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「王位継承順位」について

英国のエリザベス女王が、22年9月8日に崩御した。ただちに長男のチャールズ皇太子(王太子)が即位して、チャールズ3世となった。

これを機会に、かの国の王位継承順位がどのようなものか、頭を整理してみようと思い、いろいろと調べてみた。

こういう時に頼りになるのは、やはりWikipediaである。中身が信用できないと言う人もいるが、ざっくりと知識を得るには便利である。詳しく知りたければ、自分で深堀りすれば良いのである。

「イギリスの王位継承順は1701年王位継承法により原型が定められ、2013年王位継承法で一部が改正された。これらの法律によって定められている王位継承の条件は以下の通りである。

  • ステュアート家の血を引いている者(ハノーファー選帝侯妃ゾフィーの子孫)に限る。

  • 継承者は国王の直系子孫。2011年10月28日以降に誕生した者は、男女の性別を問わずに長子先継(第一子→第一子の子孫→第二子→第二子の子孫→……の順)。2011年10月27日以前誕生の者については改正前の兄弟姉妹間男子優先が適用される。

  • キリスト教徒でプロテスタント信仰であること。王位継承後、イングランド国教会・スコットランド国教会に帰属すること。

  • カトリック信徒ないしカトリックに転向した者は、継承権を喪失する。

  • 非嫡出子は継承権が与えられない。」(Wikipediaより)

以上のような感じで、継承順位に関しては、とても厳格なルールが定められている。2011年時点で継承権の最下位(4973位)はドイツ在住の女性なのだそうである。また、ヨーロッパの王族は、長年にわたり、婚姻関係を結んでいるので、非カトリック諸外国の王室・名家にも継承権者が多く存在するという。

「ステュアート家の血を引く、ハノーファー選帝侯妃ゾフィー」という人物は、日本人にはあまりピンと来ないが、スチュワート朝のジェームズ1世の孫、スコットランドのメアリー女王の曾孫にあたる。メアリー女王は、チューダー朝のエリザベス1世の政敵で、エリザベス1世に幽閉され、処刑された人物である。メアリー・スチュワートという名前でも知られ、映画やテレビドラマ、オペラの題材にもなっている。エリザベス1世に処刑された女性の子孫が、英国王室の祖先であるというのも何やら皮肉めいた因縁を感じる。エリザベス1世が結婚して子供を生んでいたら、この辺りの歴史はずいぶんと変わっていたに違いない。ちなみにメアリーとエリザベスは血縁関係にある(エリザベスの伯母の孫がメアリーなので5親等離れている)。

ついでに言うと、先日までのチャールズ皇太子(王太子)は、母親であるエリザベス2世の崩御により、チャールズ3世として即位したわけであるが、同じ名前の王様、チャールズ1世もチャールズ2世も、あまりお手本になりそうもない。それどころか、「よく、同じ名前を名乗ったものだ」と言いたくなるレベルである。

チャールズ1世は、清教徒革命でクロムウェルによって処刑された人物として有名である。英国王で臣下に処刑されたのは彼だけであったはずである。

チャールズ2世は、チャールズ1世の息子であるが、とにかく愛人がたくさんいて、愛人にたくさんの庶子を生ませことが知られている他、業績面ではまるでパッとしない人物である。庶子は多かったものの、嫡子はおらず、弟のジェームズが後を継ぐことになる。余談だが、侍医のドクター・コンドームが王のために牛の腸膜を使った避妊具を開発したのがコンドームの始まりだという逸話(単なる俗説らしい)がある。ちなみに、弟のジェームズ2世は、これもまた名誉革命で追放されてしまう人物である。

いずれにせよ、ハノーファー選帝侯妃ゾフィーの直系子孫でプロテスタントであれば男女は問わないので、王位継承権者は5,000人近くプールされており、とりあえず、英国王室が途絶える心配はなさそうである。それにしても、絶えず入れ替わりもあるだろうから、リストを管理する担当者たちは、なかなかに骨が折れそうである。

一方、問題は我が国の皇室である。

男系男子での皇位継承にこだわっているので、今や絶滅危惧種のような様相を呈してしまっている。

どうして、こんなことになってしまったのか。1つには少子化の影響。2つめは、どういうわけだか、近年、皇室には女子ばかり生まれることにある。

昔は側室制度があったが、今はないことを理由の1つに挙げる意見もあるが、たくさんの側室がいた明治天皇の子どもたちの中で、成人した男子は大正天皇1人しかいなかったのに対して、大正天皇は正妻たる貞明皇后との間に昭和天皇を含めて4人の男子をもうけているから、側室が多ければ、男子を多くもうけることができるとは限らない。

問題となるのは、その次以降の世代である。

昭和天皇は、現上皇と常陸宮の2人の男子をもうけているが、弟の秩父宮と高松宮には子どもがいない。三笠宮は3人の男子をもうけたが、その次の世代が女子ばかりである。現上皇の弟である常陸宮にも子どもがいない。この辺りから、だんだんと雲行きが怪しくなってくる。どこの宮家も各世代でコンスタントに3人ないし4人くらいの子どもをもうけておれば、1人くらいは男子が生まれることが期待できたのであろうが、ノルマを果たしたのは現上皇と秋篠宮だけというのでは、どうにもならない。

結果として、英国王室の王位継承者は約5,000人、日本の皇室は事実上2人だけ(高齢の常陸宮は除外)という歴然たる差が生じてしまった。現行の男系男子にこだわる皇室典範に沿った運営を継続する限り、今上天皇の次は、秋篠宮、その次は悠仁親王という一択しかない。不謹慎な話で恐縮であるが、悠仁親王に不測の事態でも起きたら、それこそ大ピンチである。

昭和天皇は生物学者でもあったわけだが、戦後、天皇家と3直宮家だけしか残さない判断をする際に、将来の皇統存続を心配しなかったのかどうか。戦争にも負けちゃったし、天皇家が絶えることになったとしても、それはそれで仕方ないと腹を括ったのか、天皇家と3直宮家の計4家あって、各世代で1人や2人の男子が生まれてくれれば、ギリギリ何とか存続できると計算したのか。今となっては確認のしようがない。

いずれにせよ、英国と日本でこれだけ差がついた原因としては、端的に言えば、男系男子にこだわっているかどうかに行きつく。冒頭の定義を見ても、英国王室は女系に対するこだわりはない。というか、今の英王室はゾフィーという17世紀のドイツ生まれの女性にまで遡る。女系を否定したら、そもそも現王室自体が成り立たない。

男系にこだわるのは、正当性を担保するためだという話を耳にする。女性天皇が皇統に属さない男性と結婚して子どもが生まれたら、今まで連綿と守ってきた正当性が崩れてしまうという主張である。従来、男系男子にこだわっていたから、代々の天皇は父方を遡れば神武天皇に辿りつく。だから尊いという考え方である。

たしかに、たとえば愛子さまが、どこぞの山田某さんとか鈴木某さんとご結婚した後、他に皇位継承者がいなくなるような事態に陥り、やむなく愛子さまと山田某さんあるいは鈴木某さんとの間にもうけたお子さんが皇位を継承しなければならないような展開になったとして、国民の大多数がすんなりと納得するかどうかは微妙な気がする。かなり意見が割れそうである。

英国王室が男系にこだわらない理由としては、これは僕の思いつきの意見に過ぎないが、ヨーロッパの王族は長年にわたって何重にも婚姻関係を結んでいることも関係ありそうである。特に、9人も子どもを生んで、「ヨーロッパの祖母」と呼ばれたヴィクトリア女王の貢献は大きい。あちこち全員が親戚みたいな感じだから、どこを辿ってもどこかの王様に辿りつく。貴族制度も厳然と残っているし、庶子は最初から排除されているので、少なくとも、どこの馬の骨かわからない奴はいない点において、日本とは事情が異なるのかもしれない。エリザベス女王の王配であるフィリップも、ヴィクトリア女王の玄孫であり、下位ながら王位継承権も有していた。

日本の皇室が、とことん男系男子にこだわるということであれば、皇籍離脱した旧宮家の系図を紐解いて、男系男子として皇位継承資格を有する人たちにも対象を広げるしかない。とりあえずは、戦後、3直宮家以外の旧伏見宮系を中心とする11宮家が臣籍降下しているが、彼らの中には男系男子という意味で皇位継承候補者になり得る男子がいると聞いたことがある。他にも明治時代以降に、宮家を創立せず、爵位を受けて臣籍降下して華族になった人たちがいたはずである。記録がしっかり残っている江戸時代くらいまで範囲を広げれば、対象はもっと広がるのではないだろうか。英国だって17世紀まで遡って、しっかりと管理しているのである。同じようなことを日本でもやればいいのである。

そうやって、現皇室との血縁の濃淡は別にして、皇統に属するかどうかだけで皇位継承資格者を管理する。少子化の影響は免れないとしても、2人しかいない現状よりは大幅に改善可能であろう。

一旦、臣籍降下して、今は庶民として生活している人を、いきなり皇位継承者として扱うのは、国民が納得しないだろうという意見もある。たしかにそのとおりだ。

そうなると、あとは、たとえば愛子さまが山田某さんとか鈴木某さんと結婚して生まれたお子さんが皇位に就くのと、皇統に連なる血統であることは間違いないものの、今まで庶民として生きていた人が皇位に就くのと、どちらが納得的かという問題について、日本国民が徹底的に議論を尽くして判断するしかない。

ここから先は僕の個人的な意見であるが、男系男子にこだわるというのは、科学的な根拠(Y染色体の話を持ち出す人もいるが)の議論は別としても、決して否定するべきではないと思っている。せっかく長年守ってきた伝統を今すぐ崩してしまう必要はないし、守れる可能性があるうちは守った方が良いのではないかと思う。やめた後で後悔しても、もはや取り返しがつかないからである。絶滅してしまったニホンオオカミを、いまさらどうにかして復活させようとしても不可能であるのと同じである。

そういうわけだから、過去に皇籍離脱したメンバーも含めた皇位継承資格者の管理というのは、やってみる価値があると思うのだが、いかがなものだろうか。

旧宮家全員を皇族に復帰させるとか、そういう無駄なことは必要ないと思っている。皇室典範を一部改正して、天皇がいざという時に養子を取れるようにしておいて、皇位承継資格者をきちんと管理さえできていれば、あとは運用で何とかなるはずであろう。

めんどくさいのは、有資格者の管理である。死んだり生まれたりするのも含めて、常時、リストのメンテナンスをしないといけないからである。宮内庁は仕事が増えるから抵抗するかもしれない。それだけのための専従チームを組成しなければならなくなるかもしれない。

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