触覚と視覚と聴覚の関係

身体感覚という世界がある。これを自覚したのがいつだったのかはわかりません。
ただ、甲野先生の技を受けて、どうにもその原理が理解できず、なにかある、と追えたからこそ、方向を間違えず、稽古を進めていく事が出来ました。

身体感覚とは何か、と定義を考えるのは大変です。
しかし、「感覚」というところを抜き出せば、今自分が認識した全ては五感という感覚から来たものだ、と考える事が出来そうです。
私は稽古の手がかりを「触覚」から始めました。その理由は私が求めた状況を解決するのに触覚が一番手がかりに良かったからです。
音楽家なら聴覚がいいでしょうし、料理人なら味覚が一番に来ても不思議ではありません。
ただ、どの感覚から始めても、全部探したらいいと思うし、探したくなるのが自然な事だと思います。

というわけで触覚をずっと、追いかけてきています。
今は機械の時代です。丁寧な触覚は要らなくなってきました。
多くの人が触覚を探る、という事を忘れてしまっています。きっと、この先はさらに、忘れていってしまうはずです。
その割に、視覚は映像を通して細かな状況までも一瞬で大量の情報を得るようになりました。ギャップがどんどんと大きくなっていくように思えます。

虚の世界は触覚から視覚へと主役を渡した事で見つかったものでした。
危ない!と心が怯えて身体が緊張してしまうのは、視覚が先に何かにピントを合わせていたからだったのです。
いや、これ、考え方ならわかります。世界は自分が見たいように見ている、そんな言葉は聞いた事があるし、まぁそうだよなぁ、と思っています。

しかし、目の前に、今まさに当たらんとする痛いものがあったなら、どうしたって、身体は緊張するよなぁ、とそこに疑いは持てなかったのです。
痛さを回避するためには当たらないところへと動かなくてはなりません。
しかし、それでは何とか衝突を回避できても、心はずっと、痛いままなわけです。

虚の世界はこれまで見えていなかった世界がある、と教えてくれました。
怖い何かをみれば怖さがやってきますが、そのほんのちょっと横に、怖くないものがあったのです。それが「隙」です。相手の隙を見れば、少しだけ怖さを手放す事が出来て、未来を作る事が出来ます。

隙を見つけるためには触覚にスイッチを入れる前が大切です。触覚にスイッチが入ってしまうと、頑丈にはなりますが、自由は無くなります。
触覚が働くのを自覚をした後、それを手放し、視覚へと戻す。それがコツです。

ちょっと丁寧に見てみれば、怖いものの中にも怖くないものがありました。
それをしっかりとじっと、よーく見てみれば、動き出すタイミングもわかってきます。
1月の間の稽古はずっと、そんな感じでした。

稽古をすればわかる事も増え飽きてきます(笑)。そして、触覚の前に働く視覚で見つかった事をさらに前の段階でも探せないだろうか、と考えました。
視覚の前に働く感覚は聴覚です。
触覚を手掛かりにしていた時、それは接点圧力に意識を集中していました。接点に「ピント」を合わせていたのです。
そのピントを外してみれば、視覚からの情報が流れ込んできている事に気づけます。そして、見つかったのが虚の世界だったのです。

もし、今見ている世界からピントを外してみたならどうなるだろう?
最初はいつも、手探りです。
良く見て、ちゃんとする。これは一見、正しい事に思えます。しっかりとわかる事を土台にすれば色々な実験が可能です。
しかし、どうやら、それは視覚以前の可能性を捨てている、ともいえるようです。

ピントを揃えない、というのはどういうことか。
ピントは両目によって作られます。二つの目がちゃんと対象を見つけて、動かない。そんな状態だろう、と考えられます。
この時、主役になっているのは「目玉」です。目玉をいかに動かすか、というのはまぁ、考えやすい方法であり、目の筋トレみたいな話もありますから、つい、そちらへとむかいやすいです。

私はあえて、目玉ではなく、その「まわり」を考えました。
目玉のまわりにあるものとは何だ?
それを考えた時、思いついたのは「水」です。解剖学的に正確な状態は知りません。ただ、目玉はなんとなく、目のくぼみの中にあるもの、そんなイメージを持ちました。そして、そのくぼみは水で満たされていて、目玉に潤いを与えている、そう思ったのです。

こんないい加減なものが私の稽古です(笑)。
しかし、いい加減だからこそ、チャレンジが出来ますし、思いつきも生まれます。
目玉ではなく、それを浮かばせている水を考える。そして、その水を動かせないかを考えました。
もうこうなると、連想ゲームです。水なのですから、それを揺らしてやればいいのではないか?目玉が入っているコップを揺らす。それを意識して何か見つかるものはないか、と探しました。

人の頭は凄いものです。
おおよそ正しくない情報であっても、そこから連想を働かせ、ここに納得を与える力を持っています。
目玉があり、水があり、コップがあり、揺らしてみる。目玉には力があり、喧嘩になりますが、その周りの水を気を付けている人はいません。大抵の人がノーガード状態であり、こちらの思いがそのまま相手の目へと届きます。

そしてここで「手を上げる稽古」をするのです。
手を上げる稽古は定点観測です。同じ事をする事で、細かな違いが見つかります。
そして、この水を揺らすという介入はこれまでにない、不思議な関係を作り出す事が出来る、とわかりました。

ピントを揃えない、というのは考え方から始まったのではなく、具体的な動きから見つかったものです。
これが正しいのだ!とするのではなく、あえて決めない事をしました。相手が目を揺らしてきたなら、ピントを合わす事自体が出来なくなるのです。ピントを合わせられないのであれば、合わせられない状態も自分のものにしておく必要があります。

ピントが揃う前があったのです。
そこへと意識を向ければ、ひらめきのチャンスが爆発的に増える予感があります。
ただ、実際に日常生活に活かしていくのは大変でした。現代はピントを合わせさせる時代だからです。
ピントが合うからこそ、わかりやすくなります。多くの人が分かりやすいスローガンとキャッチコピーを作ります。
入り口としてはいいんです。しかし、いったん合わせてしまったピントから自由になる方法を教えず、ずっと従わせる。そんな世界がどうにも増えているように思えます。

ピントを外せば心配も生まれます。
しかし、これは力です。能力です。
ピントを外せれば、自分の見たいものを見る力が手に入る、そう感じています。

そして、もちろん、「聴覚の前」もありました。またそれについても書いていこうと思います。

不定期稽古のお知らせ

甲野先生の浜松稽古がきまりました!浜松の稽古は久しぶりです。3月末ですので、ちょっと先ですが、ワクワクしてお待ちください。

「甲野善紀先生の浜松稽古」
日時:2024/3/30(土) 14:00~17:00
参加費:8000円(当日払い)
会場:浜松市福祉交流センター(フクシコウリュウセンター)
住所:浜松市中区成子町140番地の8

「つくば稽古」
日時:2024/3/3(日)13:00-20:00
参加費:10000円(当日払い)
会場:つくばカピオ リフレッシュルーム
住所:茨城県つくば市竹園1-10-1 

「東京ロングヒーリング」
日時:2024/3/5(火)10:00-17:00
参加費:24,000円(当日払い) 最大人数6名
会場:大岡山西住区センター
住所:目黒区平町一丁目15番12号

「東京夜稽古」
日時:2024/3/5(火)18:00-21:00
会場:大岡山西住区センター
住所:目黒区平町一丁目15番12号
参加費:参加費10000円(当日払い)
同日10-17時にある「東京ロングヒーリング」に参加の方は5000円

「浜松ロングヒーリング」
日時:2024/2/19(月)10:00-16:00
参加費:24,000円(当日払い)
会場:浜松市武道館 会議室
住所:浜松市中区西浅田二丁目3番1号

共に詳細、申し込みはウェブサイトから。
http://www.karadalab.com/


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