7.抱っこ
その夜のうちに、ちぃは亡くなりました。
ちょうど夜の12時に、家族が見守る中で、ちぃは静かに倒れてそのまま息を引き取りました。ちぃのがんが見つかってから、一か月と20日間の命でした。
真夜中だったので、すぐそばで眠っていたれんは、ちぃとのお別れに気づきませんでした。それほどちぃは、静かに亡くなったのです。
翌日れんは、ちぃの様子がいつもと違うことに気づき、ちぃの亡骸に向かってわんわん吠えました。
ちぃねえちゃん!ちぃねえちゃん!…と、動かなくなったちぃを呼び続けました。
私は、ちぃがいつも抱っこをせがみにきたことを思い出し、ちぃの体があるうちに抱いてやらなくては、と何度もちぃを膝の上に抱きあげました。
命を失ったちぃのからだはただひんやりと重く、腕の中にその重みがありました。ちぃはまだここにいる、ちぃの心はまだこの部屋の中にある、そう思えてならないのでした。
闘病中はがんのせいでとても体が熱かったようで、ちぃが暑がるので寝る時もちぃを抱いてやることはできませんでした。私はそれがとても寂しかったのです。
一緒にベッドで寝ることもできず、居間の床に寝床を作って、娘も私も、ちぃが暑がらないように、ちぃとからだがくっつかないようにして寝ていました。
ちぃが亡くなってから三日目の午後、葬儀屋さんが庭に火葬車を持ってきて、ちぃを焼いてくれました。
少し風の強い日でしたが天気は良く、旅立ちには良い日でした。息子も来てくれて、家族全員で見送りました。
…といっても、ちぃは自分の死に気づいていない様子でした。
それから数か月の間、ちぃは居間の中や、二階に続く階段をちょろちょろと探索していたようでした。
私の仕事にも毎日ついてきて、
「わたしはここにいるよ。」
と、話しかけてくるような気がしました。
生きていたときと同じように、ときどき抱っこをせがんでくるようでした。
わたしは見えないちぃを腕の中に抱いては、見えないちぃの顔を眺めていました。
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