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クアッド及び中国の重要技術評価(6)(ASPIの報告書)

本記事は、クアッド及び中国の重要技術評価(5)(ASPIの報告書)の続編である。前回までの記事は、以下のリンクを参照。

2.本記事読後の感想
  本報告書で良かった点は、クアッドと中国の立ち位置が分かりやすく示されていたことであろう。例えば中国が統制経済・粗製乱造ということは良く知られているが、特許の出願国件数や特許資産指標などで客観的に理解できるようになっており、知的財産のデータが分かりやすく整理されている。またオーストラリアが医療で優れた成果を出していることは知らなかったため、同盟国や同志国の現状を把握するという点においても有益な情報が多分にあった。対して日本の成績の悪さが露になった点は残念だが、これは現実として受け入れざるを得ない。
  不満があるのは、選択された4つの技術が必ずしも中核的なものとは言えない点である。どれも潜在的に巨大な経済価値を有しているものの、地政学的状況や戦略を一変させるにはやや影響力に欠けているように思われる。まず、水素については相対的に長期間研究されてきたものであり、目新しいものではない。むしろ最近の電気自動車の動きで開発が阻害されており、こういった点を考慮するのであれば蓄電池技術の方を取り上げるべきだったのではないかと思う。太陽光発電では温室効果ガス排出削減の流れで取り上げたのだろうが、技術的にはむしろ飽和状態にあり、これ以上のイノベーションがしばらく期待できない。また太陽光が不安定なもので考えると、太陽光発電に過度に注力することにより、むしろ他の技術開発への資源が奪われる可能性すらある。遺伝子工学は有力な技術であり、この4つの中で唯一的適切に取り上げられものであろうが、農作物に関しての言及が少ない点が残念だった。人間の遺伝子の取り扱いは人権や倫理的な問題からその進展があまり望めず、農作物などの食糧確保の方が重要ではないかと思われる。ワクチン及びバイオテロ対策はコロナウィルスのパンデミックに多分に影響されたものであり、やや流行りに乗り過ぎているように思われる。高齢化社会が問題視されている現状においては、むしろ介護などの終末医療の方が重視されるべきだったのではないだろうか。
 私が選択するのであれば、量子技術、人工知能(ロボット含む)、サイバー能力、遺伝子工学といったところになるが、これらは情報の入手や評価が難しく、報告書の形にまとめるのは難しいということなのだろう。今後人工知能なども扱う予定があるということなので、新しい報告書でどのような内容が提示されるのかが楽しみである。
  最後に、本報告書を読んだ上で日本人が認識するべきことについて簡単に述べたい。まず保守系論者で妙に日本を持ち上げたり希望があるといったことを喧伝する人がいるが、こういった人は有害でしかない。保守系論者の多くは、日本はもはや基幹的な技術を有しておらず、また技術も多様化しており全ての分野でトップクラスに留まり続けることが難しいという状況を理解していない。半導体ばかり強調したり、一部のマニアックな技術が優れているからと言ってまだ終わっていないなどと、現状を把握していない情報にまみれてしまえば、経済的に成功を収めることもできず、ましてや優れた戦略を策定することもできなくなる。絶望するのは良くないが、日本に希望を持たせるような言説のほとんどは単なる気休めでしかない。政策目標が立派でも予算や人員が足りていない、そもそも機微技術を把握していない、真に必要な技術を認識していないなど問題が山積しており、これまでの在り方を抜本的に改めなければ世界との競争に打ち勝つことはできないのである。10兆円ファンドで逆転などと言った簡単な話ではないのである。
 今回の報告書は各国の現状を教えてくれている。日本は4技術全てでほぼ下位に属していたことを考えると、クアッドの後進国であるという認識せざるを得ない。今後、同志国とどのようにして現実に対応していくのかを現実的かつ科学的に考え、10年は色褪せない戦略を策定しなくてはならない。日本には優れた識者が少なからずいるのであり、こういった人々の提言が適切に採用される体制が整えば、戦略が定まることだろう。また戦略に沿った予算配賦と職員の増強も不可欠である。今回の報告書では日本の本音と建前の乖離も明確にしている。核技術に関して政策目標があるが、その目標に見合った体制に不備がある、目標を達成できていないという点が繰り返し指摘されている。戦略に満足せず、その実現に向けて必要な資源を割り当てるというところまでを含めて戦略であるということを十分理解するべきだろう。

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