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怪しい世界の住人〈龍神〉第三話「龍の昇天物語」

❼「青池の龍」

 江戸時代に書かれた『孔雀楼くじゃくおう筆記ひっき』の中に、龍を見て不思議な鱗を見つけた記載がありました。享保きょうほう庚戌かのえいぬのこととありますので、江戸時代中期・西暦1730年のことになります。その年の七月の出来事です。

——享保庚戌の七月頃、予〈清田〉は母氏に従って明石に赴く。城下の半里余り西に森田村がある。西国往復のために大きな街道があり、そこを行くと森田村の近所・右手の方向に〈青池〉と言う池があった。さほど大きな池ではないが、五十余年、水が涸れたことはないと言う。
 その年の八月、森田の村民が晩に畑より帰り青池で鍬を洗っていると、一尺余の蛇が出た。池より出て鍬の柄に登ったので、払い落とすこと、二、三度。また登る。
 時に、鍬を取りなおし、柄で蛇の頭を打つと、蛇は飛び池に入った。何やら恐ろしげであるので、足速あしばやに立ち帰った。
 すると、突然、疾風が吹き、黒雲が空を覆い、激しい雨雷となった。その時である、池中から龍が現れ、激しい風は森田村の農家の建物十三家屋を雲中に巻き上げ、二里余り西の海近い東嶋・西嶋村の辺りに散り落とした。この夜、城下も雷雨が激しかった。
 予の叔父の老舅しゅうと・家老の間宮氏屋敷と、その隣り木崎家屋敷との間に一本の大きな松があった。雷はこの松を直撃した。その時、間宮家の仕える下働きの女があまりに激しい雷に驚き、倒れて気絶した。
 翌日、かの青池の辺りで、村民が龍のうろこを拾ったと言う。
 予も間宮氏宅にてこれを見た。鱗は六、七枚連っていた。ひとつの鱗の大きさは一寸ばかりあり、八角形で色は水色、鱗は甚だ薄かった。六、七枚が幾くえにも重ること、ヒラタケ・シメジなどの重っているような雰囲気であった。果たしてこれが本当に龍の鱗なのか、それとも別な物であるのか、予には判別がつかなかった。
 この時、著者には本物かどうかは分からないと言っていますが、見たことのない物であったのは事実のようです。何かの偽物を見せられて誤魔化すこともないので、正体不明の鱗を見たと言うことでしょう。いずれにしても龍が目撃された場所から怪しい鱗が発見されたことに変わりはありません。

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