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あつ森と息子の帰省、スープの湯気をどう送るかという話

今、息子は仕事場のある愛知県でひとり暮らししている。長い休みには帰省するのだが、今年はGWはもちろん、お盆休みも帰ってこられなかった。状況が状況なのでしかたない。

息子とは普段LINEでやりとりする。これがもう典型的な無口男子で、既読スルーどころか未読スルー(重要な連絡の場合はきちんと返事が返ってくるが、それはそれで頭にくるものです)。そういうわけで、帰ってこられないとなると、ノーコミュニケーションに近い。どうしているのか、ちゃんと食べているのかと気になってしまう。

そんなとき、「あつ森」すなわち任天堂の『あつまれ!どうぶつの森』が人気だということをニュースで見た。

これを読んでいる人の中には知らない人もいると思うので簡単に説明すると、プレイヤーである自分が島に移住し、住人である動物たちとコミュニケーションを楽しみつつ暮らすというゲームだ。
ゴールが特にあるわけではない。釣りをしたり花を育てたり、家を建てて家具を作ったりし、年中行事を楽しむ。島の発展の手伝いもある。暮らしそのものが目的という、実にほのぼのした内容。

このゲームの大きな特長は、オンラインにつなぐことで他のプレイヤーの村を訪れたり、逆に自分の村に人を招いたりできること。つまり、バーチャルで旅行ができる。よし、この仕組みを使ってゲーム好きな息子とオンラインでつながろうと思った。バーチャル帰省というわけだ。

いい大人がやることかどうかは別として、このところ自分も料理でオンライン配信などをはじめていたから「バーチャルでつながる」ということについていろいろ体験してみたかった。

とりあえずニンテンドースイッチとソフトを買ってみた。驚いたことに、あつ森人気で、本体が品薄だという。色やタイプは選べなかった。

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夫も私もニンテンドーオンラインにアカウントを作り、ナンバーを息子に送って返事を待つ。一度にプレイできるのは一人なのだが、テレビにつなげば、大きな画面で一緒に見られる。
すぐに息子から承認がきて(なぜこれがLINEでできないのか)、空港のゲートを開けてもらう。まずは息子の、正確に言うと息子がプレイしているキャラクターの住む島へ、飛行機で飛んで行った。

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空港から息子の島に出てみると、そこに息子が迎えにきていた。これはちょっとした感動だ。チャットで会話もできる。もともと無口な息子はそれほどチャットでもしゃべるわけではないが、それがまたリアル。そして、ゲームの中の人の動きもなんだか息子と似ているように見えるのは、たぶん私の先入観だろうが、人の形がそこに見えているだけで、メールの文字や電話の声だけではない現実感がある。

息子の住む村にはすでに多くの住民が家を建てて住んでいて、開発が進んでいた。おのぼりさんのようにキョロキョロしつつ村を歩き回る。息子の家にも行ったらなかなかの豪邸で、家具もいっぱい並んでいた。本当の息子の家はワンルームのアパートなのに、「立派になって…」と錯覚するのがわれながら笑える。

息子が住んでいる村の様子もわかったので、今度はこちらの島にもおいで!というと、こんどは息子が私たちの島へとやってきた。ゲームを始めたばかりの私たちの村は無人島に近く家もテントで、息子にしてみればゲームを始めた頃の懐かしい風景だ。親子逆転。

とくに何をするでもなく、ゲームの中のバーチャルな村を一緒に歩き回るだけなのだが、ちょっと楽しい。いや、かなり楽しい。

魚を一緒に釣ったりマリンスーツを息子にもらって海水浴をする。博物館へ行く。何もなければ夏休みにできたことを、ゲームの中でする。できたことじゃない、普段海水浴になど行かない私は、いつもやらないことをゲームの中でした気になった。海辺の公園で記念写真をパチリ。

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時間にしたらほんの短い時間。アバターを通して不思議な体験だった。とはいえ、バーチャルはあくまでも仮想でしかなく、息子に私のスープを食べさせられるかといったら、それはできない。スープの湯気は届かない。

遠くない将来、温かいスープをネットを利用して送る方法が編み出されるかもしれないけれど、当面はリアルはリアル、バーチャルはバーチャルと、並行したような形で進んでいくだろう。そのうち、バーチャルの世界をリアルな感覚としてとらえられるような受容体を体の中に持った人たちが現れる。
ネットで湯気を送ってみたい好奇心もありつつ、「やっぱり食だけはネットでは無理だよね」そうあってほしい気持ちもある。

そんなことを考えながら、あつ森の家の周りに生えた雑草を抜いている。

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食のリアル・イベントがやりにくくなってしまった今、これからのイベントについて考えていたとき、この徳力さんの記事を読んで刺激を受け、バーチャル帰省を思いついた。

明日発売の『群像』では、アンケート特集「わたしを変えた一冊」で、私の考え方の素になっている本を紹介。いろいろなものに刺激を受けつつ、今の自分がいます。




読んでくださってありがとうございました。日本をスープの国にする野望を持っています。サポートがたまったらあたらしい鍋を買ってレポートしますね。