鋭利な鉄塔にはぐるりと非常階段がついている。 長いこと上を目指してのぼっているからわたしは手すりにつかまり半分くらい体重を預けた。空気を泳いでいたのは埃だったのだろうか。こうやって煤になり、わたしの開いた手相をあらわにする。墨汁くらいでしかここまで黒くなることはなかった。だから、どれだけ眺めていても飽きがこなかった。それくらい疲れていて、急ぐ必要もなかったし、空を仰げば深い藍色の空に包まれていて、ここまで遠いところに来たのだから追手の心配もないだろうと思っていた。 休憩
わたしというやつは昔から癇癪持ちだったそうで、よく癇癪をおこすから、かんきり寺に連れて行こうか迷ったほどだと母親は言っていました。わたしは疳の虫に寄生されているそうなのです。 一凜は森の中にあるお屋敷に帰ると、自分の部屋の本棚から『虫』と背表紙に書かれた一冊の図鑑を取り出します。蟻、蜘蛛、触手うにょうにょ、ヤゴ、アマガエル、げじげじ……。ページを繰れど繰れど、疳の虫は見つかりません。どうやらこの地に疳の虫が出現した記録は残っていないようです。うーんと机に図鑑を置くと一凜
地球にも日本にも宇宙にもいません。窓の外を眺めると、別世界が広がっています。わたしというやつはアルバイトの面接に行くそうです。一凜はカラスさんの歩く時の跳ねる動作を真似して一羽のカラスさんとものまねのし合いをしています。カラスさんは一凜が招き入れました。カラスさんはごみをあさるカラスでも公園で餌付けされているカラスでもびっこを引いているカラスでもありません。唯一無二のカラスさんです。カラスさんの性別はどちらだったのかいまだに分かりません。幼いわたしが動物園の野原でよだれを垂