見出し画像

PBR1倍割れについて

プライム市場・スタンダード市場には約3,300社が上場しているが、5割超の約1,800社がPBR(株価純資産倍率)1倍を割り込んでいるのだという。

PBR1倍割れは、事業を続けるより資産を処分して解散した方が良いと投資家から判断されていることであり、マーケットから「上場失格」とみなされているも同然である。

特筆すべきことの1つめは、欧米と比べてPBR1倍割れの企業の比率がすごく高いことである。日本では主要500社のうち、4割超でPBRが1倍を下回る。これに対して、欧州は2割強、米国は5%程度なので、パーセンテージにかなり開きがある。

2つめは、トヨタ、三菱UFJ、三菱商事等の大手名門企業も含まれていることである。

これらから言えることは、①株主が経営者を甘やかしているから、②経営者は、企業価値を高めて、株価を引き上げようと努力しなくなる、③結果として、投資先として魅力が乏しくなってしまった、ということであろうか。

いずれにせよ、誰でも知っている大手企業も含めて4割超がPBR1倍割れということになると、個別企業の問題にとどまらず、日本企業全体として、投資先として相応しくないとダメ出しをされていると考えた方が良い。だから東証としても危機感を強めているのであろう。

じゃあ、どうすれば良いのかということになるが、識者の意見を見る限りでは、「上場企業の数が多すぎるから間引け」といった意見が多いようである。たしかに、現時点でプライム市場に1,835社、スタンダード市場に1,446社が上場している。

京大名誉教授/川北英隆は、プライム市場の流通株式時価総額100億円以上という基準はハードルが低すぎるから、少なくとも1,000億円以上にすべきとした上で、機関投資家がちゃんと対話できるのはせいぜい200〜300社だろうとしている。

経営共創基盤グループ会長/冨山和彦も、プライムに上場する企業数は、日本の経済規模で考えると200社程度が妥当だとしている。

サッカーにたとえれば、J1の18クラブ、J2の22クラブ、J3の20クラブの計60クラブのみならず、JFLやら地域リーグやらに所属するクラブまでが全部同じカテゴリーに混在しているようなものであり、はっきり言って、玉石混交である。既存の上場企業が抵抗しようが、もっとシビアな選別や整理が必要なのだろう。ちょうど、イングランドのプレミアリーグが発足した時みたいに、いざとなれば、今のプライム市場を発展的に解消して、別のカテゴリーを創設するくらいのことをやるべきなのかもしれない。

それでも悩ましいのは、トヨタ、三菱UFJ、三菱商事のような日本を代表する名門大企業までPBR1倍割れ企業に含まれていることである。新しいカテゴリーを作ったとして、こうした銘柄を除外したら、もはや日本を代表する企業群とは言えなくなってしまう。

だとしても、欧米企業と同様の基準に基づき、日本企業の経営者に対しても企業価値向上、株価向上のための取り組みを迫るしかないということになるし、東証のスタンスは間違いとは言えない。日本の株式市場で海外機関投資家が占める比率は既に7割くらいと言われている。同じモノサシで比較されて見劣りする市場にいつまでも投資してくれるほどプロの投資家は甘くはないのだ。

もちろんPBRだけが指標ではないし、同じようにPERだけ、ROEだけというのも違う。企業に対する総合的な評価を定期的に行ない、成績が振るわない企業に対しては改善計画の策定を求め、実績が伴わない企業に関しては「降格」もやむなしというような措置を行なうしかないのではないか。成績が悪ければ、J1からJ2に降格するのと同じである。

IPOはゴールではなくて、単なる通過点である。一旦、上場してしまうと、悪いことをしない限りは「上場企業」というブランドにしがみついていられるという甘えを排除しない限りは何も変わりそうもない。

日本証券取引所としては、日本の株式市場を世界標準で見て「魅力的」なものにするための責務を負っている。そのためには個別企業にとってはシビアな運営も必要であるし、そうした運営によって個別企業に企業努力を迫る役割も担っているはずである。

たとえが悪いかもしれないが、カジノの胴元みたいなものである。お客(=投資家)が来てくれなくなって、カジノに閑古鳥が鳴くようならば、胴元の責任である。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?