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『シアター・キャンプ』Make you happy!

なんだかとっても「ハッピー」な気分になる映画でした。
話の筋は以下の通り。

ニューヨーク郊外にある緑豊かな湖畔には、「アディロ・アクト」という名のミュージカル・スターを目指す子供たちのスクールがあり、今夏のキャンプが目前に迫っていた。だが、長年そこで校長を務めていたジョーンが突然倒れたことから、演劇経験のない息子のトロイが経営に乗り出し、キャンプの続行を試みる。実はアディロイド・アクトの経営は火の車で、スクールを存続させるためには出資者の心を動かすようなミュージカルを披露しなくてはならない。期限は残り3週間、やんちゃな子どもたちに、変わり者の先生たち、果たして無事傑作ミュージカルを魅せることはできるのか――。

モキュメンタリー。それはドキュメンタリーに見せかけたフィクションのことで、これによって観客は劇中に起きていることが、まるで現実で起きた出来事かのような錯覚を覚えます。体感的には2010年代くらいから頻繁に見かけるようになった手法で、この『シアター・キャンプ』でもそんな撮り方が採用されています。なので妙なところで字幕が流れたり、映像的には手ブレも多く、カットもころころ切り替わっていくのですが、そうすることで作中人物は実在感を増し、少々変わったところのある先生たちも「いるいるこういう人~」という和やかな気持ちで観ていられるでしょう。

パンフレットによると脚本は製作者4人が共同で手掛けていて、さらに出演者に合わせて脚本を書き換えているとのこと。結構大変な作り方だと思うのですが、それが即興劇にもつながるので、子どもたちの演技は自然に見え、物語に真実味が加わっています。私が観ていて何よりいいなあと感じたのは、映っている子どもたちの楽しそうな姿で、彼らがカメラの前で羽を伸ばしイキイキと演技をしている光景こそが、この作品全体に活力と明るさをもたらしている気がしました。

ちなみに、子どもたちは性的嗜好や家庭環境によって色んな事情を抱えているようだけど、物語はあまりそこにフォーカスせず、どちらかと言えばトロイ(ジミー・タトロ)の空回りっぷりだったり、レベッカ(モリー・ゴードン)とエイモス(ベン・プラット)のすれ違いに焦点を当て、そこを軸として展開していきます。その上で、先生や子どもたちのわちゃわちゃした姿が短いスパンでさくさく描かれていくので、楽しい反面、少々集中力がいるかもしれません。

また、コメディとしての面白さはネイティブな英語を理解できる人の方が伝わる気がします。しかし、子供たちの演技を見ていると、楽しそうな雰囲気は確かに伝わってくるので、不思議とホンワカした気分になるでしょう。おそらくこれは「モキュメンタリー」という手法と、どこからどこまでが「アドリブの演技」なのかが分からないことの"相性の良さ"によるもので、そのまま普通に映画にしてればなんてことない話のはずが、そういったシニカルな目線をひとつ通り越したうえで、素直にハッピーな気分にさせてくれるのです。特にラストのミュージカルはとても素敵で、みんなにとって安心できる「居場所」はまさにここなんだ!ということを理屈ではなく映像と演技によって魅せてくれました。
経営難や子どもたちの性的嗜好については何となく勢いで片づけられますが、観終えての気分は「ハッピー」そのもの。
監督は二人ともかつてサマーキャンプに参加していたことがあるらしく、インタビューを読んでいると「こんな素敵な場所があるんだよ」ってことを伝えたかったんだろうな、という気がしてきます。

90分というコンパクトな中にいろいろぶち込んでいて、映像的にも映画というよりはドキュメンタリーの手触りに近いですが、観た人を元気に、しあわせな気分にしたいという作り手の思いが伝わってくる良作です。ミュージカル好きはもちろん、なんかハッピーになりたい~、という方におすすめの映画でした。

追記:
今作はサーチライト・ピクチャーズが手掛けた作品で、近年の作品群を見てみると『イニシェリン島の精霊』、『ノマドランド』、『ジョジョ・ラビット』等、上質な作品ばかり。勢いがある製作会社のようなので頭に入れておこっと。

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