見出し画像

中露の宇宙事業協力について(RUSIの記事)

写真出展:Mohamed HassanによるPixabayからの画像https://pixabay.com/ja/users/mohamed_hassan-5229782/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=7774875

 2024年3月5日に英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)は、中国とロシアの宇宙事業協力に関する記事を発表した。内容は、ロシアが発表した国際月面研究ステーション計画について考察し、今後の展開を展望するものである。
宇宙事業はアメリカを中心とした欧米諸国が先行していたものの、ここ10年ぐらいは中国の台頭が著しく、ここにロシアが加わってくるとなると、西側諸国との対立関係が明確になって来る。宇宙の問題は単なる技術の問題だけでなく安全保障問題にも直結しており、政治の潮流を占うものとして認識しておくべきものである。今後の国際政治を考える参考として、本記事の概要を紹介させていただく。

↓リンク先(Russia and China Reaffirm Their Space Partnership)
https://www.rusi.org/explore-our-research/publications/commentary/russia-and-china-reaffirm-their-space-partnership

1.RUSIの記事について
 ・ロシアの宇宙開発国営企業であるロスコスモスのボリソフ代表は、2033年から2035年の間に、月面に無人の原子力発電所を建設する計画を発表した。この発電所は、中露による国際月面研究ステーションのために建設される予定のものであるが、この発言はロシアが衛星軌道上に核兵器を配備するといううわさが流れる前に出てきたものであり、中露による宇宙の兵器化が懸念される所である。
 ・月面での活動には大量のエネルギーが必要となるが、既存の発電方式では到底賄えない。例えば、月の夜は2週間継続することから、太陽光発電では小型の探査機などを走行させるだけで精一杯である。このため、原子力発電所が候補となるのは至極当然である。事実、中国は月の南極に原子力基地を建造することを計画していたとされており、NASAも核分裂エネルギー事業を計画している。どの計画も2030年代中盤に完了する予定であるが、各種課題が山積しており、必ずしもこの通りに進むわけではなさそうではある。
 ・中露の宇宙事業協力の歴史はそれほど長くはない。2014年から徐々に形になり始め、NASAがアルテミス計画を発表した直後の2021年3月、国際月面研究ステーションの建設を発表するなど、欧米に対抗するよう動いており、この後、中国国家航天局は141.5億ドル、ロシアは34.1億ドルの予算を計上した。ロシアは原子力技術に一日の長があり、中国は資金力を生かして双方の強みを生かそうとしている。
 ・ただロシアは、今苦境に立たされている。ウクライナ戦争以降の経済制裁により、宇宙事業に必要な物資を入手することができていないだけでなく、国際宇宙ステーションの枠組みからも外されつつあることから、中国と組むことで何とか劣勢を挽回しようとしている。しかし中国はロシアとの協調について消極的な姿勢を見せており、2022年9月パリの国際宇宙会議においても、ロシアの宇宙事業について特に言及せず、国際月面研究ステーションの取組も既存の枠組みを拡張したに過ぎないとしていた。今回ロシアが発表した事業がどの程度ものになるのかは不透明である。
 ・中国にとって、ロシアは扱いが難しいパートナーである。もし衛星軌道上にロシアの核兵器が配備されれば、中国が整備した既存のインフラが危険にさらされるのであり、ここ数十年の尽力が水泡に帰す可能性がある。また協力を進めることで政治的な喧噪に巻き込まれる可能性もあり、ロシアに深くコミットすることで中国も苦境に陥る可能性がある。ただ2030年に国際宇宙ステーションが解散される状況となっている中、中国は天宮宇宙ステーションで有人調査を継続しており、宇宙事業の第一人者としての立場を固めつつある。ロシアの振る舞いにより難しい関係となっているが、両国は強調し続けていくこととなるだろう。

2.本記事についての感想
 独裁国の弱点は、他の独裁国と協調を取ることが困難というものである。今回取り上げたこの中露の取組についても、おそらくは同床異夢であまりうまくはいかないだろうと予想している。
 ただ、こういった情報が発表される背景については理解しておかなければならない。今回はロシアの独断専行だと思われるが、中国が否定するような声明を出していないことから、協力関係を解消する考えはなく今後も連携が深まっていくことになると予測される。中国の天宮計画の展開を見定めつつ、ロシアとの協調がどの程度のものとなっていくのかを慎重に見極めていく必要があるだろう。
 本来、日本はこういった動きに対処していかなければならないのだが、宇宙事業に関しては遅れを取っているように見える。裏金問題で権力闘争にかまけている間、重要政策が先送りされているように見受けられ、特に科学技術政策に関しては停滞しているのが正直な所であろう。次回の選挙では科学技術政策が争点の中心になることを望みたいものである。
 
英文を読んでわからないという方は、メールにて解説情報をご提供させていただきます。なにぶん素人の理解ですので、一部ご期待に沿えないかもしれませんので、その場合はご容赦願います。当方から提供した情報については、以下の条件を守ったうえで、ご利用いただきますようよろしくお願いいたします。

(1) 営利目的で利用しないこと。
(2) 個人の学習などの目的の範囲で利用し、集団での学習などで配布しないこと。
(3) 一部であっても不特定多数の者が閲覧可能な場所で掲載・公開する場合には、出典を明示すること。(リンク先及び提供者のサイト名)
(4) 著作元から著作権侵害という指摘があった場合、削除すること。
(5) 当方から提供した情報を用いて行う一切の行為(情報を編集・加工等した情報を利用することを含む。)について何ら責任を負わない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?