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『十二国記』シリーズ読み終わった。

今年2月に石巻の石ノ森萬画館で開催されていた「山田章博原画展」を観に行った影響で「十二国記読みたーい」という気持ちが強まり、1巻から再読を開始。約半年間かけてようやく全巻読み終わりました。

まずはシリーズ全体の感想から。
日本発のファンタジーノベルとして高い人気を誇る本シリーズ、様々な登場人物の心の葛藤と成長を軸に、人と人が関わることでいかに「変わることが出来るのか」、その可能性を克明に描いており、読む人の心を前向きにする力を持った作品だと思います。また、”王”や”麒麟”と言ったこの世界独自のルールに基づいた役割は、社会を形成する大事な要素にもなっており、同時に時として枷枷となったり、人物同士を深く結びつける要素となりながら、この壮大な十二国の世界に深みを与えていました。この点で、「人が成長すること=国が治まる」という構図になっているので、世界観に奥行きがあるし、わかりやすい。ティーンから大人まで広範囲に届く理由はここら辺にあるのだろうな、と感じました。個々のキャラクターの魅力も本シリーズを支える大きな要素であり、通して読んできた人ならばきっと好きなキャラクターが見つかることでしょう。ちなみに私が一番好きなのは珠晶です。次点でネズミ。総じて言えば、日本怪異と中華ファンタジーの魅力が掛け合わさった世界観、「意思の強さが人や国を動かす」という物語全体に流れる哲学、清濁併せもちながら必死に生きていこうとする登場人物たち……などなど語るべきところが多く、私にとっても心に残る作品となりました。後追いながら多くの人に愛されている理由がわかった気がします。

巻ごとに色合いが変わるのもこのシリーズの特徴で、序章にあたる『魔性の子』ではモダンホラーを、物語の始まりにあたる『月の影 影の海』では中華ファンタジー風な世界を放浪する少女の成長譚を、王と麒麟の関係性に焦点をあてた『東の海神西の滄海』では戦乱と政争を……というように方向性を変えながら、十二国の世界を掘り下げていきます。人は誰しもが理想を持って生きていて、その理想は簡単に成し遂げられるわけじゃない。登場人物の中には"未熟さ"が目立つ者もいますが、どの巻においても何らかの形で「成長する機会」が用意されており、そこに作者である小野不由美先生の優しさや哲学を感じました。同時にそれは物語の力強さ、十二国記シリーズのしなやかな印象にも繋がっています。特にシリーズ屈指の明るさを誇る『図南の翼』にはそんな前向きな部分が強く宿っています。『図南の翼』は国王不在の国、恭国を救うべく昇山を決意した12歳の少女・珠晶と、旅の道中で出会う仲間たちとの骨太なロードノベル。陰鬱になりがちな十二国記シリーズの中で清涼剤のように爽やかな印象を与えてくれる巻で、心揺さぶられる読書体験でした。

さて、ここからは最新刊『白銀の墟 玄の月』の感想を少々。おそらくこれは「制度」の中でどれだけ「自分の意思」を貫けるかという話なのだと思います。物語は失踪した泰麒が戴国に戻り、いなくなった驍宗を探すというもので、登場人物が多く、巻数もこれまでで最長の4巻分なので読むのに結構時間がかかりました。前半2巻分は仲間集め&状況を整えていく段で、じっくり各人物の動向を描きます。後半はついに驍宗の行方がわかり、救出劇が始まるので活劇部分も含めて読み応えがありました。驍宗と阿選の違いは相手の眼差しから何を受け取るかという部分にあり、驍宗は相手の目から「自戒」を、阿選は相手の目に「軽蔑」を感じた。よく似た存在であった二人の片方が王となった所以はここにあるのでしょう。
また、「天意」というシステマチックでありながらもどこか恣意的な「制度」。このルール自体を覆すことが出来ないのであれば、その中で何が大事なのかを選び、それを守るために禁忌を犯してでも意思を貫こうとする覚悟。これこそが今作で泰麒に与えられた役割であり、麒麟の本性を自ら離れ、手段を選ばず動き回り王を迎えに行こうとする泰麒の姿には、言葉にならないものがありました。

物語はまだ全てが片付いたわけではありません。なのでこの先は次巻を待つしか無いですね。全部読むのに半年ほどかかりましたが、楽しく充実した時間となりました。小野不由美先生、ありがとうございました。


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