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「杉本博司 本歌取り 東下り」(渋谷区立松濤美術館)

本歌取りというのは和歌などで言う、有名な古歌のフレーズを自作に取り入れる手法とのこと。古典を引用・翻案する創作手法自体は古今東西を問わず存在しますが、そうして出来上がった作品にはオリジナルと同じかそれ以上の高いクオリティが求められるとのこと。
 
本展は姫路で開催された「本歌取り」展の関東バージョンで、最初の順路である地下1階では北斎の《凱風快晴》(通称赤富士)にちなんだ新作《富士山図屏風》が初公開。朝焼けに映る山の稜線がとにかく美しいです。おそらくアナログの大判カメラを使ったものだと思うんですが(違ってたらすみません…)、写真自体が幻想的であることに加え、屏風にプリントされた質感に妙な絵画性もあって、ずっと観てられるのに不思議な画面。屏風が立体感の錯覚を促しているところもあるかと思いました。
地下1階ではもう二点屏風作品(一つは姫路城、もう一つは春日大社の藤棚)が展示されていますが、杉本博司の水平性とでも言うのか、「ずっと観てられる」画面の安定感が尋常じゃないです。横の連続を可能な限り見せたくて、今回の写真は全て横長画面での撮影にしました。
 
エレベーターをつかって2階に進み、絨毯フカフカ展示室で最初に観たのが破損した〈海景〉3点。パネルによると90年代から杉本は〈海景〉シリーズの作品を屋外展示し、あえて写真の経年劣化を楽しむという趣向を凝らしているのですが、実際に劣化が観られたのは防水パネルが破損、洪水被害を受けたこの3点とのこと。〈海景〉としての姿はほとんど残っちゃいないのですが、えも言われぬ味のある陶磁器の地肌を観ているような気分になります。
そして写真の印画紙と現像液を利用した「フォトグラム書道」によるいろは歌も登場。「火遊び」(ギャラリー小柳)の時も書いた通り、カテゴリーとしては写真でもあり書道でもありなのですが、暗室で描かれる書道はより直観的で、勢いの良さが光ります。部分的に白髪一雄の要素もあるのかなと思いました。
 
画面の安定感を追究する杉本博司の魅力、そしていつかは消えてしまうという種の儚さを愛でる杉本の美的感覚。その両輪を感じられる素晴らしい展覧会でした。ちなみにJR渋谷駅前に《富士山図屏風》の巨大パネルもございますので、興味のある方は是非。

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