かろ / Tomohiko Kato

Instagramにて美術展の感想文を書いてます。一般の大学経済学部卒業後、芸大通信部…

かろ / Tomohiko Kato

Instagramにて美術展の感想文を書いてます。一般の大学経済学部卒業後、芸大通信部卒業(アートライティング)、学芸員資格取得(2024-)。

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「マティス 自由なフォルム」(国立新美術館)

2023年春にも東京都美術館で開催されたマティス展。コロナ禍による延期の影響で、ちょっと珍しい2年連続開催となりました。なお、前回はポンピドゥー・センター、今回はマティス美術館のコレクションが中心となっており、主催も異なる別個の展覧会です。   前回も前回で面白かったんですが、マティスの集大成と言える《ロザリオ礼拝堂》が映像展示で、レプリカ等による再現が無かったことに「無いのか…」と思ってしまったことも事実。もちろん展示として思いついたとしても、敷地スペースや美術館としての設

    • 【画像11枚】「法然と極楽浄土」(東京国立博物館)

       法然は平安末期から鎌倉初期にかけて活動した浄土宗の開祖。ざっくり言えば「南無阿弥陀仏」と念仏を唱え続けることで、極楽浄土に往生できると法然は説きました。密教などと比べると簡略化された印象もありますが(弟子の中にも、都合良く拡大解釈する向きもあったようです)、その背景には末法の世の中、そしてより多くの人々を救いたいと考えた法然の考え方があります。  ちなみに法然は地方武家の子で、夜襲により父を亡くしているのですが、それでも父は「敵を恨むな」と告げたとのこと。親子二代にわたる慈

      • 【画像15枚】李晶玉個展「アナロジー:三つのくにづくりについて」(N&A Art SITE)

         昨年川越で開催していた「神話#2」(NANAWATA)の延長とのこと。私がコロナ感染したりして、「神話#2」の展示を観ていなくて色々アレですが、日本・韓国・北朝鮮にまつわる建国神話を取り扱った内容だったかと伺っております。今回もその時の作品が展示されている様子。  一つの国につき、併置されるのは三つの作品。日本を例にとると、最初に展示されるのは鉛筆画による天岩戸。次に、少し大きめのカンバスに国に因んだ女性の全身像(モデルは作者自身)が描かれ、背景は先ほどの天岩戸を拡大・彩

        • 【画像6枚+α】「ライトアップ木島櫻谷」(泉屋博古館東京)

           三つあるうちの、最初の展示室1がとにかく美しい。  そこには5点ほどの屏風と水墨画掛軸(今尾景年《深山懸瀑図》)、写真撮影に関するパネル、あとはベンチが2つあるのみですが、そのベンチに座って、この後の作品や予定も一旦かなぐり捨て、腰を据えて長居したくなるような雰囲気があります。強いて言うならベンチをもう少し入口近くに置き、5点の屏風を眼中に収められる位置にしてほしかったぐらい、完成度の高い展示室でした。  そんな感じでベンチに座ってぼんやり眺めているだけでも十分楽しいので

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        「マティス 自由なフォルム」(国立新美術館)

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          「浮世絵の別嬪さん - 歌麿、北斎が描いた春画とともに」(大倉集古館)

           タイトルにはありませんが、今回は肉筆オンリーの展覧会。個人的に版画のほうはたくさん観る機会があるのですが、肉筆のみの展覧会というのは地味に初めてかもしれません。春画の展示は3フロアあるうちの、地下1階のみ。中学生以下(入場無料)は地下1階はご遠慮を、ということでしたが、春画無しでも十二分に楽しめる展覧会です。  通常の浮世絵(多色多摺の錦絵)は版元が企画を立案し、それをもとに絵師が絵を書き、彫師がそれを彫り、摺師がプリントをして完成するもの。それはそれで素晴らしいのですが

          「浮世絵の別嬪さん - 歌麿、北斎が描いた春画とともに」(大倉集古館)

          美術好きになることと、音楽の趣味が多少変わることについて。

           美術鑑賞の際、耳栓代わりにイヤホンをすることはあるけど、基本的に音楽は全く聴かない。大したポリシーがあるわけじゃなくて、単に私の場合、感想文用のメモをしたり頭の中で言葉がぐるぐるしていたりして、そのうち音楽が邪魔くさくなって…というのが実情だ。  音声ガイドは美術鑑賞に変化が欲しいときに使うが(たとえば過去に複数回鑑賞したことがある画家の展覧会など)、初見では基本的に使わない。  年齢的なこともあるのか、音楽を聴きながら書き物というのもあまりできなくなった。ラジオもほぼダ

          美術好きになることと、音楽の趣味が多少変わることについて。

          99人のため、1人のため

           気がついたら4年半ほど、Instagramで続けている「美術展の感想文」。  元々は美術を勉強したい自分に向けてのメモみたいな感覚で始めていたそれだが、気がつけば「読んでます」と言われるようになり、私自身もナントカがおだてりゃ…で通信芸大に行き、学芸員資格も取得し、noteにも(目標とする頻度には全然足りないが)定期的に記事を投稿できるぐらいにもなってきた。  一方でがっつりSNSの枠で投稿を続けることの難しさ・弊害というのも感じるようになってきている。  たとえば、行っ

          99人のため、1人のため

          【画像24枚】「平野杏子展 -生きるために描きつづけて」(平塚市美術館)

           子育て等の悪夢から見たきっかけに具象絵画から抽象絵画へと進み、そこから更に仏教芸術の要素をミックスするなど、複数回にわたる作風の変遷を繰り返した平野杏子。抽象画と仏教芸術のミックスはポップアートのようなコラージュ調でもあり、一方で構図に対する関心も伺えます。  卵や目玉などのモチーフを描きつつも、後期に入るとブランクーシ?な抽象彫刻もあり点描もあり民藝調もあり…自分の感情に正直に、描きたいもの、造りたいものを制作し続けたという印象です。個人的には点描の《青海波》、民藝調の

          【画像24枚】「平野杏子展 -生きるために描きつづけて」(平塚市美術館)

          雑な読書術 - ビジネス書を30分で読む

           さらば青春の光のコントで、森田哲矢さん扮する小説家の横に居合わせた小説家のファン(東ブクロさん)が、速読術を使ってものの数秒で彼の小説を読破するというコントがある。  もちろんお笑いとしての誇張もだいぶ施されていると思うけど、私自身、現実には作者が見たら「ちょ、ちょっと待って!」「えー!」などと、森田さんに言われかねなさそうな読書というのも正直している。  先に言い訳をさせてもらえば、その背景にはコンテンツの量的な氾濫というものがある。テレビ、ラジオ、映画、そして本… 

          雑な読書術 - ビジネス書を30分で読む

          【写真35枚】「ここは未来のアーティストが眠る場所となりえてきたか?」(国立西洋美術館)

           西洋美術館にとって初めてとなる現代芸術展。しかし、西美の礎となる「松方コレクション」を収集した松方幸次郎はそもそも、若い芸術家達に"本物"の芸術を見せてあげようと意図したと言われております。その"本物"の芸術に触れた芸術家たちは果たして西洋の名作と比肩する作品をものにできているのか、今回の開催はむしろ自然な流れと言えるのかも知れません。  今回の展覧会はアーティゾンの行う「ジャム・セッション」と同様に、西洋美術館のコレクションを活用しつつ、現代芸術家たちの作品がコラボレー

          【写真35枚】「ここは未来のアーティストが眠る場所となりえてきたか?」(国立西洋美術館)

          「ブランクーシ 本質を象る」(アーティゾン美術館)

           思えば私が美術のことを勉強し始めた時、そのときに初めて知った名前の一つが今回のブランクーシ。いわゆる抽象彫刻ということもあり、手がかりの乏しさを感じる人もいるかもしれません。  写実彫刻をやっていた頃はロダンに傾倒し、そのロダンに激賞されるほどの腕前だったそうですが、「大木の下ではなにも育たない」と言い、ロダンの影響下を離れ、独自の道を歩むことになります。それは単純なフォルムかつ、石や金属といった素材との調和を目指したもの。石の彫刻はごつごつと、金属の彫刻はつるつると流麗に

          「ブランクーシ 本質を象る」(アーティゾン美術館)

          「フランシス真悟 - 色と空間を冒険する」(茅ヶ崎市美術館)

           アメリカ、そして鎌倉をメインに活動を続けるフランシス真悟の、国内初の大型回顧展。  画面の形こそマレーヴィチ等を連想する抽象絵画ですが、たとえば〈Infinite Space〉(1,2)の場合、カンバスの隅に重ね塗りの形跡が残っています。よく見るとメインの画面も丁寧に塗り重ねられたハケの後が残っており、まるで夜明けのさざ波を眺めているかのような気分。画面上下にある塗り残しはまるで波打ち際…手仕事の部分が作品に対する想像力をかき立ててくれます。  〈Interferenc

          「フランシス真悟 - 色と空間を冒険する」(茅ヶ崎市美術館)

          「没後50年 木村伊兵衛 写真に生きる」(東京都写真美術館)

           戦前~戦後にかけて、小型カメラのライカを手に街に繰り出し、「ライカの名手」として名を馳せた木村伊兵衛。  その写真は非常に軽やかなテンポに溢れるもの。肖像写真などでは比較的安定感がありますが、自らを「報道写真家」と自称したのはなるほどと。メインの被写体が中央で目立つ隅でカメラマンを怪訝に観ている人をトリミングしていなかったり、素材としての生々しさを残すところはある種報道的だと思いました。  パネル解説によると、プロパガンダを要求された戦中に対し、戦後に入ってからは自己表現

          「没後50年 木村伊兵衛 写真に生きる」(東京都写真美術館)

          「第8回横浜トリエンナーレ 野草:いま、ここで生きてる」(横浜美術館)

           タイトルにつけられた「野草」というのは中国の小説家である魯迅の散文詩集のタイトルより。前回は確か夏頃の開催ということもあり、「楽しい」という印象も強かったのですが、今回は昨今の世相を反映し、シビアな話題に触れた作品が多かったように感じました。「楽しむ」を目的に美術館に行くと面食らう作品が多いかと正直思いますが、かつてジェリコーやゴヤがそうしてきたように、同時代を生きる現代芸術だからこそできることでもあります。  印象に残ったのは、複数箇所に展示されていたトマス・ラファの映像

          「第8回横浜トリエンナーレ 野草:いま、ここで生きてる」(横浜美術館)

          手書きの手帳

           少し前(と言っても半年ほど前)から手帳を手書きに戻した。  元々手帳は数年来手書きでやっていた。そこに深いポリシーがあったわけではなく、単にGoogleアカウントをまともに使っていなかったというだけの話である。「手帳を続けるには高い手帳を買うと良い」と言う話を聞き、数千円払って有名なブランドの手帳を使ったりもして、出来ることなら使える機能を全て使いこなしたいとも考えていた。  しかし2年ほど前、そうやって書き入れたことを何一つやってないという大変由々しき問題が発生した。

          その後のPomera生活

           昨年の春、ポメラ(Pomera、ノートパソコン型・キーボード入力のデジタルメモパッド)のことを記事で話題にした。  以前も書いたが、私が使うようになったきっかけはテレビプロデューサーの佐久間宣行さんがラジオのリスナー投稿をきっかけに話題にしていたこと。芸人さんや放送作家さんに愛用者が多いとのことで、私も1年ほど使っていなかったポメラを再び使うようになっていった。  その後、現在に至るまでポメラとのお付き合いはずっと続いている。特に学芸員資格の実習の際、提出する日誌を書くと

          その後のPomera生活