いい広告って何でしょうか_

「いい広告」って何なんだ?

という、壮大な問いについて考えていきたいと思います。


なぜ、こんなことを言い出したのか

ぼくは広告代理店の内側の人間なわけですが、だからこそ、常々感じることがあります。

社内にしろ、広告業界内にしろ、「何を目的に広告を作るのか」という認識がバラバラじゃないか? ということです。

会社のお偉いさんは、会社の売上目標を達成するために「受注できてクレームにならない広告」を目指します。(要するに「置きにいった広告」ですね)

あるクリエイターは、広告賞をとれるような「アイデアあふれる魅力的な広告」を目指します。

別のクリエイターは、世の中の人を楽しませたり社会課題を解決するような、「世の中を明るくする広告」を目指します。

…どうも、統一感がないですね。こういう状況で打ち合わせをすると、最大公約数的にみんなが納得するのは「置きにいった広告」になるんですよね。
意外とそれでも受注できちゃったりします。で、的外れな方法ではないので商品は「そこそこ」売れる、という結果になります。


この状況、どう思いますか?

無責任じゃないですか?  広告のプロを名乗るなら商品をヒットさせるために尽力すべきでしょ。

できる限りたくさんの人が、広告に触れて「買いたい」と思ってくれること。もしそれが難しくても、少なくとも広告が「買いたい」という考えに至るプロセスのパーツになっていること。これがキモだと思うんです。

…と、熱く語ってみたものの、まだフワッとしてますね。

仮に「買いたい」と思ってもらうことをゴールに定めたとして、企画を作り始められるか。難しいですよね。


もう少し整理してみましょう

「買いたい」と思ってもらう、というのは、言い換えれば

「買いたいと思っていない」状態から「買いたいと思っている」状態にシフトさせる、といことです。

そのためには、世の中の人の認識(考え方)を変えないといけないんですよね。

世の中の人が、すでに分かっていることを伝えても無意味なわけです。

人の認識を変えるにはどうすればいいのか。方法は2つだけです。


人の認識を変える2つの方法

新事実を伝える
新しい見方(切り口)を伝える

この2つです。順番に解説していきます。


①新事実を伝える

相手が知らないことを伝える方法です。

・新発売の商品について告知する
・セールの開催を伝える
・世に知られていない詳細機能やオプションサービスを伝える
・商品が必要になるような危機の存在を知らせる(社会情勢、病気の流行など)

ターゲットがまだ知らなくて、かつ商品を買う理由になる情報を提供すれば、それが商品を買いたくなるようなきっかけになる。当たり前ですが有効ですよね。

もちろん、他社製品と同じような機能であったり、同じような価格を紹介したとしても、買う理由としては弱い。(たまたま他社製品を知らない人が買ってくれる可能性はありますが、ヒットは狙えないですよね)

「買う理由になる情報」というところが大事なんです。

ただし、①の方法が使えるケースは限定的です。

新商品を発売する予定もない、セールの予定もない、知られていない機能やサービスもない、危機も見つからない、でも、商品は売りたい。

こんな状況のほうが、むしろザラです。

そんなときこそ、②の方法の出番なのです。


②新しい見方(切り口)を伝える

新事実を見せつけるのではなく、すでにある事実の新しい見方を伝えるのです。

ちょっと分かりやすい事例をば。


ブラックサンダー 一目で義理とわかるチョコ

バレンタインという、チョコレートメーカーがシノギを削って売上の奪い合いを繰り広げる大イベント。しかし、ブラックサンダーは1個30円の超コスパ重視商品。こんなもの、人にあげたら失礼でしょ、というのが世の中の認識であり、メーカーである有楽成果は指をくわえてバレンタインを見守ることしかできませんでした。

しかし一方で、世の女性たちは思っていたのです。「社交辞令でも、周りの人にはチョコをあげておかないといけない。でも、あんまり気合の入りすぎたチョコを渡して、勘違いされちゃったらどうしよう…」と――。
(これが「インサイト」ってやつですね)

そこに突き刺さるコピー、「一目で義理とわかるチョコ」。

そうか、これなら勘違いされない!

ブラックサンダーは、一躍バレンタインデーを彩る大人気商品になったわけです。めでたしめでたし。

***

ブラックサンダーが伝えたのは、新しい事実ではなく、新しいものの見方です。

「そうか、確かにこの商品があれば悩みが解決する」

こう思ってもらえるような、商品特性と世の中のニーズとの接点を見つけ出す

難易度は非常に高いですが、これができれば商品のヒットが狙えます。


無責任な広告づくりは避けたいですね

以上、人の認識を変えることで商品をヒットさせるための2つの方法を紹介してきました。

逆に、商品に世の中の人の認識が変わらなければ広告として機能していないと言えるわけです。

「商品は売れなかったけど、世の中を楽しませたから、感動させたから、いい広告です」という考えは無責任というか、だったら媒体費も制作費も受け取らずに作るべきじゃんね、と思ってしまうのです。


補足:「おもしろいだけ」の広告に価値はあるのか?

ちょこっと補足ですが、一見しておもしろいだけで「新事実」も「新しい見方」も伝えていない広告でも、きちんと機能しているケースがありそうです。


ケースA:商品のビジュアルがそのまま「買う理由」になる

どんなときも。 song by 松岡茉優

松岡茉優演じる、失恋から立ち直る女の子が主人公のミュージックビデオ風動画。

映像に面白さを出しつつアパレル商品を多数登場させています。

従来の広告が比較的平凡なものであれば、おもしろい広告を打つことで広告に注目する機会を生み出せば、新しく商品を発見する機会になるので「①新事実を伝える」に該当しますね。

アパレル商品など、商品の見た目自体が買う理由になる場合のみ、利用できる方法ですね。


ケースB:商品が安価でどこでも手軽に買える

さけるグミ vs ながーいさけるグミ

さけるグミとながーいさけるグミ。いずれもコンビニで100円で買える商品です。

広告の中では商品を買うべき理由を一切提示していませんが、問題なし。こういった商品は、広告がおもしろければ返報性がはたらきます。

返報性とは、心理学用語で「何らかの施しを受けた場合に、お返しをしなければならないという感情」のことです。

「この程度の商品なら面白い広告が見られたお礼に一度くらい買ってみてもいいかな」という心理がはたらき、おもしろさ自体が「買う理由」になるわけですね。

これが、高額な商品だったり買うのに手間がかかる商品だったりすると、広告が面白いだけではハードルを越えられないので、しっかりと「買う理由」を提示してあげる必要があります。

日清食品の広告が「おもしろさ」を追求するのも、この理由からでしょうね。


ケースC:情報を伝えるための布石としてまず広告に興味をもってもらう

あたらしい英雄 三太郎物語

言わずと知れた携帯キャリアのCMです。

導入として広告シリーズに興味をもってもらった上で、シリーズのフォーマットに乗せてキャリアの魅力を紹介する形式。

競合他社もほぼ同様の表現を踏襲していますね。

新事実や新しい見方を伝えるにあたり、まず興味をもってもらう必要があるからこそ、はじめは商品の説明をせず「おもしろい」と思ってもらうことだけを目指すわけです。

長期的にシリーズ展開できるだけの広告予算がある場合のみ使える方法ですね。


以上、「おもしろいだけ」に見えても広告としてきちんと機能するケースを紹介しました。

いずれのケースも商材特性や広告予算の規模に制約条件があるので、安易に他の商材で真似をしようとしないように注意が必要です。

たとえば、マンションを売りたいのに「カレーメシみたいな広告を作りたい」なんて考えてしまうと、痛い目を見ることになりそうです。

まとめ

広告を作る上で、「いい広告とはなにか」を共通認識として持っておかないと、異論が出にくい「置きにいった」広告ができあがってしまいます。

そんな状況を回避するために、この記事では「商品をヒットさせる広告」を作るべきであり、そのためには商品に関する「新事実」または「新しい見方」を伝えることで「買う理由」を生み出そう、というお話をしました。

日々悩みながら広告の現場で戦うみなさまの参考になれば嬉しいです。

それではまた次の記事で!

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