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「ことら」について

「ことら」という新しいサービスが11日からスタートした。

日経新聞の記事によれば、「メガバンクや一部の地銀の口座間で、対応するアプリを使えば10万円まで手数料無料で送金できるようになる。口座番号ではなくメールアドレスや電話番号で送金でき、家族間のお金のやりとりや割り勘などでの利用を見込む。キャッシュレス化の起爆剤になる可能性もある。」とのことで、かなり意気込んだ書きようである。

元銀行員として、多少は興味があったので、早速に対応するアプリ(僕は、みずほ銀行の「J-Coin Pay(Jコインペイ)」を選択)をスマホにダウンロードして、本人確認手続きその他を行なった。

まず、本人確認手続きにストレスを感じた。マイナンバーカードか運転免許証のどちらかが必要で、「正面からの顔写真」「本人確認資料の真正面からの写真」「本人確認資料の斜め上からの写真」の3枚を撮影するのだが、本人確認資料の読み取り反応があまり良くない。しかも手続きをしてから本人確認作業が完了するまで、およそ1日を要する。

手間ひまかけた挙句、何ができるかと言えば、登録した銀行口座から「ことら」に資金をチャージできるようになり、チャージしたおカネを「ことら」の利用者同士であれば、10万円まで手数料無料で送金できるようになるというだけのことである。

たったそれくらいのことのために、随分と手間をかけさせるものである。

もともと、金融機関が目の前の振込手数料の減収という犠牲を払ってでも、「ことら」による無料送金サービスに着手した狙いは、キャッシュレス化の推進により、銀行店舗やATMを削減して、現金決済インフラコスト(年間2兆8,000億円)を削減したいからである。

だったら専用アプリなど介さずに、銀行のネットバンクでそのままシームレスに利用できるようにすれば済むことである。今のところ、三井住友銀行だけが「三井住友銀行アプリ」で22年度内に利用できるようにすると表明しているのみである。他行はどうして追随しないのか。謎である。

銀行というところは、「プロダクトアウト」というか、提供者側の目線でしかモノを見ない体質が昔から沁みついている。顧客サイドの目線に立って、顧客の利便性を考えた作り込みをすれば、もっと受け容れられるだろうと思うような「残念な」サービスは過去にもたくさんある。

既に「PayPay(ペイペイ)」等の資金移動業者が独自の経済圏を構築している中に遅れて参入するにも拘わらず、こういう中途半端というか微妙なサービスを提供するところが、銀行の銀行たる所以であろう。

大企業に優しい日経新聞は、「遅れて登場したことらが小口決済の主役になれるかは不透明な面もある」という生温い表現でお茶を濁しているが、もちろんこんなシロモノでは小口決済の主役になれるとは思えない。


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