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少しだけ運が良かった

「しまった」と口に出しても遅かった。

17時を回る頃から強烈な頭痛が始まり、西の空を見上げると終末を予感させるような空模様だった。
真っ黒い雲から逃げるように定時で仕事を切り上げ、電車に飛び乗り窓を叩く雨粒に何とか間に合ったと胸を撫でおろしたのも束の間。
いつも常備している折り畳み傘を会社に置いてきたことに気付き、ため息とともに冒頭のセリフを吐き出した。

余計な出費になってしまうが、家の最寄り駅で傘を買おうか…。
幸いなことに家の近くの駅にはショッピングモールがあり、物を買うには困らない。
一縷の望みをかけ車窓を眺めるも横殴りのような雨音しか聞こえない。
明日から季節が変わるせいか暗くなるのが早くなった。
頭痛もするので、最寄り駅に着いてから考えることにして瞼を閉じる。

幸いなことに最寄り駅に着いたら雨は止んでいた。
ここが考えどころである。
傘を買って安全に帰るか博打のように雲の隙間を縫って帰るか悩ましい。
結局、一刻も早く家に帰りたいという願望のもと直帰する道を選んだ。

側溝に落ちる泥水の音や水没した横断歩道など情緒の欠片もなかったが、家まで残り半分という所まで無事に進んだ。
「勝ったな」とほくそ笑んだが、直後に耳を劈くような雷が轟いた。
距離は少しあるようだが、相手に300ダメージを与えるどころか相手の場を全破壊しそうな音である。

驟雨も降り始め判断を間違えたかと悔やんだが、もう家は目と鼻の先。
結局、肩を少し濡らしただけで冒険のような帰り道を無事に帰ることができた。
最後は「助かった。ありがとう。」と誰に伝わることもない感謝が玄関に響いた。
そんな少しだけ運が良かった帰り道の話。

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