですごく濃厚でおいしいジュースですが、これに加えてレトルトスープも作れれば、オフシーズンにも、加藤さんのトマトが楽しめるようになります。

私が加藤さんのトマトをつないでくださり、このトマトジュースも作られた酒井俊彦さんを総合プロデューサーとして、2018年春、「ミネストローネ大作戦」がスタートしました。

ミネストローネの試作開始

今回求められた条件は、
●トマトを主役に使うこと
●人工的なうま味調味料、香料、保存料は使わないこと
●肉もできれば入れないこと

この3つに加え、予算や製法の制限があります。
とはいってもミネストローネなので、まずはトマト、たまねぎ、キャベツ、かぶ、きのこ、豆などを炒めて、グラムを量りながら合わせていきます。

最初は、たまねぎのうまみと甘みを使って、子どもでも食べられるやさしい味わいのスープをイメージしてみました。

最初の試作ができた段階で、レトルトの加工をしてくれる食品業者との打ち合わせのために、平谷村へ出向きました。平谷村は長野県下伊那郡、長野県のほぼ最南端にある村です。村は標高950m以上。村そのものが高原なのです。我が家から車で行くと、渋滞なし、ノンストップでも4時間。なかなかハードなドライブになりました。

ようやく着いた平谷村は楽園でした。誰かが言ってたようなセリフですが、なんにもないが、あるという感じ。

加藤さんのトマト畑。この時期はまだ苗を植えたばかり、ぐらいですね。

さて、打ち合わせをして、いろいろとわかったことがあります。

まず、レトルトの野菜は基本的に袋に詰めてから加圧調理するということ。私はスープの話をするときよく「炒めてから煮るとおいしくなります」とみなさんに言っているのですが、これができないのです。やろうとすると、値段の高い「炒めたまねぎ」を使わなくてはなりません。

最初の試作品

ひとまず材料の配合を渡して平谷村から戻り、しばらくすると、試作品ができたという連絡が入りました。東京組で試食会です。

あれ、野菜少ない…結構刻んだ野菜を入れたはずでしたが、加圧調理で溶けてしまったのです。たっぷり入れたはずのかぶやキャベツも、どこにもいません。

味がよければいいかと思いつつ、一口食べてみると…

酸っぱい!それにたまねぎ感が強すぎます。おいしいスープからは程遠い感じ。たまねぎを生のまま入れたため、たまねぎの生臭さが残ってしまっていました。レトルトのスープで匂いが気になるものは、たまねぎを生のまま入れてしまっているんだなと思いました。

たまねぎは加工済みの炒めたまねぎを使ってもらうことにし、トマトの酸味も気になるため、味つけでの調整や、野菜の配合も変えました。

味というのは面白いものです。加藤さんのトマトの糖度はとても高いのです。そして同時に、酸味も強い。だからスープにはとても向いています。でも、塩味が弱かったり、他の野菜とのバランスが崩れると、酸味が前に出てしまい、甘みが感じられなくなります。そのあたりの微調整をしたレシピのやりとりがあって(詳しくはひみつ)、とうとうスープができました。

完成!野生めざめるミネストローネ

できあがったのは、目の覚めるような真っ赤なスープです。

具には、とうもろこし、枝豆、マッシュルームなどがしっかり入っています。

ひとさじ食べると、信州高原の夏トマトの自然なうまみと、きりっとした酸味のハーモニーさわやかな味わい。ほのかにローズマリーの香りがします。
どちらかといえば夜遅くというよりは、朝や昼に食べるのによさそうです。まさにタイトル通り、野生が目ざめるようなスープになりました。

パッケージはむきだしのレトルトに紙をくるっと巻いたおしゃれなスタイル。イラストは植田志保さんに描いていただいています。

そして、このミネストローネ、私のスープらしくシンプルな素材を生かした味わいなので、アレンジがいろいろ楽しめます。

生クリーム入り。

アボカド入り。

生ハムをのせて、ワインと一緒のブランチに。

もちろん、鍋であたためて野菜などを追加してもおいしいはず。保存料や人工的な調味料は一切入っていません。味付けも、塩とほんの少しのきび砂糖、そしてほんのりハーブ。体にもやさしいスープです。

トマトをまるごと味わうスープ

これまで、スープのレシピを数多く提供してきました。レシピは作るところの部分を読者にゆだねる形になります。
でも、商品として出すということは、作るのは工場だとしても、私の味をダイレクトに相手に伝えること。今回はみんなが想像するミネストローネよりも鮮烈な味わいになっていますが、加藤さんのトマトの味をなるべくまっすぐに感じられるミネストローネをめざし、それに近いものになったかなと思っています。そして、私のスープらしいシンプルな味わいです。

このスープ、今のところ加藤農園のHPで購入できます。この記事を読んで興味をお持ちいただけたら、ぜひお試しください。



























読んでくださってありがとうございました。日本をスープの国にする野望を持っています。サポートがたまったらあたらしい鍋を買ってレポートしますね。