アイコンが性能を上回る
2019.10.28渋谷CLUB QUATTROで行われたライブレポートが一部ある。
ネタばれしたくない人は読まないことを推奨する。
「わぁ……やったぁ……」
アンコールで、本編では使わなかったギターを手に持った瞬間に、
周囲が湧いた。
ギターに詳しい観客は多くなかったと思う。
だからこそ不思議な光景だった。
「あのギターを弾くんだ!」
という興味が湧くのは、ギター経験者や詳しい人のはずだ。
だが、そうではないであろう層の人たちも湧く。
それはそのアーティストを象徴する1本だからだ。
その青いオベーションがアイコンとなっているのは、
崎山蒼志
昨年の春頃にSNSをきっかけにブレイクした高校生シンガーソングライター。
私もSNSで見てすっかり虜になった1人だ。一瞬で落ちた。
見た目・歌詞・歌声・ギターのテクニックのバランスが絶妙だった。
正直、音楽をやっていなさそうな見た目。図書館で1人で読書をしていそうな。
それに反したギターのテクニックが凄かった。
所謂、教則本の最初のページに載っているようなコードの押さえ方をしない。
そして鬼気迫る性急な右手のカッティング、思春期から溢れてくる焦燥感・不安・衝動を疾走感を言語化し、少し歪な歌声に乗せる。
意味のない僕らの 救えないほどの傷から
泪のあとから 悪い言葉で震える
黒くて静かな 何気ない会話に 刺されて今は痛いよ
あなたが針に見えてしまって
楽器経験があろうがなかろうが、
「なんかすごい」
と思わせるアーティストだ。
話を冒頭のギターの話に戻そう。
崎山君が使っているギターといえば、青いオベーションだった。
音源のジャケットや様々な写真に載っているギターだ。
動画サイトで「崎山蒼志」と調べれば、過去の映像がたくさん出てこのギターで弾き語っている。
このイメージはとても強かった。
しかし、最近使っているのはこのギターではない。同じメーカーではあるが種類が少し違う。
色違いの同じようなギターでしょうとお思いだろうが、
音が全然違う。
端的に言えば、この茶色いギターの方はパワーが凄い。
まず、低音の鳴り方が比にならないくらい前に押し寄せてくる。
低音の波が会場全体を包み込んで世界観を作る。
そこに煌びやかな高音が一本一本はっきり鳴る。
この茶色いギターを使うようになって、明らかに低音フレーズをガンガン弾くようになり、衝動的で疾走感がある演奏に迫力がより出るようになった。
以前の青いギターで弾いていた曲に対し、演奏のアプローチが変わった。
そして新しい茶色いギターを弾き倒している姿がとても楽しそうだった。
笑顔で弾くことはないが、夢中になって弾いていることがよくわかる。
好みに個人差はあるが、素人目に見聴きしても性能が良いギターだとわかる。
どんどん活躍して、様々な会場でやっていくうえで素晴らしいギターだ。
この茶色いギターを使っての演奏は、ライブ本編でずっと使われた。(たまにエレキにも変えたが)
ステージ上に以前よく使っていた青いギターがありながら、使われないことから"なにかアクシデントがあった時の保険"なのかと見ていたが、
アンコールで使われた。
そして、会場がどよめいた。
アイコンが性能を上回った瞬間だった。
青いギターも決して悪くない。
むしろ、高音が目立つフレーズが多い曲(今回でいうと『ソフト』という曲)だったら、このギターが良い。
でも、茶色いギターでも出来ないわけではない。
他の曲同様に、アプローチを変えて演奏してくれるかもしれない。
楽しみを増やしてくれる。
それでも、観客は青いギターで弾く姿を待ち望んでいた。
静岡県浜松市に住んでいる高校生が、今目の前にいる。
ずっと会いたかった。映像だけで見ていていた存在。
それはギターも含めて。
そんな思いが溢れていた瞬間だった。
CD代、ライブ代からのレポ費用にします。今のところ。