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ガイアナのラム酒の蒸留所/蒸留器の識別方法について

ガイアナ共和国は、南アメリカ大陸にあるラム酒の一大産地で、デメララ川の周辺で歴史的にサトウキビがたくさん栽培され、1908年には44ものラム酒の蒸留所が稼働していました。

お菓子が好きな方は、少し粗めのデメララシュガー(Demerara Sugar)をご存じの方がいるかもしれませんが、このデメララシュガーの名前は、もともとはこのガイアナのデメララ川周辺で作られたサトウキビが原料となっていたのが由来となっています。

さて、一時は44にものぼっていたガイアナのラム酒の蒸留所ですが、いろいろな事情により蒸留所が閉鎖あるいは統合されて、1998年には1つになりました。その時に蒸留器は取り壊されたり移設されたり、また統合された蒸留所が再度統合されたりしました。

ラム酒にとって蒸留器はクリティカルな要素で、同じ原材料を使っていても蒸留器によって香りや味が全然変わってくるため、どの蒸留器で作られたものかを特定することがとても大切です。そうしないと、たとえば "Enmore" と表記されたラム酒を飲んでおいしいなと思った方が、別の"Enmore"のボトルを飲んでみても「思った味じゃなかった」ということになりかねません。


蒸留所と蒸留器の対応

ガイアナの蒸留所と蒸留器の変遷は非常に複雑な一方、それについてわかりやすく記載されているサイトは無いように思いますので、ガイアナの蒸留所の統合の歴史や表記と蒸留器の対応などについて以下にご説明していきます。

いまでは1960年代以前の蒸留のラム酒を見かけることはほとんどないので、1970年以降も稼働していたものに絞ると、下の4つです。

  • Versailles(ヴェルサイユ、~1978年)

  • Enmore (エンモア、~1994年)

  • Uitvlugt(ウィットブルク、本来は"eye-flot"と発音、~1999年)

  • Diamond(ダイアモンド、稼働中)

蒸留所と蒸留器の対応は下図のとおり。左のフローの()内は表記される記号と、蒸留器のタイプ(ポットスチルかコラムスチルか)を記載しました(タイプは、さらに色分け)。
また、Port Mourantは1950年代に閉鎖していますが、その蒸留器がUitvlugt蒸留所に1968年に移設され、さらに2000年にDiamond蒸留所に移設されて以来、いまも現役で稼働しているため、図に追加しています。

ガイアナの蒸留所と蒸留器の変遷(青はPot Still、黄色はColumn Still)

この図を見ていただくと、たとえば下の画像のように"1997 Enmore"と書いてあるラム酒であれば、Uitvlugt(ウィットブルク、またはアイフロット)蒸留所時代のEnmore蒸留器で蒸留されたものであることが分かります。

Rum Nation Enmore 1997-2016

また、こちらは"MPM from Diamond Distillery 2003"という文字列を含んでいるので、2000年のDiamond蒸留所への移設後のPort Mourantで蒸留されたことが分かります。

Cadenhead MPM 2003-2017

下の画像は少し複雑なパターン。"Disitilled in 1989"、"Uitvlugt Distillery"とありますが、当時のUitvlugt蒸留所にはPort MourantとFrench Savalleの二つの蒸留器があったので、どちらの蒸留器が使われていたか、一見判別ができません。ただ、よく見ると"Style: Pot"と表記されていて、French SavalleはColumn Stillで、Pot StillはPort Mourantのみなので、これはPort Mourantの蒸留器で蒸留されていたことが分かります。

Duncan Taylor Uitvlugt 1989-2011

また、下の画像のラムのラベルには"Disitilled in 1990"、"Enmore Distillery"と書いてあってEnmore 蒸留所で蒸留されたものであることはわかりますが、蒸留器がEnmoreなのかVersaillesなのか、一見でははっきりしません。ただこちらも、"Style: Pot"という表記から、Versaillesで蒸留されたものであることが分かります。

Duncan Taylor Enmore 1990-2017

各蒸留器と蒸留されたラム酒の特徴(概要)

これで、一定の情報があれば、蒸留所と蒸留器の識別ができるようになったかと思いますので、あとは余談まで、各蒸留器や、各蒸留器で蒸留されたラム酒の特徴を簡単に記載して終わろうと思います(実際には熟成方法などの要素によって大きく変わりますので、あくまでも大まかな特徴のみ)。

  1. Port Mourant(ポートモーラント, PM):Double wooden pot still. 1732年に作られた蒸留器。"PM"と記載されたものはこの蒸留器で作られたラム酒です。チェリーやリンゴなどのフルーティーさと、なめし皮や草、土などのEarthyなのが特徴。

  2. Versailles(ヴェルサイユ, VSG):Single wooden pot still. 1890年ごろより稼働している蒸留器。グレープフルーツなどの柑橘、鉛筆の芯、あとは花の蜜のような甘味が特徴。KFM,REVと表記されることも。

  3. Enmore(エンモア, EHP):Double wooden columns Coffey still. 1880年ごろより稼働。プルーンやレーズンなどのドライフルーツや赤い果物、クローブやリコリスなどのスパイシーさが特徴。

  4. French Savalle(フレンチ サヴィユ, SWRなど):Four columns still. 1921年ごろより稼働。特徴は私はわからず。

  5. Diamond(ダイアモンド、SVWなど。複数あり):もともとDiamondに会った蒸留器は、全体で5つくらいあるようです。ただ、2000年以前のDiamondはあまり見かけたことがなく、2000年以降は他の蒸留器と混在していることが多いのでDiamond自体の特徴は私はわからず。

この記事は以上ですが、次もまたラム酒のお話を書けたらと思っています。

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