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「宝塚歌劇団」について

僕は、オペラやミュージカルは観に行くのだが、宝塚歌劇なるものは、物心ついてから、ただの1回も観たことがない。

たぶん、単なる食わず嫌いなのである。あるいは、幼少期の一種のトラウマが原因なのか。小さい頃(たぶん幼稚園児くらいの頃)、母親らに連れられて、1回くらいは、宝塚歌劇を観劇したような記憶がある。内容はもちろん覚えていないのだが、舞台に登場する役者たちの派手なメイクに関しては強烈な印象がある。幼児には、決して美しいとは思えず、むしろ毒々しくてグロテスクで恐ろしいものというネガティブな記憶しか残っていない。

第一印象がそんな感じなので、今でも積極的に観たいとは思わないし、実際のところ自分の意思で観に行ったことがない。したがって、宝塚歌劇団が上演するレビューなるものの良し悪しについてコメントする資格もない。

ただ、宝塚歌劇団の団員は、全員が宝塚音楽学校の卒業生で、同音楽学校に入学できるのは厳しい試験をパスした選り抜きのエリートで、とても上下関係や規律にうるさいところだということくらいは、関西人の一般常識としてわきまえていた。

今、その宝塚歌劇団がパワハラ問題で揺れている。

パワハラという言葉を思わず使ってしまったが、同歌劇団の調査では、パワハラは確認されなかったという話なので、軽々にパワハラという言葉を使うのは適切ではないのかもしれないが、自殺者まで出た以上、何もなかったでは済まされないであろう。

先ほども書いたとおり、元々、上下関係や先輩後輩関係が厳しい組織であることは、誰でも知っていることである。実際のところ、今の日本で、宝塚と同じくらいに上下関係にうるさくて、躾に厳しい組織となると、他には自衛隊と警察くらいしか思いつかない。

体育会系の運動部などにも共通して言えることであろうが、伝統があって守るべきものが多ければ多いほど、組織は閉鎖的で内向きになり、外部からチェックされにくくなる。組織自体が「聖域化」してしまうのだ。でも、そんな組織は日本中のいたるところにある。日大だって、ジャニーズ事務所だって、オリンピック協会だって、高野連だって、どこもまあ似たようなものであろう。

女性から袋叩きにされるのを覚悟で敢えて言わせてもらうが、今回の問題に関しては、女性ばかりの職場ならではの難しさ、面倒臭さというのも決して無関係ではないと思う。

宝塚歌劇団に在籍する団員は約400人くらいで、5つの「組」と「専科」に配属される。各「組」には約80人くらいのメンバーが所属しており、その運営は組長やトップスターといった少数の幹部が仕切っているという。もちろん全員女性である。

「女性は、3人いれば、派閥ができる」という名言がある。僕は銀行にいたので、女性が多い職場の厄介さは骨身にしみている。好き嫌いとか、嫉妬とか、「何だか気に食わない」といった些細な理由で、誰かをイジメたり、仲間外れにしたり、陰口を叩いたりするのは、女性にとっては3度の食事と同じくらいに当たり前のことである。「清く、正しく、美しく」の宝塚だけ無縁ということはあり得ない。

同じ学校出身者の先輩後輩ばかりの組織というのは、文字どおり「金太郎飴」である。著しく同質性が高く、同じ価値観を共有し、同じ目標に向かって一枚岩になりやすいという利点は認めるものの、上に対する反論や意見を一切許さない硬直的な組織になりやすい。強烈な「同調圧力」に支配された、風通しの悪い組織になってしまうのは当然である。

宝塚歌劇団というのは阪急電鉄の1事業部門であり、親会社としても、歌劇団としても、今回の問題については早く幕引きをして、通常モードに戻したいという思いがあるのだろうが、電通事件と同様、自殺者まで出てしまった以上、あまり雑な対応をしてしまうと、却って、企業イメージやブランドまで大きく毀損することになる。

したがって、「パワハラは確認できません」で済ませるのではなくて、徹底的な原因究明と再発防止策を講じて、組織の健全化を図るしかない。そうでないと、もう世間が納得しないところまで、この問題は発展してしまっている。その辺の「世間の空気」を読み違えると、「宝塚歌劇団=ブラック企業」という評価が定着してしまうことだってあり得る。

元々、厳しい組織であることは、世に知られていることだし、「清く、正しく、美しく」的なストイックな姿勢も含めて、歌劇団の「良き伝統」であるという一面も否めない。ただし、5つある「組」の運営が、組長とかトップスターといった一部の幹部に委ねられてしまっていることのリスクについては、親会社や歌劇団のエライ人たちも十分に理解しておくべきだし、不適切で行き過ぎた指導が行なわれることがないように常時チェックする何らかの仕組みは必要であろう。

1つのアイデアであるが、「組」という組織が固定化しないように、頻繁なメンバー入れ替え(組替え)を定期的に行なうというのはいかがなものだろうか。組長というのは最上級生が務めるらしいが、場合によっては、それも改めてしまい、いっそのこと「選挙制」にしてしまうのもアリである。

トップスターのような「組」の中心メンバーも、1年くらいの間隔で、頻繁に別の「組」にコロコロと異動させるようにすれば、風通しも良くなるであろう。

「360度評価」的な、組長やトップスターといった幹部級の団員に対する同僚・後輩からの評価制度を導入したり、「内部通報窓口」を設けるのも有効かもしれない。

当然に反発も予想されるが、上意下達的なマネジメントで抑え込むやり方自体が、もはや古いのである。

あと、団員(宝塚では「生徒」と呼ぶらしい)たちが、今の世の中の常識からすれば、とんでもないくらい古色蒼然とした超ブラックな雇用契約で縛られていることも、今回の事件で明らかになった。

恐ろしいくらいの安月給でこき使われて、アクセサリーやカツラ、それに化粧道具もすべて自腹で、多くの団員は卒業後も実家からの仕送りに頼らざるを得ないのだとか。幼い頃から宝塚に憧れて、厳しい受験をくぐり抜けて、ようやく夢の舞台に立った以上、誰も文句は言わないのかもしれないが、さすがにちょっとやり過ぎであろう。欲深いオトナたちに、世間知らずの若い女性たちが搾取されている構図であり、これでは昔の遊郭と変わらないではないか。

問題のあった「宙組」を解体しろとか、パワハラに関与した(と思われる)組長とかトップスターら幹部を処分しろとかいう意見もあるのだろうが、そもそも今の宝塚歌劇団のあり方自体を一旦リセットしてリスタートするくらいに抜本的な改革が必要であるような気がする。

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