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播磨陰陽師の独り言・第433話「藪入りから亡者の宿下り」

 正月十四日から〈薮入やぶいり〉に入ります。薮入りとは、冬のお盆のような行事のことです。十四日から十六日が〈藪入り〉と呼ばれる時期になります。地方によっては十六日のみの場合もあります。
 十五日の朝には小豆粥を食べる風習がありました。かつてはこの日までを松の内と呼びましたが、江戸時代に一月七日までと定められ、松の内は早めになりました。しかし、この風習は関東にしか残りませんでした。江戸幕府が言うことは関西では広まりづらいようです。
 昔はこの日に、元服の儀式を行なっていました。元服すると大人になる訳です。そのことから、一月十五日を〈成人の日〉としたのです。
 十六日は亡者の宿下がり。大斎日だいさいにちとも呼ばれています。
 人は、死んだ後に霊界の役職を与えられることがあります。彼らは〈異人〉や〈神仙〉と呼ばれ、霊界の仕事をするため、あの世に行ったきり帰って来ません。
 役職のない一般の亡者は〈休仙きゅうせん〉や〈朴仙ぼくせん〉と呼ばれる祖霊の一種になります。
 休仙や朴仙となった霊たちは、大斎日にこの世に帰ってきて、子孫のまわりを漂うそうです。
 ちなみに、休仙と朴仙では、休仙の方が身分は上です。朴仙は霊界で修行してもそのままですが、休仙の身分で修行すると、もう少し上の身分になれます。
 われわれ修行する者は、死後の世界でせめて休仙になろうと努力します。
 最近、亡くなって昨年のお盆に帰って来た友人の霊は、
「休仙がやっとやで。なかなか難しいもんやな」
 と言って笑っていました。
 大斎日は〈初閻魔〉や〈十王詣り〉とも呼ばれる閻魔さんの祭日で、ご開帳や護摩焚き法要などが行われます。昔は商家の奉公人は藪入りで休みでしたので、閻魔堂にお参りした後、芝居を見物など楽しむ人々で賑わいました。
 この日は年に二度ある地獄の休日のひとつですが、近年は一月の方は忘れられつつあるようです。
 一月十六日と七月十六日は〈地獄の非番の日〉と呼ばれ、地獄の釜のふたけられるそうです。休日なので、亡者たちも鬼の居ぬ間に洗濯が出来る訳です。
 蓋がひらくと祖霊が帰って来ます。祖霊ばかりではなく、地獄に逝った悪い霊たちも現世をウロウロします。冬に幽霊は出ない気もしますが、この時期は割と目撃されます。幽霊は夏に限った現象ではないのです。もちろん夏の方が多いですが……。

 今夜も九時からクラブハウスで音声配信と質問コーナーがあります。
 次回からは毎週火曜日夜九時の配信になります。朗読とそれに続く質問コーナーは『陰陽師の嫁/W&M Club』で聞くことが出来ます。もちろん参加して質問することも出来ます。お楽しみに……。

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