飲み物をちょっとこぼしたときに今着ているエアリズムの下着で拭いて、速乾性だから大丈夫！とドヤ顔をしている。こういうところが好きなんだよなとしみじみ思う。シャワーを浴びて濡れたまま抱きついたってあなたは気にしない。

転勤が決まったとき、気弱なあなたは私に「ついてきてほしい」とも「結婚してほしい」とも言えなかった。
私は察してあげないし、あなたの思い通りにはならない。少しだって譲歩するのが癪だからだ。でももっと話し合いが必要だったとは思う。言葉足らずでごめんと謝ってくれたけど、わざとじゃないことも私に我慢させようなんてつもりが少しもなかったことも分かっている。分かった上であなたが何も言わなかったひと月で私はこじらせてしまった。あんまり気が回らなくて、良かれと思ってやったことが割と裏目に出がちなひとだ。

私と一緒にいるとゆるされているような気がすると言ってくれたね。ゆるされている、その感覚が私にもよくわかる。私たちは互いをゆるし合っていたし、少なくとも私は、あなたの情けないところをゆるすことで救われていたと思う。あなたは私に対して不満に思ったことは一度もないと言ってくれたけど、私が完璧だったわけではなくて、あなたのおおらかさが、私が大暴れできる範囲を超えて広大だったのではないだろうか。

半端に残ったペットボトルを床に転がしてごめんね、食卓に化粧品を置きっぱなしにしてごめんね、歩きながら飲んだせいでシーツに紅茶をこぼしてごめんね、あの部屋での雑な暮らしが好きだったの、一度だって私に怒らなかったね。

6/13、冷蔵庫でスイカが冷えてるけど食べる？と聞いたらあっさり部屋に上がってたくさん食べてくれた。緊張して言葉を選んでくれたせいで会話のテンポがおかしくなってて面白かった。
6/20、初めてあなたの家に行った。通り道に咲いていた梔子が良い香りだった。
7/6、台所で梨をむいていたら、うしろから抱いてお腹に手を当ててくれた。温めたら生理痛が楽になると思ったらしい。
8/7、帰省したあなたに今日はご馳走かなってLINEしたら「かりんさんにもわけたげたかごはんやった」とお返事。
9/3、たくさん料理した後にキッチンが暑くてのぼせたって言ったら、水で手を冷やして額に当ててくれた。
9/25、お腹を蚊に刺されたと報告したら「うぅ…守れなかった」と残念がっていた。
10/26、一緒に期日前投票に行ってくれた。そのあと博多駅のカフェで二人の関係を聞かれた時にすぐに答えずに「話のネタとして消費するつもりないから答えるかどうかは任せる」と言ってくれた。
12/13、佐賀の私の実家へ。トムちゃん(猫)触らなくていいの？と聞いたら「相手が許してくれるなら」と。甥っ子たちにも優しくしてくれて嬉しかった。
1/14、朝から鼻血を出してしまって朝ごはん作りに取りかかれなかった。熊本出張に行く電車を遅らせて一緒にいてくれた。
4/10、マリンワールドでデート。アザラシのお腹を見て「おへそがある！」と言ってて可愛かった。

一緒にいるとだんだん当たり前になってしまうけれど、毎日丁寧に歯磨きして虫歯が一本もないところも、プリンの蓋をこそいで食べちゃうところも、愛おしい。私が熱を出した時も包丁で手を切った時も落ち着いて対処してくれたし、ナンを右手だけでちぎって食べられるところまでなんだか頼もしい。女性としては大きめな私を抱きしめては「細い…ちっちゃい…」と言ってくれる。大きな手で撫でてくれる、触り方が優しくて気持ち良い。

一緒にいる間、あなたは私から何も奪わなかった。尊厳を少しも傷つけなかった。私はこれからも何も奪われないし傷つかない。

かわいいひとよ。幸せになるべきひとよ。

あなたより早く起きて朝ごはんを用意する日々が、遅い帰りを待つのにうんざりする日々がなつかしくなるたびに、いつもみたいに膝に飛び乗って、お風呂上がりのびしょびしょの髪であなたの胸を濡らすよ。