見出し画像

局所性ジストニアハンドブック第二版に向けての原稿。

下記原稿は無事Amazonで書籍化されました。Kindleでも読めますし、紙の本を注文することもできます。

こちらのnoteは、今後第二版に向けて少しずつ修正していきます。よろしくお願いします。



プロローグ

とある脳神経外科の診察室にて。
「先生!!俺、まだピアノ弾けますよね!?指がおかしくなっちゃって…」
私の前で取り乱している高校生をなだめながら話を聞いていく。
「まあ、落ち着いて。症状はピアノを弾いてる時だけで指に勝手に力が入る、痛みもなければ普段の生活には何にも問題ないんだね?(また局所性ジストニアか…)」
検査をするとやはり何も問題は見当たらない。
【局所性ジストニア】の多くは日常生活には支障がなく、特定の動作をする時にだけ急に力が入り思い通りに動かせない状態…日常生活に支障がないのであれば別にいいじゃないか。
趣味もない私はそう思いながらパソコンに向かいカルテを打っていた。

そんな私の考えを知ってか知らずか「ピアノの先生から、練習が足りないからだって!気持ちの問題だって言われたんですけど、僕は誰より練習してるんです!!誰よりピアノが好きな自信があるんです!!!!どうしたら治りますか?」と少年は一気に捲し立てた。
余程、ピアノに情熱を持っているらしい。

私はパソコンから目を離し、ゆっくり少年の方に向き直ると説明を始めた。
「君はおそらく、局所性ジストニアだ。脳のエラーからくる病気で今は難病だって言われているんだ。治療は脳の手術や筋肉の緊張を和らげる注射や内服だけど…もちろんどの治療もリスクはある。ただ君は若い。まだ他の趣味を持つって選択肢も…」
さっきまでの勢いは何処へやら、彼は俯いて「難病…手術…?」と弱々しく呟いた。
膝の上で固く握られた拳は小刻みに震えていた。
「……ですか?」彼が俯いたまま呟いた声が聞こえず、聞き返すと今度は真っ直ぐ私の目を見てはっきりとした声で聞いてきた。

「他に…他に治療法はないんですか?ピアノは僕の人生をかけたものなんです。小さい頃からやってきてコンクールでも優勝できるようになって…ピアノが弾けない人生なんて考えられないんです!!!!お願いします!!!!」目に涙を溜めながらも力強い声で話す少年の言葉に少しハッとした。

本当に他の方法はないのだろうか…?改善できる可能性は本当にないのだろうか?
私は局所性ジストニアの専門医ではない…でもこの少年の熱意に少しだけ心を動かされたようだ。
持っている医学書を読んでも原因も治療法も知っている内容で「やっぱりな…」と半ば諦めながらパソコンを開いて調べていくと鍼治療やアレキサンダーテクニークにトラウマ療法なんてものも出てきた。
特に真新しい情報もなくパソコンを閉じようとしたが、検索結果に一つの動画のサムネイル画像が目に飛び込んできた。

【局所性ジストニアの原因は筋力低下!】
そんな見出しが掲げられていた。
何を言ってるんだ?疑いながらも動画を再生してみると理論的にはあり得そう…という内容だったが筋トレで局所性ジストニアが治るなら、世界中でこんなに原因不明と悩んでないはずだ。
今は色んな事を色んな人が発言できる時代だからな…

ただ学生でお金もなくリスクのある治療に躊躇している少年には向いているかもしれない。
次の受診の時に確証はないがと雑談レベルでそのチャンネルを教えてみると少年は目を輝かせて診察室を後にした。

それから彼が来る事もなく、新たな趣味でも見つけたんだろうと思い私も忘れかけて1年経った今、あの時の少年が病院の診察室の前で深々とお辞儀をしているのだ。
「先生のおかげです!!あのチャンネルを教えていただけたから…」顔を上げた彼の顔は輝いていた。
なんでもあのチャンネルの主と連絡を取り、筋トレを教わっていたら局所性ジストニアが改善したというのだ。
にわかに信じがたいが現に彼は以前のように、いや格段にピアノが上手くなって渡米が決まったらしい。
お礼だと言ってチャンネル主の本★「局所性ジストニアガイドライン(仮)」★を置いていった。

いや、そんな事があるのか…?今までに見た事がない例だった。
もう一度YouTubeを見てみると…登録者数も増えていて改善例も増えているようだ。
筋トレで…?もし、そんな事で改善するならもっと多くの人が救われるのではないか?
私は期待と不安が入り混じったような複雑な気持ちで、少年から渡された本を開いてみることにした。

序章 「あの時の笑顔」を取り戻す


 本書を手に取っていただきありがとうございます。
局所性ジストニアで悩んでいるあなたの手元に本書が渡るのを私はずっと待っていました。



どうしたらいいんだ…って不安だったと思います。
もう昔みたいに動けないんじゃないか…と泣いた日もあるかもしれません。なんでわかってくれないんだ!って嘆いたことも辛い・・・悲しい・・・悔しい・・・何で自分が?苦しい日々を過ごしてきたかと思います。



そんなあなたが感じてきた、沢山の苦しみの理由を私は知っています。



【お前に何がわかるんだ】

そう思うかもしれません。

確かに、私は局所性ジストニアになった事はないので、あなたの気持ちを全ては分かりません。

でも、最初に少しだけ私の話を聞いてください。


2014年、私は病院勤務の傍ら自費でプロ野球選手やサッカー選手などのパフォーマンスアップのための施術をしていました。

そんなある日、実業団の陸上選手に出会いました。
彼は「走る事が大好きなのに、、、痛みもないのに、、、何故か走れない」
そう暗い顔でうつむいて言いました。

彼こそが私が初めて出会った【局所性ジストニア(ぬけぬけ病)】でした。
その時は、ぬけぬけ病という名前すらなく、カックン病やローリング病、抜け症など様々な呼び方で呼ばれていました。
私自身、痛みがないのに走れないという状態も聞いた事がありませんでした。でも私を頼ってきた彼の暗い顔を明るくしたい。その思いだけで一生懸命その選手と一緒に症状と向き合いました。

その選手の体を初めて診た日。
家に帰った私は『何も出来んやった…』と男泣きしました。


そう、当時の私は本当に【何も出来なかった】のです。


それまでの理学療法士としての経験と知識と技術を持ってしても何の効果も出せなかった。
ものすごく悔しかった。
目の前に困ってる人がいて、何もできない歯痒さ。こんな気持ちをもう二度と味わいたくない。そこから毎日毎日病院勤務が終わってからの時間のほとんどを、局所性ジストニアの研究に費やし、試行錯誤が始まりました。知らない方も多いかもしれませんが、私も【局所性ジストニア】で泣いた1人なのです。


今でこそたくさんの情報で溢れていますが、その当時はインターネットで調べても全然情報が出て来ず、海外の論文やサイトまで必死に探し続けました。その中で有効と言われている治療法は、手術や内服、瞑想、トラウマ改善ばかり。


残念ながら、そこには私が求める【答え】はありませんでした。


その選手と二人三脚で体の使い方を分析して、こうしたらどんな感覚?こうしたらその感覚はどう変わる?と試行錯誤して約半年。気がつけば、週に3回ほど通い続けてもらっていて、ずっと症状と戦っていました。本当に彼はよく頑張ったと思います。そんな彼の頑張りにより症状が完治し、なんと実業団の大会で日本一になることができたのです。


溢れるような笑顔で【西山先生に出会えて良かった】と言ってくれました。

今の私があるのは彼と出逢い、彼が【一緒に】頑張ってくれたからです。
その時の笑顔は今でも目に焼き付いています。
だから、あなたの【その笑顔のために】私の時間の全てを局所性ジストニア改善方法の確立に捧げることを2020年に決め、当時勤めていた病院を辞め、局所性ジストニア専門理学療法士として独立して活動しています。

2014年から私が2021年までに関わった局所性ジストニアの方は450人以上になりました。
最初は改善まで1年近くかかっていましたが、今では最短で2週間、平均8ヶ月で改善が見られる方も増えてきました。(もちろん症状により改善するスピードや期間は一律ではありません。)
某大学のぬけぬけ病の研究に参加したり、めざましテレビでコメントさせてもらったり、新聞に取り上げていただいた事もありました。
2019年までは、ぬけぬけ病専門理学療法士として活動していたので、主に陸上のぬけぬけ病のみを診ていましたが、そこから局所性ジストニア専門理学療法士と幅を広げたことで、徐々に他の局所性ジストニア(ミュージシャンズジストニア・書痙など)の依頼も来るようになりました。足と手は全然違うと思うかもしれませんが、体の構造は似たつくりになっているので、ぬけぬけ病の考え方を他の局所性ジストニアの方へも適応させることができたのです。
定位脳手術をされた方のリハビリを任されたこともあります。いろいろな局所性ジストニアを診ていくうちに共通点と改善方法が明確になってきました。
『気持ちの問題』『気合いが足りない』『練習が足りない』『技術不足』
皆さんが言われ続けてきた言葉達…そうではないことが、わかってきたんです。


症状を作り出した1番大きな理由は、

あなたが【一生懸命頑張ってきたから】なんです。

局所性ジストニアで悩む人の多くが頑張り屋です。
仕事を、趣味を、日常生活を頑張ってきたんですよね?
多くの方は、局所性ジストニアになることで、大好きだった動作や演奏などがうまく出来なくなってしまっていることと思います。当たり前だと思っていた日常から、ある日突然闇の中に放り出されてしまった。そう感じてるかもしれません。この本を購入して読んでいるあなたのその闇の中には、すでに一筋の光が差してきてるかもしれません。

「もしかしたら手術や薬を使わずに改善する方法がわかるかも!!」

もちろん私もできる限り協力させていただくつもりで本書を書いています。

でも、残念ながら現実はそこまで簡単ではありません。局所性ジストニアは、私1人の力では改善させる事は出来ないんです。厳しい言い方かもしれませんが、本書を読むだけで改善することは絶対にありません。これまで頑張ってきたあなたの頑張る力がないと改善に近づけないんです。【頑張り屋のあなた】と【体の専門家の西山】が同じ方向を見ることで原因不明と言われているこの局所性ジストニアを克服できるんです。体を治療してもらえば良くなる。そう考えているうちは、改善は難しいです。改善のためになんでも一生懸命頑張る。そう思える方は、きっと結果がついてきます。
450人という数を診てきたからこそ沢山の共通点が集まり、一つのガイドラインを作ることができました。あなたもそのガイドラインに沿って私と改善を目指していきましょう。
最初のランナーが完治してから8年の月日が経ち、ぬけぬけ病から始まり450名以上というとても多くの局所性ジストニアの方々と関わることができました。この本では、その8年間で得られた局所性ジストニアについて私が知っていること全てをお話ししていきます。手術は本当に必要なのか?薬は?ボトックスは?そんなこれまでの一般的な改善方法についても独自の視点から解説していきます。そして、それらとは全く違う方法で改善できているその理由を全てお伝えしていきます。
きっとこの本は、あなたの笑顔を取り戻す大きなきっかけになることでしょう。そして、いつの日にか、「この本って当たり前のことばかり書いてあってつまらないね。」と言われるような日が来ることを心から願っています。

ここから本題に入っていきますが、まずは本書の内容を大まかに解説していきます。それから一つずつ各章を読み進めることで理解がグッとしやすくなるはずです。

第一章では、局所性ジストニアについて理解を深めていきます。何事もそうですが、敵を倒すためには敵を知ることから始めなければいけません。ここでは、他の文献や著書にも書かれているようなことを簡単に解説しているので、すでに局所性ジストニアの概要(診断方法や分類など)を知っている方は、斜め読みで飛ばしても大丈夫です。
ただし、この章の後半には、他の著書には書いていない「筋肉の機能」や「脳の機能」という局所性ジストニア改善には必須の知識を記載しています。そこは必ず理解するようにしてください。少し難しいですが、その知識が改善に大きく繋がってきます。

そして第二章では、局所性ジストニアの方々448名にとってきたアンケート結果を集計していきます。この結果から面白い共通点も見えてきました。他のジストニアの方の症状とあなたの症状を見比べてみてください。似ているところがたくさん見つかるはずです。そして、私はこの章がジストニア改善に重要なポイントだと考えています。その理由は、自分一人じゃなかったと思えるからです。これまであなたと同じような症状の方は周りにあまりいなかったと思います。だから、「周りの誰にも理解されない辛さ」が症状をひどくしてしまう場合がたくさんあるんです。でもこの章を読むことで、「みんな同じ症状で困ってるんだ」と思えるはずです。それだけでも不安が少し減ると思います。実際にそのように感じている方が私の周りにはたくさんいるのです。

ここで少し安心してもらった後に次の第三章では、共通する5つの症状について理解を深めていきます。きっとあなたの症状もこの5つの症状のどれかに当てはまるはずです。それが気になる方は、先にこの章を読んでも大丈夫です。


その次に第四章では、なぜあなたが局所性ジストニアになってしまったのかという謎を私の経験からお伝えしていきます。少し難しい専門用語も出てきますが、具体例を出しながら解説していきます。


第五章では、これまで一般的な治療法として考えられてきた手術や薬についての私の考えをお伝えします。もちろん全ての治療法は、必要な方にはとても重要な治療法です。でも、そうでない人もいることは確かなんです。どんな治療方法も合う人にとったら合うし、合わない人にとったら合わないんです。何故人によって合う治療法と合わない治療法があるか。それは、一人一人同じような症状があったとしても原因が違うからです。原因が違えば治療法を変えなければいけないということです。
もし筋力低下が原因だったとして、脳を手術するとどうなるでしょうか?脳を手術しても筋力をつけることはできませんよね。反対に、脳に問題があって、筋力トレーニングをするとどうなるでしょうか?これもうまくいかないのはすぐに理解できるはずです。両方ともに間違った治療を選択してしまっていますよね。これだと改善するものも改善しないんです。
そして、治療法選択の順番としては、リスクの低いものから試していくことをお勧めします。もちろん緊急性を要する場合は、リスクをとることもあると思います。そこは、あなたの今の環境やどれくらいの緊急性があるかによって判断していかなければいけないところになります。


それらを踏まえた上で、第六章では、ほぼリスクがなく今のあなたの体の状況を知るための3つのステップが書いてあります。今すぐにでもできることなので、何よりも先に今すべきことを知りたいという方は、この章を先に読んでください。「何をしていいかわからない」という状態から、「これをすればいいんだ」という状態に変わるだけでも少し安心すると思います。


そして第七章です。ここが本書の一番伝えたい内容です。手術や薬を使わずに改善させるためのガイドラインを具体的に解説しています。本書を全て読む時間がない方は、ここだけでも読んでください。


第八章では、もっと知識を深めて自分の体の中で何が起こっているのかを理解していきたい方向けに、難しい専門用語などをわかりやすく解説しています。これを知ることで、もっと理解が深まり、改善が早くなると思います。


そして第九章では、今の私の頭の中にある局所性ジストニアとは何なのかをもう一度詳しく整理しています。しかし、まだここは予測の段階なので、そんな未来になればいいなという気持ちで読んでもらえると嬉しいです。
それでは、局所性ジストニア改善の旅へいってらっしゃい。

ここから先は

95,322字

¥ 3,500

いつも応援ありがとうございます。局所性ジストニアの研究を頑張って欲しいと思った方は、こちらからサポートをお願いします。いただいたサポートは、あなたと同じように局所性ジストニアで悩む方を助けるための活動費になります。