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「吉田博 木版画の100年」(MOA美術館)

 吉田博が木版画制作を本格化するきっかけとなった外遊から今年で100周年とのこと。吉田は全版画集を持っているぐらい好きな画家の一人で、MOAのコレクションが群を抜いて優秀なのも承知しているので(版が若く線がシャープで、画面のクリアさが段違いです)、今回は音声ガイドを使用しました。BGMなし、淡々と語る男性ナレーターの音声が非常に心地良いです。

 吉田が特に重要視したのは対象に対する「体験」。(吉田曰く)ストーブに当たったままでは感じることのできない場の空気・温度を感じるため、吉田は積極的に山に登り舟に乗り、描く相手との関係性を深めていきます。吉田の富士山が恐ろしく美しいのも、剱岳の朝焼けに静かな感動が伴うのも、きっとその体験が反映されているからなのかも知れません。対象の形を単にトレスするだけでなく(それだけを見ても相当の技量ですが)、細やかな光彩など、場の空気感・雰囲気を表現するための細かい彫りの技術も素晴らしい。

 一般論として、体験が絶対必要ということは無いと思いますが、確かに吉田の作品は風景画・風俗画が基本で、歴史画・宗教画を見た記憶がありません。その点はクールベの写実主義と重なるところもあり、現実世界の中に潜んでいる「感動」を表現した点も重なります。映像展示ではその手法を「東洋的」と表現していましたが、個人的には写意(東洋)と写実(西洋)の結婚を果たした、絵画としての理想形を感じました。

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 今回は細かい彫りの施された版木や現在の風景写真との比較展示もあり、展示数70とそう多くないながらも(数年前の巡回展が確か240とか)、吉田博の作品をどっぷり堪能できます。MOA美術館は観光地にある関係上、風光明媚な観光地の一つとして巡ってくるお客さんも多いと思いますが、老若男女問わず、だいたいのお客さんが「すごい」「これが大正時代の作品?」と舌を巻いていたのが印象に残りました。

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