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雨と小麦とプロフェッショナル

7月に入ると決まって、農業団体に勤めていた頃の上司を思い出し、空模様が気になります。上司は技術畑を一筋に歩んでこられた、まさに“プロフェッショナル”と呼ぶにふさわしい方で、その高度な知識と豊富な経験に裏打ちされた言葉は、何気なく話されることでも重みがありました。とりわけ印象に残っているのが7月に入ったばかりのある雨の日のこと。窓辺に佇み、空を見上げて困ったなあ……という表情をされていたので、思わず「どうかされましたか」という言葉が口をついて出ました。

「う〜ん、この時期の雨はね、よくないんだよね」

北海道では秋まき小麦の収穫が7月下旬頃から始まるのですが、収穫期前に雨に当たってしまうと、穂発芽といって、穂についたまま種子が発芽してしまうことがあるのです。そうなると、品質の劣化が起こり、商品価値が著しく損なわれてしまいます。
また、赤かび病の心配も。北海道は梅雨がないといわれていますが、本州の梅雨と同じくらいの時期に、ぐずついた天候が続くことがあります。蝦夷梅雨なんて言葉もあるくらい。それがちょうど小麦の出穂期から乳熟期にあたるくらいの時期でもあるのです。麦類は出穂期から乳熟期に雨が多いと赤かび病が発生しやすくなるといわれています。赤かび病は、品質の低下や減収の原因となるだけでなく、人体に有毒なかび毒(デオキシニバレノール:DON)を生成することでも知られる重大な病害。

そんな心配をされていたのです。
新しい知識を得られたと同時に、頭では理解しているつもりだった農業と天候の密接な関わりが、心にズシリと響き、その日はなんだか雨がそれまでとは違って見えた気がしました。改めて上司の大きさを感じた日でもありましたーービルの中にいても、常に頭にあるのは、作物のことであり、生産者の方のこと。ひとつの道を極め、第二の職場でも現場主義に徹する姿は、今でも忘れられません。

北海道は今、秋まき小麦の収穫が始まっています。天候にも恵まれ実入りが良好と、十勝での収穫の様子が新聞で紹介されていました。
写真は数日前、用事でたまたま通りかかった麦畑。日の入りが近かったので、ちょっと見づらいかもしれませんが💦収穫まではあともう少しかなあ。 

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ちなみに、秋まき小麦とは9月中旬頃に種をまき、翌年の夏に収穫する小麦です。代表的な品種に「きたほなみ」や「キタノカオリ」があります。
4月頃に種をまき、8月上旬頃から収穫される小麦が春まき小麦。「春よ恋」や「ハルユタカ」は、パン作りをされる方にとっては馴染みのある品種かもしれません。 
                                                                     〜『北海道をかし菓伝』外伝 その6〜



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