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「楊州周延-明治を描き尽くした浮世絵師」(町田市立国際版画美術館)

 戊辰戦争時代は「神木隊」を結成して新政府軍と交戦、重傷を追った経験があり、そして明治以降は浮世絵師として、新版画が登場するまでの過渡期を支えた男、楊州周延(本名、橋本直義)。

 周延の師匠に粗相をした河鍋暁斎に刀を抜いたというエピソードもあるなど、そのマインドは非常に武士的。しかし戦争画を描いても血みどろ絵・無残絵を描かないなど、暴力を残酷性に結びつけない独特の倫理観を感じるのも確かです。「明治を描き尽くした」のは事実だと思いますが、(浮世絵として伝統的な)種本の存在が指摘され、また明治天皇に関する歴史画など、彼が実物を観たと思えない題材もあり、そういう手法で描かれる作品は"実は"多分に主観的で、そして個性的にも映ります。コンセプトだけで言えば、山口晃との共通点も感じます。

 こうした高潔な武士のマインドが美人画と相性が良かったのは(一見真逆なようでも)おそらく自然な流れで、造形のみならず、その色彩や構図も光っています。蛍光色のような水色やピンクをこうも効果的に使えるのはおそらく周延ぐらいですし、時に平行的、時に三角構図と、構図に対する意識、また対比を意識した描き方も光ります。しかしそれ以上に特徴的なのは、寸分の狂いも観られない丁寧すぎる仕事ぶりかもしれません。今回のコレクションが優秀なのか、後期になるに連れ、作品が非常に洗練されていく印象を持ちました。

 自画像・肖像画・写真の類は一切なく、橋本直義として《長州征討行軍図》という、並び順の絵記録を残しているのですが、自分のみを背中向きにし、顔を描かないようにするほどの徹底ぶり。浮世絵師として明らかに異色の存在、そしてスタンスを持ちつつ、あくまで「画工」としての良質な仕事に徹する姿が印象的でした。巡回は難しそうですけど、一人でも多く、周延の魅力が伝われば良いなぁと思ったり。

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