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犯罪のSNS化について

狛江市での強盗殺人事件に端を発した全国各地での一連の広域強盗事件への関与が疑われている日本人4名が、海の向こうのフィリピンの入国管理局にいて、そこから強制送還されるという話に関して、いろいろな感想を持ったので、忘れないうちに書き記しておきたい。

まずは、今回の事件とは直接関係がないことだが、フィリピンという国は、おカネがあれば大概のことは解決できるんだなあということである。

入国管理局に身柄を拘束されていると言いながら、実態としては国家権力に身辺警護をさせていたようなものである。塀の中にいれば安全だし、おカネを払えば、いろいろと便宜を図ってもらえるし、食べたいものを食べて、スマホで外部と連絡も取れるから何も不自由はない。同様のことは、たぶん発展途上国においては大なり小なりどこでもあることかもしれない。

次に、SNSを巧妙に使った手法が洗練されており、ある意味、ビジネスモデルを考えついた人間には感服せざるを得ない。

特徴としては、①SNSを介して「闇バイト」として末端の担い手を募集する。個人情報を押さえておき、逃げられないよう「人事管理」をしっかりと行なう。②一定期間経過後にメッセージが消去されるアプリを介して匿名で指令を発する。③指示役や首謀者と末端との間には何段階も階層があって直接の接点は持たない。④日本の捜査権が及びにくい海外に拠点を設ける、⑤おカネを末端から足がつかないように回収するルートを構築する等々である。

末端の担い手をいくら捕まえたところで、彼らは使い捨てのコマだから、全容の解明には結びつかない。麻薬や覚せい剤の違法薬物の売買と似ている。

言い換えれば、今回の4名が一連の事件の首謀者かどうかさえもよくわからない。もしかしたら、彼らは単なる指示役にすぎず、本当は彼らの上位に位置する「ラスボス」が存在しているかもしれない。ここからの操作で、そこまでの解明が可能かどうかである。ラスボスと指示役との接点もSNS経由であって直接の面識がないとすれば、全容解明には至らないかもしれない。

おカネのやり取りを銀行口座でやっていれば芋づる式に上層部まで辿っていくことも可能であろうが、違法に入手した他人名義の預金口座等を使われると、真の預金者に辿り着くのはかなり面倒である。またネットバンク経由で海外銀行にでも送金すればその先のトレースは困難であろう。仮想通貨を使うことも考えられる。足がつかないのは、原始的であるが現金のやり取りである。何も事情を知らない「お使い」みたいな人間を何段階も介在されるとトレースは難しい。

コロナ渦以降、リモートワークとかバーチャルオフィス、メタバースといったものが急速に一般人にも広く知られるところとなったが、犯罪もバーチャルなネットワークの中で組織化されつつあるのかもしれない。実際、大掛かりな仕組みさえ構築してしまえば、リアルな接点を持たずに犯罪行為を遂行することができるし、出来上がった仕組みを最大限に効率よく運用するためには、いろいろな種類の犯罪を数多くこなすことになる。犯罪のネットワーク・ビジネス化である。

狛江市の事件でも顕著であるが、手口が荒っぽくて、いかにもシロウト臭い。末端の実行犯はシロウトなのだから仕方がないのだが、それだけに簡単に殺人でも何でもやってのけてしまう。

プロの犯罪者というのは、捕まった場合の量刑を計算するので、余計なリスクを冒さず、まずはバレないような堅実な手口を選択するし、簡単に人を傷つけたり殺したりしない。捕まった時の罪がそれだけ重たくなるし、割に合わないと考えるからである。その辺のリスクとメリットの比較検討ができるかどうかが、シロウトとプロの違いである。

池波正太郎の「鬼平犯科帳」シリーズに、「盗みの三箇条」というのが登場する。「本筋・本格の盗人」たるもの「人を殺めぬこと、女を手込めにせぬこと、盗まれて難儀をする者へは手を出さぬこと」の三箇条を守る抜くのだという。

三箇条を守った「おつとめ」を遂行するためには、相手が気がつかないくらいに鮮やかに侵入して、盗みを遂行する必要がある。そのためには入念な準備が必要であるし、労力も時間も費用もかかる。盗人には盗人なりのプライドや矜持があったのである。逆にこれら三箇条を守れぬような暴力的な窃盗は、「畜生ばたらき」として本格的な盗人たちからは軽蔑される。

現代のネットワーク・ビジネス化された犯罪組織は、老人のような弱者を狙い、簡単に傷つけたり殺したりする。「畜生ばたらき」オンリーである。

こうなってくると、彼らに対抗するための警察組織も相応の覚悟で臨む必要がある。鬼平であれば、密偵を使って、盗人たちの情報を探らせることになるが、警察だって、「おとり捜査」「内部協力者」等を使わないことには、ネットワーク組織の全体像を解明することは困難なのではないだろうか。


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