手の動かし方

最初が一番困る

腕はらせんに、そんな話をしています。
身体が手掛かりにちょうどいいのは、そこに間違いのない「形」を持つからです。
腕をみればそこに肩肘手首があり、肘を主役にした折りたたむものにもなれば、全体を見てらせんの動きを見つける事ができます。
また、腕が動く土台を探せば胴体が見えてきます。

どこか一つを拠点としてしっかりと見れれば、「芋づる式」にどんどん新しい世界が拡がります。
身体感覚の稽古で一番困るのは「最初」です。ただ、その最初の壁を破れば、後は興味に従うだけ。どんどん、気づきは増えていきます。

手の動かし方

腕は線の動きを見つけやすいところです。
腕には感情豊かな内臓が少ないからかもしれません。
ただ、努力をしやすい筋肉が多い。これが、つい、単調に動きを繰り返す事をしがちです。
そこでうまく「成果」を観察し、努力した時としない時、それぞれの成果を比べてみれば、努力の罠から抜ける事が出来ます。

骨と筋肉の関係が分かれば、自然とらせんに動かす意味がわかるはずです。
らせんは骨と筋肉にはそれぞれの働きを活かすための目安になるものです。
ならば、「手」にもそれは適応される、そんな連想も不思議ではありません。これが「芋づる式」です。

手を見れば、そこに骨も筋肉もちゃんとある、とわかります。
ならば、この手も「らせん」で動かせばいい、そう考える事ができます。
ただ、手は「外」との関係が強いもの。まぁ、「指先」がつい、動いてしまうのです。

指先と手は、手と腕のように「親子」の関係にあります。
手と指先の働きを混ぜてしまうから、混乱が生まれてきます。
まずは手の中のらせんを探すのをお勧めしたいです。

指のらせん

手の中のらせん。それを探るために大雑把に手の構造を知ってください。
細かく見ればどこまでも小さく分類できますが、まぁ骨を目安にしていきましょう。
腕と手を結ぶのは手首。そこにはいくつかの小さな骨が石垣のように固まっています。ここにもいずれらせんを見たいところですが、最初は難しいと思います。
まずは「指」を探します。

指とはどこから?

これは前回、腕の始まりは鎖骨、と話した事と似ています。
手を見ればそこに手の甲、手のひら、「平たい面」の形が見つかります。ひらたいものは土台として使いがち、指とは思えません。
しかし、我々はレントゲンという技術を手に入れました!その写真をみれば、「手のひらをつくるものは指」とわかるはずです。

手のレントゲン写真

指は長い

指が長い、とわかれば、その長さを活かして動けばいいのですが、ここが知識と感覚のギャップが生まれるところ。
分かっていても、なかなか出来ません。
なぜなら指先が働いてくれるし、そもそも、しっかり握らなくてはいけないものがないからです。

これも腕の話でしましたが、仕事がコンピューターに変わり、指先の選択によって多くの成果が出てきます。成果中心の時代ですから、指先を酷使すれば何とかなる。当然、指の働きを探る人は減ります。
ただ、組織なら役割分担で無理をさせ、壊れたなら交代、という冷血な対応もできますが、指先も指も手も腕も胴体も「みんな自分」です。
成果を楽しみにできる間は我慢も出来ますが、どこかで不満は爆発します。ほんと、身体は世の中の縮図です。

長い指をどう使うか。もちろん、「らせん」です。
そしてそれもちゃんと、昔の人たちは生活の中で自然と得られるような世の中を作っていました。
何かを掴む時に「わしづかみ」で取ってはダメなのです。優しく丁寧にものを扱おうと思う時、自然とそこにらせんが生まれます。

丁寧さを出す時、自然に生まれるもの、それが時間です。
慌てれば指先が動きすぎます。心の働きに指先が応えすぎてしまいます。
指先を使わず、指を使う。この時、ぐるりとらせんを描くように掴んでいく。
結果的に「手のひらで包み込む」ように、優しくなります。

丁寧さとコスパ

今、なんでもコスパで語られるような社会なりました。
物価も高いし、生活も大変、ついつい、お金を大切にしたくなります。
現代は使い捨ての文化。安いものも多いし、わざわざ修理をする必要がなくなりました。
しかし、それが物に対しての丁寧さを忘れさせてしまいます。

物だけを見ていれば新しさを求めて、世代交代を進めていく事も出来ます。しかし、心はどうでしょう。新しいものを得て心新たになっていればいいですが、段々と「雑さ」が溜まっていく事にもなりかねません。

命ある身体は交換が利きません。いずれ、大切に扱う必要が出て来るもの。
どれだけ丁寧に身体を見ていけるか、それを学ぶのに、指のらせんはちょうどいいかもしれません。

驚きを認めて、冷静に観察する

武術の世界には不思議な技を使う人が多いです。心のコントロールも合わせれば触れずに崩す事も可能になります。
しかし、まぁ、触れずに崩す、というのを求めたなら催眠術でも帝王学でも学べばいい。武術が必要とするのは身体的な超衝突の中で何が出来るかを学ぶ事です。

私が時折実験する不思議、と言われる動きがあります。
それは指を掴んでもらい、そこで崩すというものです。
こんな状況、実際の戦いではありえません。しかし、武術のどの場面ももう、現代においては一生の間に起こらないかもしれないのです。
あくまでも、観察の材料としての動きです。

指を掴まれると反射的に身体が強張ります。まぁ、確率的に多い、という事。
頭が主導すれば、知らない事に出会った時、身体は緊張します。
しかし、この時、相手に囚われる事なく、まずは自分の状態を観察してみる。するとそこに必ず、抜け道、活路が見えてきます。

指を掴まれた時、胴体にどれだけ力があっても、その「大きな力」だけで動いては指は壊れます。必要なのは大きな力ではなく、「丁寧な使い方」です。
掴まれた指、それは「動かない」ように見えるかもしれませんが、これは嘘。掴まれていても、まだ「指は動く」、そんな観察が出来るかどうかです。

指を強く握られたなら、わしづかみの動きは出来なくなります。相手はそれを考え、握っています。しかし、らせんの動きなら大丈夫。左か右、どちらかには「隙」があり、一ミリ、二ミリ、動き出します。
そして、詰まったなら反対側へと回旋の方向を変えていきます。
丁寧に隙間を見つけ、回していく。結果的に相手はふわりと崩れていきます。

気持ちよさを感じる

専門は知っているのです。骨はらせんに使えばいい、と。
しかし、それでも、頭が主役になる時代です。ついつい、もうだめ、と諦めてしまう。
私の稽古は諦めに助けてもらって出来ているのかもしれません。
もうだめ、と思えば心が落ち込む。光が消えます。
しかし、その状態を何度も繰り返し観察すると、身体はまだ動くところが残っている、それが分かります。

そんな観察を何十年も続けてきました。
成果を大事にするのであれば手順を残していけばいいのですが、違う。とにかく、今感じている事をそれぞれが求めて欲しいのです。
成果はなくても、気持ちがいい。これ、大切な基準です。自分勝手に、自分の気持ちよさをたくさん感じてください。
それが結果的に周りを驚かすような大きな成果も出してくれる。それが人間です。

ちょっと長くなっちゃいました。また、次回。

【不定期稽古】

「つくば稽古」
稽古日時:2023/3/26(日)13:00-17:00(入退室自由)
会場:つくばカピオ リハーサル室1
参加費:6000円
申込、詳細はこちらのページから

「川崎稽古」
稽古日時:2023/4/22(土)13:00-17:00(18:00 撤収、入退室自由)
会場:川崎市 宮前区「等覚院
参加費:8000円
申込、詳細はこちらのページから

「甲野善紀浜松稽古」
稽古日時:2023/4/8(土) 16:30~20:00
稽古場所:浜松市福祉交流センター(フクシコウリュウセンター)
参加費:8000円
申込、詳細はこちらのページから

私の稽古はどこの稽古場も、基本もなければ、覚えなくてはいけない技もありません。ペアを組んで号令に合わせて行う練習もありません。気楽に、興味本位でご参加ください。

【定期稽古】3月の予定

3/3(金) 栄中日文化センター
3/3(金) 一宮中日文化センター
3/8(水) 名古屋稽古
3/10(金) 名鉄カルチャー名駅
3/11(土) 浜松稽古
3/12(日) 名古屋稽古
3/15(水) 大垣稽古
3/16(水) 浜松ロングヒーリング
3/17(金) 栄中日文化センター
3/17(金) 熱田稽古
3/23(木) 瀬戸ヒーリング
3/23(木) 犬山中日文化センター
3/24(金) 東山稽古
3/24(金) 名鉄カルチャー名駅
3/26(日) つくば稽古
3/28(火) 豊田中日文化センター

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