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震災と木-Disaster Prevention Functionality of Trees-

Introduction

2011年3月11日14時46分、三陸沖の宮城県牡鹿半島の東南東130km付近で、深さ約24kmを震源とする地震が発生しました。マグニチュードは9.0、最大震度は7であったとされています。現在、この震災を東日本大震災と呼び、長きにわたり復興に尽力されています。

2024年1月1日16時10分、石川県能登半島で、深さ約16kmを震源とする地震が発生しました。マグニチュードは7.6、最大震度は7であったとされています。この震災を能登半島地震と呼び、現在全力で復旧に努められています。

本記事の時点で東日本大震災は13年目であり、能登半島地震はこの年となります。この場を借りましまして、被災し亡くなられた方々へ哀悼の意を評しますとともに、今後の災害復興を祈願させていただきます。

筆者は東日本大震災のときは自宅におり、当時震度5強のゆっくりとした横揺れを感じ、机の下に隠れながらテレビの災害情報をSNSで流したり見たりをしていました。
また、能登半島地震では、当時は県外にいたので直接被害にはあっていませんが、自宅がまたも震度5強の縦揺れを受け食器が割れたり配管に異常が生じるなどの被害を受けました。

今回は、震災と樹木に関してお話をしていこうと思います。

関東大震災と街路樹

1922年9月1日11時58分、相模湾北西部を震源とする地震が発生しました。マグニチュードは7.9、最大震度は6であったとされています。死者・行方不明者は10万5千人に上り、この震災を関東大震災と呼んでいます。
関東大震災は近代日本の首都圏に未曾有の被害をもたらした災害として特筆すべき災害であり、その発生日である9月1日は「防災の日」と定められ、日本の災害対策の出発点となりました。

2023年は関東大震災から100年の節目の年であり、防災に関して見直された年でありました。

関東大震災は発生時間が昼前であったこともあり、大火が誘発され大規模な火災が発生したとされており、被災者の約9割は火災によるものであったとされています。災害発生当時は避難場所として都市公園が利用され、その機能について評価されることとなりました。

公園はもともと明治期の近代化に伴い公園という施設が導入させるようになり、社寺の境内が流用されたものでした。震災を機に、帝都復興事業が展開されるにあたり都市の緑化が重要視され、都市部に公園が広く設置されることとなりました。

公園樹木は延焼防止に機能したとされており、関東大震災においては街路樹の有無で3から4割の被害の減少機能があることがシュミレーションにより明らかになっています。
また、樹木の存在により火災の輻射熱が防がれ避難場所の安全の確保に繋がるとされています。

燃える木と燃えにくい木

樹木は薪やチップなどの燃料のイメージがあり、燃えるものとしてのイメージがあるかも知れません。しかし、実際には燃えやすさも樹種によります。

街路樹にはイチョウが広く植栽されていますが、実はイチョウは防火性能が高い樹種であるとされていることもあり採用されています。
イチョウの防火性能は古くから知られており、特に1788年の天明の大火では、本能寺境内の大きなイチョウの木の下に避難した人々は助かったとして「火伏せのイチョウ」として奉られるようになりました。尤も、史実では水を噴き上げて火から守ったとされておりその点は不明ですが、防災に一役買った点は評価されています。

樹木は含水率の高さや樹脂の多少により防火性能が評価されており、植栽される場所を選定する指標となっている例があります。

樹木の防火効果(大阪府)

防火性能が高い樹種として、広葉樹ではモチノキ科(モチノキ、クロガネモチ、ネズミモチなど)やブナ科(スダジイ、アカガシ、シラカシなど)が、針葉樹ではイヌマキやコウヨウザンが挙げられます。他にもイチイやサンゴジュも防火性能が高く生け垣として広く植栽されています。

常緑樹は年間を通じて水分を多く含み、葉の厚いことから防火力が大きいと言われています。しかし、常緑であってもスギやマツなどの針葉樹は樹脂が多く延焼防止としては不適であるとされています。また、常緑広葉樹であり国内でよく植えられているキンモクセイは含水率が他の樹種に比べ低く燃えやすいことから延焼防止機能は低いものとされています。


津波と木

東日本大震災は特筆すべき点として、巨大な津波が甚大な被害をもたらしたことがあります。特に、津波を抑えるための防潮堤をゆうに超えて津波が内陸に押し寄せ、背後の内陸まで浸水しました。

そうした中で、実際に甚大な被害は出たものの、海岸林が津波の波力を弱める機能(波力減殺機能)を発揮し減災に寄与していたとされています。数値シュミレーションでは、海岸林の林帯が存在することで津波の線流量や流速が減衰されることにより津波の遡上が軽減されたとされています。

また、海岸林が存在することによって津波で流された船舶などの漂流物を捕捉する機能(漂流物捕捉機能)が発揮され、後背部の住宅への被害を軽減したとされています。実際には林帯を通過した漂流物などもありますが、大きなものや倒れた樹木を受け止めたこともありしっかりと防災機能を果たしていたとされています。
残念ながら海岸林はその防災機能を果たすとともに大打撃を受けほぼ消失してしまいました。現在海岸の造成が行われ新たに海岸にクロマツなどが植栽され再生が図られています。

海岸は少々特殊な土地であり、砂地であること、海風が強いこと、海水による塩害が生じることなどの過酷な条件があることから植栽される樹種が限定されています。
最も良好な樹種として選択されるのがクロマツですが、近年では松くい虫(マツノマダラカミキリとマツノザイセンチュウ)によるマツ材線虫病の被害が激甚化し海岸林が枯死により存続が危ぶまれています。
そこで、海岸林の造成にあたってはクロマツ以外の樹種への転換が考えられており、主にカシワやエノキ、アカメガシワなどの植栽が検討されています。

Conclusion

近年、グリーンインフラ(Green Infrastructure)という構想が提唱されています。グリーンインフラは、米国で発案された社会資本整備手法で、自然環境が有する多様な機能をインフラ整備に活用するという考え方を基本としており、近年欧米を中心に取組が進められています。それは、森林を整備することによって自然災害を軽減したり、都市緑化によってヒートアイランド現象を抑制したりするなど、防災・減災に活用するとともに、緑によって景観を改善し、生物多様性に富んだ暮らしよい街を作っていくといった取り組みです。

植物や森林の持つ保健休養機能(生態系サービス)というのは古くから利用されており、災害や公害という歴史の中で私達の身を守るために植栽や管理をされてきました。街路樹の数々の防災機能についても評価されており、今後も気候変動や災害を通じて、樹木や森林の重要性について考えられていくことでしょう。

街路樹は災害発には身近で緊急の避難場所であり、高層ビルなどからの落下物から人々を保護してくれます。時に倒壊物を支え、加害物から身を守る盾の役割ともなります。また、人々を学校や防災公園などの避難場所に誘導してくれる目印でもあります。火災発生時には焼け止まり効果を発揮する、言わば水の壁ともなり、人々の精神的・肉体的な支えとなって重要な役割を果たします。  しかし、それは健全で豊かな樹冠と樹幹を持つものであることが条件です。枝葉か少ない、あるいは細い折れそうな樹木では、身を守ることが難しく、安心して避難することはできません。災害時に大きな力を発揮できる街路樹を育てることの重要性が、2011年の東日本大震災で改めて見直されました。

[第四回] 地震に強い、安全で安心な街路樹育成のための提案 | グリーンインフラの東邦レオ (greeninfrastructure.jp)

無言で佇みながら私達の生活を陰ながらに守っている木々について、この話を通じて少しだけ考える一助となっていただければ幸いです。

ご清聴ありがとうございました。


Reference

関東大震災からの復興(東京都)
https://tokyo-resilience.metro.tokyo.lg.jp/kanto-daishinsai/

都市計画における並木道と街路樹の思想
sankou2-2.pdf (mlit.go.jp)

樹木で地震火災被害を約3割減
https://www3.nhk.or.jp/matsuyama-news/20230901/8000016709.html

東日本大震災の津波による海岸林の被害と津波被害軽減機能
https://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/seikasenshu/2012/documents/p40-41.pdf

グリーンインフラ(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/sosei_environment_mn_000034.html



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