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政府と日銀の関係ー誰が2%を求めたのか

日銀についての疑問と情報|note

この記事で 「日銀についていろいろ疑問が浮かんできた」 と書いたのですが、その疑問がある程度晴れてきたのでご報告します。
まず前回書いたように 「物価上昇率2%って誰がなんの根拠で決めたんだ」 と思っていたのですが、元日銀総裁の白川方明さんの著書 『中央銀行』によれば、2%目標を求めたのは政府世論です。
白川方明さん自身は、物価目標の設定 (インフレ・ターゲティング) には明確に反対だったと記しています。

ではなぜ、日銀総裁が反対していたのにも関わらず 「政府と日銀の共同声明」 というかたちで2%の目標が公表されることになったのか。

要因のひとつは日本の日銀の意思決定システムにあるようです。
1998年に改正された日銀法では 「日銀は自主的に意思決定する」 という文章が明記されています。
こうした決まりごとは他の国でも意識されていて、特にアメリカの中央銀行システム (FRB) では政府との分離が明確にされているようです。

そのためアメリカのFRBの会議に政府の人が出席することはありません。
しかし日銀の会議では、政府 (財務大臣など) が出席し、政策に口を出すかたちになっています。
更に、政府側も政府側で経済についての会議を開いています。それがこの記事を公開する5月16日にも開かれる 「経済財政諮問会議」 です。

もちろん政府も経済について、税金を使って政策を行うのだから会議は必要です。
ただ諸外国と違うのは、この会議に日銀総裁が出席することです。
中央銀行の総裁が、政府とともに別の場で経済政策について議論するというのは、他の国にはないことだといいます。
つまり日本の場合 「日銀の会議に政府の人が混ざる」 「政府の会議に日銀総裁が混ざる」 という、成り行きで半同棲になったセフレみたいな曖昧な状態が続いているわけです。
こうした状況によって 「政府・日銀の共同声明」 という責任の所在がよくわからない声明が (日銀総裁が反対しているにも関わらず) 公表されるという事態が生まれたのだと思います。

とはいえ、これはあくまで "日銀側" である白川方明さんの本から読み取った情報です。
「政府が日銀に圧力をかけて政策を歪めたんだ!」 という一面的な見方もどうかとは思っています。
ただ少なくとも中央銀行が政府や世論を気にしなければいけない状況だったのは確かなようです。
国会で総裁が厳しく追求される場面も過去の映像には残っていて、それを見ると白川方明さんに同情する気持ちも沸いてきます。

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次に 「物価上昇率2%」 という目標設定は適切な政策だったのかどうかについて。
これは専門家ではない僕には判断のしようがないのですが、なぜ白川さんが反対していたのかは著書に書いてありました。

まずこういった物価目標を明言する政策は "インフレ・ターゲティング" と呼ばれています。
多くの先進国では、日本が導入する前から 「2%」 という目標を掲げていました。
これはどちらかというと 「約束することで、市場・人々を安心させる」 という目的のものだったようです。
つまり大々的にどかんと打ち出すようなものではなく、むしろ補助的なものだったのだと思います。

日本ではこれが少し違ったかたちで取り入れられました。
白川さんは外国のものと区別するために "日本版インフレ・ターゲティング" と呼んでいます。
日本版の特徴は、インフレ・ターゲティングが量的緩和と結びついていることです。
つまり 「物価2%の目標を達成するために、国債をがんがん買ってお札を刷りまくれ」 といった政策になります。

厳密に言うと、"量" つまり日銀の当座預金残高を増やすことと、お金を刷ることには違いがあるのですが、まぁ志としては同じようなものです

政府がこうした政策を好むのは当然です。
白川さんは2008~2012年、つまり自民党政権・民主党政権の両時期に総裁を経験していますが、どちらの政権でも、こうした "お金刷りまくり政策" を求める傾向があったといいます。時期によっては民主党政権のほうが積極的だったとすら書いています。

少しだけ著書とは関係ない財政の基礎の話をすると、
政府の予算は、基本的には税収 (歳入) によって決まりますが、足りない場合は赤字国債が発行されます。簡単に言えば銀行などから借金をするわけです。
もともと日本では、道路や建物などインフラ建設に使う "建設国債" 以外の赤字国債は発行が認められていませんでした。
つまり 「借金をしてまで政策を進めちゃいけないよ!でもインフラを整えることは経済成長に必要不可欠だから借金してでもやりなさい!」 というルールです。
道路が整って、物流コストが減れば、企業の儲けも増えて生産が伸びるし、そうすれば最終的には税収も増えるから、長い目で見れば借金してでも早くやっちゃった方がお得、という考え方です。
経済学派でいうと、これはケインズの乗数理論の考え方にもとづいているようです。

しかし建設以外の分野では、税金として徴収したのと同じ額の出費しか許されない状況でした。これは政府にとっては苦しい状況だったでしょう。
そのため1975年、田中角栄の後の時代から 「道路とか以外の出費でも借金していいよ!ただしこの1年間だけね!」 という特例法が使われるようになります。
この特例公債法により借金をするわけですが、その後 「今年だけね!今年だけね!」 といいながら毎年使われるようになり……いつしか "赤字国債" という呼び方もされなくなり 「国債といえば借金に使うもの」 という認識になっているのが今の日本です。

もし借金が無限にできる状況なら、政府としては万々歳でしょう。
ただそれは 「いつか税率を上げるか、税収を増やすことによって返済される」 のが前提のものです。
いつの間にかGDPの200%とかいうわけのわからない額になってしまっているわけですが。
それでも政府は、少なくとも表向きは 「いつか返す」 と言い張っています。元首相の安倍晋三さん以外は

……ということを踏まえた上で日銀政策の話に戻ると、
政府にとっては 「物価上昇率2%の達成」 という目標ではなく、むしろ 「そのために日銀が国債をたくさん買い入れる」 という手段の方が重要だったのではないかと思ってしまいます。

しかし政府悪玉論というのも単純すぎるでしょう。
白川方明さんの著書はあまりに 「日銀は清廉潔白だ!」 という視点に偏りすぎていると思います。
自分たちにとって都合の悪いことを政府やメディアや "物わかりの悪い国民たち" のせいにしているとすら思えました。
(しかし実際、国民は物わかりが悪いですよね。ちゃんと調べるか本読むかくらいしろよ脊髄反射の馬鹿どもが)

と、疲れて二重人格になってきたので話をまとめていきます。

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まず最初に僕が疑問に思った 「政府と日銀の関係」 というのは、どうにも割り切れない半同棲のセフレみたいなものでした。
アメリカは「セフレです」と言い切っているし、中国なんかは「結婚してます」 と言い切っているのですが、日本はそこがどうも曖昧。

そこを掘り下げていこうと思うと、1942年に制定された日本銀行法が、ナチス時代のドイツの中央銀行制度を参考にしてつくられたものだった、というところまで遡る必要があります。
ナチスドイツですから、中央銀行についてももちろん政府がコントロールするようなものでした。結婚は結婚ですが昔の家父長制みたいな結婚です。
その後、1998年になってやっと "改正日銀法" が施行され、日銀の自主性が法律に明記されるようになりました。
しかしおそらく組織文化的なものはそうやすやすと変えられるものではなかったために、曖昧な状態が生じたんじゃないかと想像しています。

そして 「物価上昇率2%」 という主張については、目標だけじゃなく手段に注目する必要があるのだと思います。
「国債などを日銀が買い入れることによってお金の量を増やす "量的緩和" 」 というのが手段にあたります。
この量的緩和も、遡れば2001年の速水優さんが日銀総裁のときに導入されたものです。
この速水さんの意見や発言が聞けたら、今の日本にとって非常に重要なものになると思うのですが、残念ながら亡くなられています。
ただ2004年に 『中央銀行の独立性と金融政策』 という本を出していらっしゃるので、今度はこれを読んでみようと思います。

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