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演劇の解釈を語り合うポストトークとコンテンツの反芻

プラータナーという岡田利規さんの演劇を見た。4時間、タイ語。ポスターからして難解である。


観た後、観た人同士で語り合う「あなたのポストトーク」に参加したが、これが想像以上に面白かった。

まず演劇をグラフィックレコーディングしたもの(4時間なので巻物級)を見ながら、数人ひと組でどのシーンが印象的かを共有し合う。好きな登場人物を語る人、岡田作品の傾向からの視点でこの作品を観ている人、特定の場面について深掘りする人。自分にない視点がたくさん出てくる。そして誰しも解釈が深い。

そのあと別の人でグループ作って、聴き手、話し手、メモ係に分かれて語る。主催視点で語る人、ストーリーについて語る人、タイ語、字幕、そして舞台、語り、とにかく色々抽象的なものも多く慣れない作品と4時間向き合って自身が見慣れていくまでの過程について掘り下げる人、本当に色々だった。そしてそれらのどれにもハッとさせられる。

深い、というか解釈が多様たりうる作品は、きっと受け取り方のアンサーがない。作品が観客に届いた時点で、それはもう観客自身の所有物なのだ。同じものを見ているのに見えているものが違う。

今日は一応ファシリテーターとしてこのトークに参加していて、そのちょっと前に岡田利規さんと軽く挨拶(本当に挨拶だけ)する機会があって、一言くらい観た感想を言いたかったのだけど、何も言えなかった。

一言で何が言える?

例えば、「すごくよかったです!」

岡田さんは朗らかそうな方だったのできっと笑顔で「ありがとう」と返してくださるんじゃないかと思うけど、いやいやいや素人が一回見ただけであれ良かったとか簡単に言われたくねえ!私が岡田さんだったら心の中で苦笑いするだろう。

私は正直この作品思った以上に集中して見れたしストーリーにのめり込んだし自分への気づきが沢山あったにで、心から観る機会があってよかったと思ったけど、きっと原作を読めば見え方変わる。2回目を観ればまた新たな発見がある。私は宝塚が好きで同じ公演を何度も見ることに抵抗ない勢なのだが、しかし多くの人は演劇を何度も観に行かない。岡田利規さんは、一回しか観ない観客に何を感じさせたいのだろう。しかし仮に岡田さんに明快な意図があったとしても、この作品を観て100人中100人が共通のメッセージを受け取ることはあり得ないはずだ。そしてきっと岡田さん自身も、そして周りの企画者もみんな分かっている。

だからこのポストトークは意味がある。

家に帰ったあと、録画で大河ドラマのいだてんを観た。観たあとはいつも、ツイッターでいだてんを検索して、自分にはなかった解釈や言語化できない自分の気持ちを代弁するツイートを探していいねしたりリツイートしたりする。そしてまた再生し直し、最初に気付かなかったポイントの答え合わせをする。

そうこうしていると、飛騨の知人たちから「君の名は。」を放送していると連絡があったので見始める。またツイッターを追っていると、声を担当した神木くん達がライブでエピソードトークしている。そして過去のネタバレ解釈系ブログも拡散されている。なになに?二人が糸守で出会うシーンの台本渡されたときさっぱり理解できなかった?おばあちゃんも組紐を髪につけてて、組紐を身につけると身体入れ替わるスキル発動する?

解釈を通して見るコンテンツは本当に新鮮な発見があり、それはただのリピート再生ではない。新たなコンテンツの誕生である。

解釈の余地の多い、言い換えると多面的な軸で描かれたコンテンツは、一回観ただけで全て解釈し満足できるものでない。だからこそ観客は反芻を楽しむことができる。

ここまで書いてみると、ポストトークはある意味ツイッター的な世界だったのかもしれない。共感、新たな発見、自分と他者との解釈の違いを、自分の発言と他者の発言とを通して見つける。そして再び作品そのものに立ち返りたいという気持ちを喚起する。

最近のマーケティングの世界では、広告宣伝ではなく「良いものを真摯に作り提供する」ことが大事だと語られているらしい。映画も飲食も、良いものを作れば誰かが良いと言ってくれる。そしてその感想は共有され、新しい誰かが消費し、感動が伝播していく。きっと、なんでも共有される今の日本での一つの答えなんだろうと思う。

私はコンテンツ消費者の立場として、これからもこういう真摯で、そして解釈を自由に楽しめる作品に積極的に出会っていきたい。そして私もそういう広がりのある世界を増やすことにコミットしたい。

ああ、思い出した。私はずっと変わっていない。いつもリフレーミングを求め続けているのだ。旅に行くのも、知識を得るのも、前衛演劇を見るのも全てがこのモチベーションだったのだ。

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